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労災や行方不明 「依存」が突きつける外国人労働環境の課題報道局・伊賀亮人記者

「外国人がいなくては成り立たない」というさまざまな産業の現場。 一方で労働環境をめぐるトラブルも後を絶たない。
それを象徴するようなケースがあった。 インバウンド客に大人気の大手ラーメンチェーン店。 大阪の店舗で留学生を違法に長時間働かせていたとして書類送検されたのだ。
驚いたのが外国人アルバイトの割合だ。 チェーンで働く約6000人のうち約1200人、実に20%を占めるという。 留学生は週28時間以内であればアルバイトとして働くことができる。 しかし「サービスを維持するため人手が必要だった」とその限度を超えて勤務させていたというのだ。

賃金の不払いも

日本に住む外国人のうち技能実習生は約27万人。留学生は約31万人。それぞれ2017年末までの5年で10万人以上急増している。
そして日本で働く外国人に占める実習生と留学生の割合はあわせると実に全体の40%にも上る。労働力不足に悩む日本のさまざまな現場で、いかにその存在感が大きくなっているかが見てとれる。

外国人の労働力に頼る一方で、受け入れ先による悪質な不正行為もたびたび問題になっている。

実習生に対する不正行為

法務省入国管理局によるまとめ 
数値は入国管理局が通知した企業・団体の数

このうち技能実習生に対して、受け入れ先の企業や監理団体による不正行為があったと入国管理局が通知した企業・団体の数は去年(2017年)1年間で213。件数としては299に上った。

件数別に内訳を見ると賃金の不払いが139件(46%)と最も多い。ついで文書の偽造や変造(実際に支払った賃金とは異なる賃金を記した偽の内容の源泉徴収票を提出したといったものなど)が73件(24%)。
さらに36協定で定めた限度を超えて長時間の時間外労働を行わせた、などの労働関係法令違反が24件(8%)となっている。

外国人労災は日本人より高い割合

また外国人労働者の労働災害も増加している。

外国人の労災と外国人労働者の数

厚生労働省「労働者死傷病報告」と法務省「在留外国人統計」を基に作成
労災は休業4日以上の数
労災の数(赤)は左の軸
外国人労働者数(青)は右の軸

外国人労働者数の増加とともに労災も増えているのだ。
この5年間は労働者の増加率以上の割合で労災は増えている。

一方、日本人を含んだすべての労働者の労災の数を見てみるとー
実は5年間でほぼ横ばいになっている。

外国人と労働者全体の労災の数

厚生労働省「労働省死傷病報告」を基に作成
労働者全体は日本人と外国人を含む
労災は休業4日以上の数
外国人の労災(赤)は左の軸
労働者全体の労災(青)は右の軸

外国人労働者の労災がいかに増えているかが見てとれる。

失踪者は過去最多に

労働環境をめぐるトラブルがあるデータに結びついているという指摘もある。実習生が実習先の企業や農家などから姿を消す失踪者の数だ。

技能実習生の失踪者数

出典:法務省入国管理局によるまとめ

失踪者数は去年(2017年)、過去最多に上った。
背景には技能実習生の数自体が増加していることもある。ただ、外国人労働者の労働環境を研究する首都大学東京の丹野清人教授は、賃金への不満や劣悪な環境での労働を強いられることに不満を抱きよりよい待遇を求めて姿を消すケースがあると指摘する。

技能実習制度のミスマッチ

「外国人労働者が多く働く建設や一次産業の現場では元々は経験を必要とする熟練した職人が働いていた。しかしそこに若い世代が入ってこず、実習生が短期間だけ入ってきているので、作業に慣れない中で労災が増えている。さらにコミュニケーションの問題も事故につながっている」と丹野教授は話す。

「実習生や留学生は人件費が安い分野で働いている。しかし、実習生のほとんどは家族を持っていて、日本には稼ぎに来ているというミスマッチがある。だから賃金などでより良い待遇を求めるのも自然なこと。そのためSNSを通じてより良い給料を出す働き先があると聞いて職を変えたいと姿を消すケースが増えている」(丹野教授)


取材で話を聞いたある実習生も「日本に来たのは家を建てたいから。実習期間が終わって母国に戻っても働き先はない。中東に働きに行こうかなと思う」と話していた。

日本が選ばれなくなる?

企業や農家など、技能実習生の受け入れ先は現在約4万に上る。
入国管理局から不正行為を行ったと通知されたのはそのうち一部だ。実習生のための寮を新築したりボーナスも支払ったりするほか、休日には富士山や東京ディズニーランドなどへ観光に連れて行くなど、働きやすい環境を整えようと工夫する企業や農家も多い。

ただ、とある実習生の送り出し機関の担当者は次のように語る。
「実習生を受け入れている人たちはほとんどはまっとうな業者。でも中には『働かせてやるんだからこちらが金をもらいたいくらいだ』なんて話す業者もいる。日本人の働き手がいないところを外国人が支えているのが現実だが、環境を整えないといずれ外国人が日本を選ばなくなるでしょう」

政府も去年(2017年)、実習生の保護を目的に人権侵害に対する罰則を設けた法改正を行った。

首都大学東京の丹野教授は次のように話す。

「政府も不正行為の摘発を強化してはいるがあまりに実習先が増えていて、すべての脱法行為や違法行為を摘発することは不可能でしょう。一方で日本への労働力の供給源となっているアジア諸国の経済成長はものすごく早い。本国での賃金が上がっていくと5年後もその人たちが日本に来てくれるとは限らないということを踏まえて、今後の制度のあり方を議論するべきだ」

人手不足が今後ますます深刻化する中で外国人に"依存"するのであれば、解決しなければいけない課題も大きい。

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