解決 疑問に答える“事件のミカタ危険なご当地運転 “松本走り” そのワケは

2022年6月24日社会 事故

交差点を直進する際に、対向車線の車が強引に右折して目の前を通り、ヒヤッとしたことありませんか?

こうした危ない運転、ご当地ごとに呼び名があります。

“松本走り”
“茨城ダッシュ”
“伊予の早曲がり”

「強引な運転をする車が多いのは、何かワケがあるのでしょうか?」

NHKに寄せられた疑問にお答えすべく調べてみました。

(長野放送局記者 斉藤光峻 大谷紘毅/水戸放送局記者 藤田梨佳子)

「松本走り」ってどんな運転?

こちらの動画。

青信号で直進する車がいるにもかかわらず、やや強引に右折する車が見られます。

クリックすると動画が見られます

撮影されたのは長野県松本市内の交差点です。

長野県内ではこうした運転を「松本走り」と呼ぶことがあります。

明確な定義はありませんが、「対向車がいるのに強引に右折する」「青信号に変わると同時に右折する」といった危ない運転を指す言葉として使われています。

危険な”ご当地運転”は各地で

「松本走り」のような運転は、各地で問題視されています。

<茨城県>
茨城県では、交差点で停止した車が青信号に変わった瞬間やその直前に急発進して、直進車よりも先に右折する運転について、「茨城ダッシュ」と呼ばれることがあります。

対向車との衝突の危険があるだけでなく、加速しながら横断歩道を通り抜けるケースもあるため、歩行者にとっても非常に危険です。

<愛媛県>
愛媛県でも、対向車が接近しているのに強引に右折する運転は「伊予の早曲がり」と呼ばれて問題になっていて、警察が取り締まりを強化しています。

疑問を寄せてくれた中村さん

今回身近な疑問を寄せてくれた中村哲也さんは、8年前に長野県安曇野市に移住しましたが、「松本走り」を目の当たりにして驚いたそうです。

中村哲也さん
「直進しようとしたら対向車線から右折する車両が突っ込んできたんです。びっくりして急ブレーキを踏みました。ほかの県では見たことがないのに、この地域では何度も見かけるので何か理由があるのではと思って」

「松本走り」が直接の原因かどうかわかりませんが、去年(2021年)松本市内で起きた右折車と直進車の事故(バイクを含む)は約30件でした。

交通ルールにも違反

実はこれらの運転は危ないだけでなく、交通ルールにも違反しています。

▽交差点を徐行しないなどの行為は「交差点右左折方法違反」
▽直進車両を優先せずに右折すると「交差点優先車妨害」
▽歩行者が横断歩道を渡ろうとしているのに、一時停止をせずに進むと「横断歩行者等妨害」

それぞれ反則金の納付対象です。

ルール違反の強引な右折はなぜなのか。
「松本走り」のご当地・松本市で背景を探りました。

ドライバーたちの声「後ろが渋滞すると慌てて」

まずは地元の人たちに、話を聞いてみました。

タクシードライバー

基本的には道が狭い。後ろが渋滞するとイライラしてしまうので、ちょっとしたスペースがあれば強引に入っていくのでは

右折の矢印信号がない道が多いので、後ろが詰まっていると慌ててしまうのかも

街の人
街の人

渋滞しているので逆に信号が変わったときに早く渡ろうと思うのかな

このほかにも「後続の車を待たせたくないので早く右折する」という意見や、「右折のほうが直進より先だと聞いたことがある」など明らかにルールを誤解しているような意見もありました。

地元の人から話を聞いて、松本走りは「右折の矢印信号」「道路の幅」が関係しているのではないかと推測して取材を進めました。

「松本走り」なぜ? ①右折信号の数

そこで右折信号のある交差点の数を調べることにしました。

すると、県庁所在地である長野市中心部などを管轄する長野中央警察署と長野南警察署の管内では、人口1万人あたり3点6か所

これに対し、松本警察署管内では3点1か所

また、疑問を寄せてくれた中村さんが住む松本市の隣の安曇野警察署管内では2点2か所でした。

松本市や安曇野市ではやや少ないことがうかがえます。

「松本走り」なぜ? ②道幅の狭さ

道幅についても調べました。

右折レーンなどを設けられる片側2車線にするには13メートルの幅が目安となります。

しかし松本市には幅13メートル以上の国道はありません。

さらに松本市が管轄する市道で、13メートル以上の幅がある道路が占める割合は、長野市と比べて少ないこともわかりました。

これらの取材の結果、こう仮説を立てました。

“右折信号が少なく道幅が狭いという事情から、「右折がなかなかできないから、無理をしてでも右折する」という意識が生まれ、広がってしまった”

取材の結果立てた仮説

強引な右折なくすには?

では強引な右折をなくしていくには、どうすればいいのでしょうか。

まず右折信号の効果について、交通工学が専門の愛知工科大学の小塚一宏名誉教授に聞きました。

愛知工科大学 小塚一宏 名誉教授
「愛知県では強引な右折のことを“名古屋走り”と呼ぶことがありました。愛知県内の交通事故死者数は16年連続で全国ワーストでしたが、右折信号などを積極的に導入したところ事故死者数が減り、全国ワーストの汚名を返上できました」

右折信号を増やすと事故が減ったという他県の事例です。

松本市でも同じように対応できないのか、市に取材すると次のような回答がありました。

「右折信号を導入するには道路を拡幅する工事が必要ですが、城下町ならではの事情もあり、工事には時間がかかってしまう」

実際に松本市では道路の拡幅工事を進めていて、昨年度(2021年度)までの9年間に10か所以上の右折レーンを市道に設置しました。

ただ城下町特有の歴史的建造物があるなどの理由で、簡単には道路の幅を広げることはできないといいます。

市の広報誌

このため松本市では3年前に、広報誌の特集で注意を呼びかけ。

危険性を訴えるカルタも作成しました。
子どもの頃から“強引な右折は危険”という意識を持ってもらおうと取り組んでいるのです。

強引な右折の危険性を教えている自動車学校もあります。

長野県内の自動車学校では正しい交通ルールを教える一環として、地域特有の運転について注意を促しています。

自動車学校の指導員

穂高自動車学校 関口明広 指導員
「松本走りなどの悪い習慣は、これから免許を取る人たちがなくしていかないとなくなりません。悪い習慣に流れてしまわないように正しいルールを忘れずに運転してほしい」

専門家「反則金対象の違法行為と周知」

藤井聡 教授

さらに交通計画や交通心理学に詳しい京都大学大学院の藤井聡教授は、ドライバーの規範を変える必要性についてこう指摘しています。

京都大学大学院 藤井聡教授
「強引な右折が反則金の対象になる違法行為だと周知することが、規範を変えるために重要な第一歩です。松本走りが減らないのであれば取り締まりを強める取り組みも必要だと思います」

そしてドライバーの心の持ちようについて、こう強調しました。

「ドライバーひとりひとりの倫理やモラル、マナーは私たちの行動に大きな影響を与えるので、とても重要です」

取材後記

今回疑問を寄せてくれた中村さんに取材の結果を伝えると、「科学的に調べてくれてよかったです。事故に至らないヒヤリ・ハットは多いと思うので、危ない“ご当地運転”が減っていけばいいですね」と話していました。

疑問を寄せてくれた中村さん

3年前に大津市の交差点で直進していた車が右折車と衝突したはずみで歩道に突っ込み、保育園児2人が死亡した事故では、右折車のドライバーが過失運転致死傷などの罪に問われ、禁固4年6か月の判決を受けています。

悲惨な事故が1件でも減るように。
今後も取材を続けていきたいと思います。

  • 長野放送局 斉藤光峻 2017年入局
    現在、警察・司法担当のキャップ。
    軽井沢町で起きたスキーツアーバス事故の取材を一貫して続けている。
    趣味はスキーとワイン。

  • 長野放送局記者 大谷紘毅 2021年入局。警察・司法を担当
    最近関心がある分野は交通関係

  • 水戸放送局記者 藤田梨佳子 2021年入局。
    警察・司法を担当。
    地域の人にとって身近な犯罪を深掘りします。