「生前退位」 実現までの流れは…

天皇陛下の生前退位のためには、皇室典範を改正して生前退位を制度化することや、天皇陛下の一代に限る形で特別に法律を制定することなどが考えられます。

皇位継承資格の拡大や女性宮家の創設など、皇室制度の見直しを巡るここ最近の議論では、政府の有識者会議が設けられるなどしていて、今回も同じような経過をたどるものと見られます。その場合、有識者会議がまとめた報告書に基づいて、政府が皇室典範の改正案か新たな法案を国会に提出し、国会の場で審議されるという流れが考えられます。

「生前退位」に向けた課題

皇室典範を改正して「生前退位」を制度化する場合、年齢や心身の状態に条件を設けるかや天皇の意思表示が必要かなど、退位の要件をどう定めるかが大きな課題になります。また、天皇がどのようにして意思を表し、それをどう確認し、誰が退位を認めるのかなどの手続きについても、退位の強制を防ぐという観点から議論の対象になりそうです。

さらに、退位後の天皇の位置づけをどうするかも課題です。歴史上、譲位した天皇には「太上天皇」の尊称が贈られ、「上皇」という通称で呼ばれてきましたが、新たに呼称を決めなければなりません。

新しい天皇との関係や、どのように公務に関わるのかも課題になります。このほか、お住まいの場所や生活のための予算、それに、宮内庁の組織や体制などの検討も必要で、皇室経済法や宮内庁法など関連する法律の改正も求められそうです。

一方、天皇陛下に限って退位が可能となるよう特別に法律を制定する場合でも、同じように退位の要件などが議論の対象となる見込みで、いずれの場合にも大がかりで精緻な仕組みづくりが必要になります。

「生前退位」で元号も変わる

仮に、天皇陛下が生前に退位されて皇太子さまが新たな天皇として即位されると、元号が平成から新たな元号に変わることになります。

昭和54年に制定された元号法では、「元号は、皇位の継承があった場合に限り改める」とされています。天皇の「生前退位」が認められていない今の制度では、天皇の崩御で皇位が継承されたときにだけ元号が変わりますが、天皇の退位によっても元号が変わることになります。

関係者によりますと、天皇陛下は、数年内の譲位を望まれているということで、仮に4年後に東京で開催されるオリンピックとパラリンピックの前に退位されると、東京オリンピック・パラリンピックは、皇太子さまを天皇とする新たな時代を迎えた日本で開かれることになります。

「生前退位」で皇太子が不在に

今の皇室では、皇太子さまが天皇陛下に代わって即位されると、皇太子は不在となります。皇室制度を定めた皇室典範で、皇太子は、「天皇の子」であって、皇位継承順位が1位の皇族とされているためです。男のお子さまがいない皇太子さまが即位されると、弟の秋篠宮さまが皇位継承順位1位となりますが、皇太子にはなりません。

秋篠宮さまは、皇太子さまの公務を受け継ぐ可能性もあり、今の制度では、予算や職員の数が少ない宮家の皇族のまま活動されることになります。皇室の歴史では、天皇の兄弟や孫を皇太子としたケースや皇位継承順位1位の天皇の弟を「皇太弟」と呼んだケースもあります。

天皇陛下の退位が認められるようになると、秋篠宮さまをどのように位置づけるのかが、にわかに検討の対象となってきそうです。

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退位や即位の儀式も検討

天皇陛下の「生前退位」が可能になれば、天皇陛下の退位や皇太子さまの即位に伴う儀式の検討も必要になります。

平成2年に行われた天皇陛下の「即位の礼」では、皇居・宮殿で内外に即位を知らせる「即位礼正殿の儀」が執り行われましたが、皇太子さまが、新たな天皇として即位された場合にも、同様の儀式が行われるものとみられます。また、天皇陛下の退位の儀式も、歴史をひもときながら執り行われる可能性が高いとみられ、実現すれば、およそ200年ぶりに行われることになります。

幅広い議論必要な大改革に

天皇陛下は、ご自身の年齢と象徴としての務めの重さを考え抜いた末に、宮内庁の関係者に生前退位の意向を示されたものと見られます。今の憲法は、天皇の地位について、「国民の総意に基く」と定めていて、天皇の生前退位は、象徴天皇制を定めた憲法にも関わってくる重要なテーマです。天皇による譲位は、江戸時代後期を最後におよそ200年間行われておらず、「生前退位」には、近代以降の天皇制の仕組みの大規模な改革が必要になります。

日本は4人に1人が65歳以上という高齢化社会を迎え、今の皇室制度を定めた皇室典範が制定された頃とは大きく様変わりしています。天皇陛下の意向にも配慮しつつ、高齢となった天皇の象徴としての在り方について、時代に即した幅広い議論が求められます。