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なぜ急増「街中のインド料理店」見えてきたものは2018年10月5日 ネットワーク報道部・飯田暁子記者

ある日の通勤途中。居酒屋が閉店した空き店舗で、改装工事が行われていました。
数日後、オープンしたのはインド料理店。あなたの街でもインド料理店が増えていませんか?
そこで働いているのはどんな人なんだろう。調べているうちに見えてきたものは…。

インド料理、だけど料理人は…

まずは、本当にインド料理店が増えているのかを調べてみました。「NTTタウンページ」によりますと、「インド料理」の登録件数は10年前の2008年には569件でしたが、2017年には2162件と4倍近くに急増しています。

それだけインド人の料理人が増えているのか?インド大使館に聞いてみると、意外な答えが返ってきました。

「インド料理店といっても、インド人ではなくネパールの人がやっている店が多いように思います。海外の日本料理店も日本人がやっているとは限らないのと同じですね。インドとネパールは食文化も近いですし」

急増 ネパール人

そこで今度は、日本に住んでいるネパール人について調べてみました。
在留外国人統計によると、日本に住む外国人は2018年6月末時点で263万7251人。統計を取り始めた1959年以降で最も多くなり、総人口の約2%と、日本に住んでいる人の50人に1人は外国人ということになります。

国籍・地域別に見てみると最も多いのは中国、次いで韓国。
しかしここ数年で急激に伸びているのは、ネパールでした。10年前は1万人余りだったのが2018年6月末現在では8万5321人と、10年で8倍になっており、10年間の増加率で見ると同じく急増しているベトナム人よりも高くなっています。

ネパール人が最も多いのは東京で、2万6000人余りと全体の33%を占めています。次いで千葉、福岡、神奈川と、大都市やその周辺に多くなっています。

さらに在留資格を見てみると、2017年12月末現在で最も多いのは「留学」で33%。そして外国料理の料理人などの「技能」も15%で日本にいるネパール人の約7人に1人と高い割合でした。

「インド料理店はネパールの人がやっている店が多い」というのはどうやら間違いではなさそうです。

国外では東京だけ!
ネパール人学校

さらに驚いたことに、東京にはネパール人学校というものまでありました。しかも、ネパール国外では、世界で唯一だというのです。

ということで、実際に東京 杉並区にあるネパール人学校「エベレスト・インターナショナル」に行ってみました。

案内してくれたのは、この学校の理事長でネパール人のシュレスタ・ブパール・マンさん。
ここではネパール本国と同じカリキュラムで、幼稚園児から高校生にまで対応しています。
5年前の設立当初は生徒は10人ほどでしたが、わずか5年で200人余りにまで急増。教室が手狭になったので、2018年夏に今の場所でマンションを丸ごと購入して新たな校舎としたといいます。

どうやらネパール人の子どもなども増えているようです。実際、在留資格のデータを見てみると、日本に滞在するネパール人の27%にあたる約2万人が「家族滞在」。
つまり、就労などの目的で日本に滞在し、その後、配偶者や子どもを呼び寄せようというネパール人が増えているのです。
しかしなぜ、日本にネパール人学校を設立したのでしょうか?

なぜ日本に学校を?

「ネパール人の間で子どもを日本の学校に通わせることへの不安があり、学校を作ってほしいという要望があったのです」
シュレスタさんは、ネパール国外唯一の学校を東京に開いた理由をそう話します。

不安とはどういうことでしょうか?
「日本語は難しい。ネパールの子どもたちは英語を学んでいるので、アメリカなどの英語圏ならば、授業についていくことができます。でも、日本の学校になじむのは大変なのです」

シュレスタさんによると、ネパール人の多くは英語が話せるため、アメリカやイギリスなどの英語圏では、学習面でつまずく子どもは少なく、「ネパール人学校」は必要ないそうです。

「日本の小学校や中学校に通う際、最近は日本語講師がいるなど支援してくれる学校も増えてきていますが、それでも日本語が壁となって授業についていけない、友達ができないとドロップアウトしてしまう子がいます。

また、日本で生まれたり幼いうちに来日した場合、子どもは保育園などに通ううちにすぐに日本語を身につけますが、今度はネパールのことばや文化が伝わらない。より深刻なケースでは、親が日本語が苦手で親子のコミュニケーションが難しくなってしまうということもあるのです」

シュレスタさん自身も、この学校に娘を通わせています。
シュレスタさんが来日したのは15年ほど前。日本の文化を学ぶため1年間の交換留学生として来日しましたが、教授の勧めもあって日本で勉強を続け、日本で大学院を卒業して今はネパール人向けの新聞の発行や大学の非常勤講師の仕事をしています。

「最初に来日したときは、日本に住み続けるとは思わなかったし、日本で子どもを育てることになるとは思っていなかった」というシュレスタさん。

子どもが日本語を使いこなす一方で、ネパールに帰国した際に親類と全く話ができない様子を見て、不安を感じたと言います。

「ずっと日本にいるのか、それとも帰国かほかの国に移るのか、それは仕事や経済状況、家族の事情などに左右されるため、私もほかのネパール人たちも必ずしもはっきりしたビジョンがあるわけではありません。

そのときに大きな悩みとなるのが、子どもの教育です。どこの国で暮らすことになっても、子どもたちが困ることのないようにしたい。そのためには、日本語だけでなくネパール語も英語も身に付けさせ、世界で通用するように育てていきたいのです。
子どもに十分な教育を受けさせられるかどうかは、どこで働くかを決めるうえでとても重要なポイントになっています」

学校には遠くは埼玉県所沢市から片道1時間以上かけて通っている子どももいるほか、この学校に子どもを通わせるため北海道や福岡県から引っ越してきた家族もいるといいます。ネパール本国からの問い合わせもしばしばです。

一方で、学校ができる前には、優秀な技術者ながら「子どもの教育が不安だから」と別の国に移った人もいたそうです。

驚きのグローバル教育

ちなみにこの学校、ただの語学学校ではありません。まず3歳のクラスをのぞくと、幼い子どもたちがアルファベットを書く練習をしていました。

「授業は基本的に英語で、学校での会話も英語が中心。小学校に入る年齢のころには、ネパール語と同じぐらい英語を話せるようにする。さらに日本語と、3か国語を身につけるのです」とシュレスタさん。

次に小学生の教室をのぞくと、確かに算数の勉強を英語で行っていました。そしてわれわれに気がついた子どもたちが、「ハロー」「ナマステ」「こんにちは」と3か国語であいさつをしてくれました。

さらに学校では理科や社会などに加え、プログラミングも学びます。英語とプログラミングに力を入れるのは、世界で活躍するグローバル人材を育てようというネパール政府の方針もあるということです。

「ここから世界に人材を」

外国人向けの私立学校の運営には国や自治体からの金銭的な補助はないため、学費は公立の学校に通うよりは高くなります。

この学校の場合、毎月の学費は約4万円です。中には学費を払うのが大変だと一度学校を辞めたものの、日本の学校になじめず、また戻ってくる子どももいるそうです。

シュレスタさんは言います。
「日本の学校になじめないという子どもたちにもきちんと教育を受けさせたい。そして今は中学生の子どもたちまでしかいませんが、この子たちを日本だけでなく世界の優秀な大学に送り出していくのがわれわれの目標です。 この学校から世界に羽ばたいていくネパールの子どもたちが出てきたら、ほかの子どもたちにとっても明るい希望となることでしょう」

日本で育つ外国の子どもたち 今後は

取材を進めて改めて気づいたのは、就労目的で来日した人たちだけでなく、その配偶者や子どもたちも増えているという現実。
そして、どこの国の親たちも、自分の子どもにできるだけいい教育を受けさせたいという思いです。
日本育ちのグローバルなネパール人の子どもたちに、「日本で働きたい!」「住み続けたい!」と思ってほしいと強く感じました。