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データで見る 実は若者が「消えている」東京報道局・伊賀亮人記者 飯田暁子記者

「人口減少」
日本社会が抱える重要課題だとは思いながらも、 なんとなく地方だけのことだと感じている人は多いのではないだろうか。
しかし、データを詳しく分析すると意外な姿が見えてきた。
一極集中が進む首都・東京でも若者は減少しているのだ。

15~64歳の生産年齢人口(=労働力の中核を担う年齢層)は この10年間で4万3000人減っている。
さらに20~30代の若者に限るとより鮮明になる。 この5年間で実に20万4000人、5%も減少しているのだ。

これからの産業や社会の「担い手」としての若者世代に注目すると、 人口減少は東京にとっても今そこにある社会現象なのだ。 実は若者が「消えている」東京。
今、何が起きているのだろうか。

新成人の2人に1人が外国人の区も

東京の若者が減っていることを象徴するような現象がある。


20歳を迎える「新成人」の内訳の変化だ。実は日本人は減り続けていてその分外国人の割合が増えているのだ。

東京23区では、前年の4月2日からその年の4月1日までに20歳を迎えて区内に住民票を置く人を国籍を問わず「新成人」としてカウントしている。
成人式もこれらの人を対象に案内状を送っている。
2017年末、取材班はこの「新成人」についてすべての区に聞き取って日本人と外国人の内訳を集計した。

東京23区の新成人に占める外国人の割合

新宿区では実に2人に1人、豊島区でも3人に1人以上が外国人になっているのだ。
さらに東京23区の20~30代の人口の推移をまとめてみると―。

23区の20~30代人口の増減数

住民基本台帳より作成
2013年の数値を0としたときの増減をグラフ化

日本人と外国人の住民の年齢別データがある2013年以降で分析すると、23区の若者の人口は2016年に減少から増加に転じている。内訳を見ると日本人は減り続けているが外国人の人口が増えたことにより人口全体が増加している。
若者人口に限ると一部の地方自治体で起きている、日本人の減少を外国人が補う、という同じ構図が見えてくるのだ。

従業員の8割が外国人

若者が減ると何が起きるのか。
影響の一つは深刻な担い手不足だ。例えば私たちの生活に身近なサービス業でその変化を実感している人も多いのではないだろうか。
取材したのは長崎ちゃんぽんが看板メニューの外食チェーン「リンガーハット」だ。訪ねた東京・新橋の店では従業員25人のうち21人、実に8割が外国人になっているという。

「人手不足の中で外国人従業員は欠かせない存在なんですね」
そう尋ねた記者に担当者がすかさず言う。
「欠かせない、ではなく、いなければ営業できないんです」

新橋のような都心にある店舗では募集をかけても全く応募がないという。近くに学生や主婦などアルバイトの働き手が住んでいないためだ。東京全体で人手不足が進み、時給の水準が上がっている。今はわざわざ都心に来なくても自宅の近所でも高時給のアルバイトが見つかるのだ。
売り上げが高い都心の店舗ほど店員の確保が難しいという。
このチェーン全体では全国で約970名の外国人が働く。全アルバイト・パート従業員の約1割に上る。

人材育成に外国人社員

増え続ける外国人従業員を育成するのも外国人の正社員だ。
外国人従業員向けに接客マナーや日本の習慣などを教える勉強会を定期的に開催。教育担当の中国人とベトナム人の社員2人が勉強会などを通じて指導にあたっているのだ。

従業員は店舗で働き始める際に従業員は4時間に及ぶ勉強会を2回受講する。

勉強会で教えるのは例えばお辞儀の方法。
「『いらっしゃいませ』と言う時は15度の角度でかがんで、『ありがとうございました』の時は30度」といった具合だ。
また、客に向けた笑顔の作り方も指導する。
さらに取り出したのは音の大きさを測定する機械。
実際に発声しながら100デシベル以上の大きさの声で挨拶するようにというのだ。

自身もかつてはアルバイトだった指導役の社員の李安妮さんは話す。
「日本の習慣に不慣れだったりいろんな理由ですぐ辞める人もいるので、トラブルを防ぐために勉強会でマナーやサービスを学んでもらおうと開いています」
勉強会の終了後は互いに連絡先を交換してもらう。
従業員同士のネットワークをつくることで長く続けて欲しいという工夫だ。
さらに友達の紹介を依頼して新規採用につなげたり、留学が終わって帰国した後も日本にいる知り合いを紹介してもらったり。
あの手この手で人員確保につなげているのだ。

外国人専門の派遣会社

さらに東京では、外国人を人手不足に悩む現場に派遣する企業も増えている。その一つ、人材派遣会社の「マックス」から派遣されて働く外国人は実に約1400人に上る。
留学生や、技術職として働くために来日した外国人正社員の配偶者などを、法律で決められた週28時間以内で派遣している。

派遣先は主に食品加工会社。弁当屋やコンビニなどで販売される総菜のメーカー、スーパーの食品売り場で販売される野菜や肉の加工を行う業者など。

さらに同社では正社員約60人のうち実に40人余りが外国人だ。当初は中国人が中心だったが今ではベトナム人やネパール人もいる。外国人社員を雇用することで人脈を生かして、派遣スタッフの募集を行うほか、勤務する際のサポートにあたる。

創業は1999年。当時は派遣先は1社だけだった。営業をかけても「外国人は使いたくない」と断られたこともあった。
しかし、5年ほど前から問い合わせの件数が急速に増えたという。
「主婦のパートが高齢化して辞めているし学生のバイトも条件の良い他の業種に流れて人が集まらない事情がある。ふだん働いている姿を目にすることはなくても外国人の働き手が日常生活のあらゆるところを支えるようになっている」(担当者)

外国人がいないと東京はどうなる?

深刻な担い手不足はデータを見ると浮き彫りになる。
それが都内の有効求人倍率だ。
2012年度には0.99倍だったが、2016年度には1.74倍にまで跳ね上がり全都道府県で最も高い。

さらに産業別に見てみると―。

東京都の有効求人倍率

厚生労働省「職業安定業務統計」より作成 小数点第2位を四捨五入

サービス業で5倍、建設業などで4倍、さらには警備などを含む「保安」では実に14倍という水準にまで上がっている。


日本の若者が「消えていく」穴を埋めるように経済、社会を支える外国人の若者たち。
彼ら・彼女たちがいなければ東京はどうなるのだろうか―。
取材を通じてそうした思いが頭を駆け巡った。

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