Loading

外国人急増で地方新聞に訪れた変化とはネットワーク報道部・伊賀亮人記者

ことし4月。政府は外国人材の受け入れを単純労働に広げる政策転換に踏み切りました。 この政策について、専門家やメディアの間では、「第3の開国」、「事実上の移民政策」などといった受け止めも広がりました。
実は政策転換よりも前から、すでに外国人住民は、 都市部だけではなく地方でも急増している実態があります。
それを裏付けるように、NHKや全国紙だけではなく、地方新聞の間で今、 外国人住民や労働者に関連した特集や連載を展開する動きが相次いでいます。
さらにそれだけではなく、地方紙はこれまでの取材手法を超えた新たな取り組みを始めています。

“『労働開国』のひずみが地方に”

県や地域単位で新聞を発行する地方紙といえば、地域に根ざした取材で生活に密着した課題などについての報道を強みとしています。その地方紙各社がなぜ今、外国人住民・労働者をテーマとして取り上げているのでしょうか。

そこで実際に取材にあたっている当事者に話を聞いてみました。

「地方で特に深刻化する人手不足を補うことが今回の出入国管理法の改正の大きな狙いですが、これは泥縄式に『労働開国』が進んでいるようなものです。そのひずみは大都市圏よりも地方に顕著に表れると思っています」

そう話すのは福岡市に本社を持つ西日本新聞のクロスメディア報道部、坂本信博シニアマネージャーです。

西日本新聞は3年前から「新 移民時代」と銘打ったキャンペーン報道を展開していて、坂本さんはその取材班を指揮しています。

  • 西日本新聞のホームページ

外国人労働者の急増によって、地方紙の主な読者が暮らす地域社会で大きな変化が起きているというのです。

地方で急増する外国人住民

実際に今、外国人住民は、東京をはじめとした都会だけではなく全国津々浦々に急増しています。

都道府県別 外国人増加率

総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」を基に作成
2013年を100として0〜15%、15〜30%、30%以上に色分け

NHKの分析では、この5年間で実に全1741市区町村のうち約82%にあたる1443市区町村で外国人の人口が増えているのです。

また、こうした中で、人手不足、後継者不足に悩む農業や漁業の現場では“依存”が急速に進んでいます。

県によっては20~30代の担い手のうち半数以上を外国人が占めるところもあるほか、人口減少対策として外国人の存在に着目する自治体も出てきています。

“地域の死活問題”

「共生新時代」というタイトルでことし1月から連載を展開する北海道新聞報道センターの島田季一部次長も、道内ではすでに外国人労働者が地域に欠かせない存在だと話します。

「人手不足は地域にとって死活問題です。北海道で盛んな農業や水産業などでは募集をかけても日本人は集まらないので、技能実習生がいなくては経営が成り立たないという業者もあります。こうした中で今後は外国人住民と一緒に地域をつくっていくという意識も必要だと思っています。一方では、生活面での支援が十分整っていないという現状もありますし、今後、日本人農家や漁業者が高齢化して引退していく中でどのようにより長期的に働く担い手になってもらうかも考えなくてはいけません」

異例の連携へ

さらに今、各社は、メディア業界の慣例にとらわれない、新たな取り組みを始めようとしています。

「『労働開国』のひずみが一番表れる地方で、受け入れる日本人の戸惑い、やってくる外国人の困りごとをすくい上げたい」

西日本新聞の坂本さんが、先月、このように呼びかけた相手は、ほかの地方紙の記者・デスクたちです。

外国人材をテーマに、全国各地の地方紙と情報やノウハウを共有しながら共同で取材・報道を行いたいと提案したのです。

通常、私たちメディアにとって他社は競争相手です。共通のテーマを複数の会社の記者が一から連携し取材をするのは異例なことです。

しかし、外国人住民・労働者というテーマは、地域の課題でもある一方で全国的に広がるテーマでもあるため、1社だけでは取材をする上でも発信していく上でも限界があると感じているというのです。

会議に参加した北海道新聞の島田さんも次のように話します。

「他紙と組むことで他の地域の前向きな事例、モデルケースを紹介できるのではないかと思います。また、技能実習生の労働環境など、地域をまたがる取材は1社だけでは難しく、各地に根ざした取材網を持つ新聞社が連携することより深い取材が可能になると考えています」

また、最近、支社や支局の記者が中心となって外国人労働者の問題を取り上げてきた京都新聞の岡本壮報道部長代理も「地域から見えた課題や実情を地方紙単独で報道するよりも、広い視野で全国的に発信することができると思います」と共同取材に参加する意向です。

課題解決に向けて-

各社は今後、8月ごろから、技能実習生や留学生などを対象に対面でのアンケート調査を実施する計画で、具体的な調査内容などの検討を進めています。

そしてその結果を、改正出入国管理法の下で受け入れが始まる「特定技能」の第1号が来日することが想定される秋ごろに報じる構想です。

西日本新聞の坂本さんは「外国人材の受け入れ拡大について、読者が知りたいこと、当事者が困っていることなど、さまざまな当事者から生の声を集め各社で共有することで一つ一つの課題解決につながる報道ができればと考えています」と話します。

地域社会を大きく変える転換点を迎えているー。各社はそう実感しているからこそ異例の手法での報道に取り組もうとしているのだと思います。

それは業界内の競争を脇に置いた上で、ともに発信をしなければいけない、というある種の危機感すら感じます。

そしてそれは私たちNHK取材班がこの特設サイト「外国人“依存”ニッポン」の取材を通じて感じていることでもあります。

ぜひサイトの「ご意見・ご質問募集」のページから(https://forms.nhk.or.jp/q/9UDTV2TX)、このテーマについて知りたいこと、困っていることなどをお寄せ下さい。皆様の情報を元に取材を進めます。