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コロナ禍で夢さえもあきらめるのか 困窮する留学生たち2020年8月20日 国際部・紙野武広記者 ネットワーク報道部・國仲真一郎記者

「大学を退学になったらすべてが水の泡、地獄です」
女性は大学4年生で、学費も生活費もみずからのアルバイト代で捻出してきました。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大で収入が激減。授業料の支払いのメドがたたなくなり、このままでは退学のおそれもでてきています。

女性はベトナムからの留学生。
今、経済的に追い詰められている留学生が相次いでいるといいます。

夢は日本で就職すること!

「日本で自立できるようになるまで、ベトナムには帰らない」

こう話すのはベトナムからの留学生、大学4年生のチャンさん(仮名)。流ちょうな日本語で取材に応じてくれました。

5年前に来日。日本語学校を卒業したあと、都内の大学に入学しました。夢は日本企業に入ること。国際的なビジネスに携わりたいと、大学では中国語も学んでいます。

貧しい家庭で育ったチャンさん。仕送りはなく、学費と生活費はアルバイトをしてまかなっています。居酒屋のアルバイトで稼げるのは月に10万円ほど。留学生は許可を得てもアルバイトは週に28時間までしか認められないため、これが限界だといいます。

住まいは埼玉県にあるアパートの1室。日本語学校に通う4歳下の妹と知り合いのベトナム人2人の4人でシェアして、出費をおさえています。それでもアルバイト代から学費を捻出し、家賃や光熱費などを払うと、生活費として残るのは毎月1、2万しかありません。

チャンさんはこの5年、一度も国には帰らず、勉強とアルバイトに打ち込んできました。
「ベトナムではいくら勉強してもお金や人脈がないと就職もできない。日本で自立できるようになるまでベトナムには帰らないと決めてやってきました」

学費にメドつかず 退学の危機に

そんなぎりぎりの生活を送っていたチャンさんに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスでした。

アルバイトによる収入は半分ほどまで減りました。家で野菜を育てたり、エアコンをなるべく使わないようにして電気代を節約したりして、なんとかしのいできました。アルバイトを掛け持ちしたこともありますが、以前の収入には戻らないといいます。

国からの現金給付金や留学生への支援金などを利用して、なんとか前期分の授業料は払うことができましたが、後期分については今もメドはたっていません。さらに日本への旅費など200万円ほどの借金も残ったままです。

この5年間、日本で就職して、日本とベトナムに貢献するという夢に向かって頑張ってきたチャンさん。しかしこのままでは学費が払えず、退学になるおそれがあるといいます。

チャンさん
「日本でたくさんの人にお世話になったから日本で働いて恩返ししたいのに、大学を退学になったらすべてが水の泡。考えるだけで地獄、もう絶望的です。これまで一度もベトナムに帰らずに頑張ってきたのに、もう心が折れそうです」

影響は長期化 困窮する留学生も増える?

日本で暮らすベトナム人を支援するNPO「日越ともいき支援会」には、チャンさんと同じような境遇の留学生からの相談が相次いでいます。多くのベトナム人留学生たちがアルバイトで学費と生活費を工面していて、新型コロナウイルスの影響が長引く中、困窮する留学生は増加する傾向にあるといいます。実際にここには、学費が払えずに日本語学校を退学になり、居場所がなく保護されている人もいるということです。

NPO代表 吉水慈豊さん
「給付金や物資の提供などで食いつないできた留学生も、いまでは目の前の生活が危ぶまれる状況になっていて、国からの継続的な支援が不可欠です。学校側も学費の支払期限を延長する措置をとるなど柔軟に対応すべきです」

「夢を消すな」元留学生が始めた支援

こうした留学生たちをなんとか支援しようと動き始めた在留ベトナム人もいます。千葉県のIT企業に勤めるグエン・ヴァン・トゥックさん(28)は、支援金を集めるためのクラウドファンディングを始めました。

グエンさんも留学生時代、100万円以上の借金を返しながら学費や家賃を支払うために必死でアルバイトをしていました。だからこそ、新型コロナウイルスの影響でアルバイトが減らされたいまの留学生の苦労がよく分かると言います。
グエンさんはプロジェクトのウェブページで生活に困窮している留学生の状況を説明したうえで、こう訴えています。

「新型コロナウイルスの影響で私たちの夢が消えそうです。日本で勉強を続けられるように、力を貸してください。お願いします」

留学生やグエンさんの思いに応えようと、プロジェクトにはベトナム協会や支援団体なども賛同していて、集まった資金は支援団体を通じて留学生のもとに送られることになっています。

  • ホームページより

8月17日、グエンさんの思いが届き、目標額の50万円を超える75万円あまりの支援金が集まり、プロジェクトは終了しました。しかし7万人を超えるベトナムの留学生を支援するには、決して十分な額とは言えません。

グエンさん
「留学生はアルバイトができなくなれば収入はなくなり、学校をやめないといけないかもしれない。彼らがどんなに大変な生活を送っているのか、少しでも知ってもらうきっかけになるとありがたいです」

新型コロナウイルスの影響で、「学費が払えない」など厳しい状況に追い込まれている日本人学生、留学生は少なくありません。日本人も、そして留学生も、誰もが安心して教育を受け続けられるようになってほしい。そう願わずにはいられません。

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