「なぜ共和党を支持しているの?」
あれから16年余り。
彼女は31歳、結婚して4歳の息子を持つ母親になっていた。
印象的だったのは、会話の二言目には「奈々もメディアで働いているから、トランプは嫌いでしょう?」と聞かれたこと。
トランプ大統領が「フェイクニュース」と呼び、敵対視するメディアは、トランプ支持者にとっても、あまり気持ちのいいものではないのかもしれない。
私は答えず、逆に聞き返す。
「なぜ共和党を支持しているの?」
返ってきた答えはこうだ。
「共和党だからじゃない、トランプだから支持しているのよ!」。
怒りの源は貧困
ウェストバージニア州の有権者は、4年前の大統領選挙で、70%近くが共和党のトランプ氏を支持した。
州全体の貧困率は、アメリカの国勢調査局の推計で17.4%(2018年)。
ミシシッピ州やルイジアナ州などに続き、全米で4番目に高い。
友人によると、ウェストバージニア州でも、熱狂的なトランプ支持者が多いのは、貧困率が35.4%と州内でも最も高いマクドエル郡だという。
ここは古くからの炭鉱の町で、親子3世代にわたり同じ炭鉱で働いてきたという家族が多く、それ以外の産業が無いらしい。
しかし、オバマ前政権が誕生してから環境規制が厳しくなり、炭鉱は閉鎖され、多くの人が仕事を失ってしまったのだという。
友人 「今ではファストフード店しか働き口が無いと聞いた。自然環境も大事なことは分かるけれど、みんながみんな、グレタさんみたいにはなれない。生活できなければ、どうにもならないでしょう。オバマ前大統領の政策はウェストバージニアの経済を悪化させたと思う。それに対する怒りが4年前のトランプの勝利よ」
友人はもともと、障害がある児童を教える学校の教師をしていたが、子どもが産まれたのを期に退職。
そのやさき、夫が働いていた化学工場が閉鎖されてしまい、苦しい生活を送ってきた。
肉の加工場で週に数回、パートをするなどしてなんとか家計を支えてきたものの、産まれてまもないころ、病弱だった息子の高額な医療費を支払いながらの生活は、大変なものだったらしい。
夫は、再就職できる会社が見つからず、現在は住宅のリフォームなど、修理を請け負う修理工として、自宅をオフィスにして働いている。
今回もトランプ大統領に投票するか聞いてみた。
私 「オバマ前大統領が去り、トランプ政権が誕生して、この4年で生活は良くなったの?」
友人 「少しずつね。夫にも仕事の依頼が増えてきたし、自宅の後ろの壊れていた道路もようやく舗装されたの。ウェストバージニアの州知事は、当選したときは民主党だったのに、トランプ政権発足後、共和党にくら替えした。知事とトランプ大統領との関係が良いこともプラスに働いていて、変化はかなりゆっくりだけれど、確実に起きていると思う」
私 「今回の大統領選挙でもトランプに投票するってこと?」
友人 「もちろん。私だけじゃない、私の両親も祖父母も、親戚も、私の周りにいる人はみんなトランプ大統領に入れる。この4年で少しずつ良くなってきた。この先の4年はもっとアメリカをグレートにしてくれると思う」
友人には、ことばでは言い表せない必死さがあった。
私には、『生きていくためにトランプ大統領を選ぶ』、そう聞こえた。
“トランプ大統領のおかげ”
経済的に苦しい生活を送りながらも、日常のごく小さな変化を敏感に感じ取る有権者に「これは大統領のおかげに違いない」と思わせる、それがトランプ大統領の強さの1つなのかもしれない。
2月の一般教書演説では、議会下院の本会議場に、トランプ大統領の税制改革がきっかけで路上生活を脱し、就職できたという黒人男性が特別ゲストの1人として招かれた。
NFL=アメリカプロフットボールリーグのスーパーボウルの合間に放送された選挙コマーシャルでは、麻薬の密売に関わり投獄されたものの、恩赦を受け、大統領に感謝する黒人女性の様子が映し出され、ここでも「トランプ大統領のおかげ」を存分にアピールしていた。
こうした作戦で、岩盤支持層ではない黒人票も、思惑どおり、取り込むことができるのだろうか。
取材を通じて、自分と同じような境遇の一般的なアメリカ人たちが、日々、何を感じ、何を思って生きているのか、それを知ろうとすることが、この選挙の行方を知るうえでの大事な一歩なのではないかと感じた。