「速報:ワシントンDCの抗議デモは公式発表で100万人の抗議デモになった」。
過去に実際に投稿された、ツイートです。
大統領選挙でも争点となっている、銃規制を求めるデモについて伝えたものですが、どうです?読んでみて何かおかしいな、と思いましたか?
それとも、よく見かけるニュースのツイートでしょうか?
実は、正確ではない情報が含まれているんですが、パッと見ただけでは何がいけないのか、分からないですよね。
答え合わせは後からするとして…このツイート、アメリカの1万9000校以上の学校で使われている、フェイクニュース対策のための教材になっているんです。
大統領選挙が本格的に始まり、インターネット上では、候補者へのひぼう中傷や不確かな情報が飛び交っています。
若者たちに、正しい情報を見分ける力を養ってもらおう!という取り組みが始まっています。
フェイクニュース対策について教えている、南部バージニア州の高校を訪ねました。
対象は、ことし18歳になる高校3年生。
つまり、今回の大統領選挙で初めて選挙権を手にする若者たちです。
前回4年前の大統領選挙では、ロシアがSNSを通じて有権者に影響を与えようとしたとされる、いわゆる「ロシア疑惑」が大きな問題になりました。
生徒たちにフェイクニュースにまつわる経験を聞いてみると…。
「数週間前、好きなテレビ番組の出演者リストが発表されたというのをツイッターで見つけ、友達に連絡したものの、よく調べたら、そのリストはよくできた偽物だった」。
「ある有名セレブが亡くなったというニュースを拡散したら、実はDie(死亡)ではなくDye(髪を染める)、単に髪の色を変えただけだった!」などなどの実体験が。
何気ない日常の中で、フェイクニュースに遭遇しているケースが多々あり、驚かされました。
授業の冒頭では、大統領選挙に立候補している民主党のバイデン前副大統領の動画が流されました。
「われわれの文化は、アフリカやアジアの国々から入ってきたものではない。ヨーロッパ由来だ」。
選挙集会での発言を19秒に短く編集した映像です。
一見すると、人種差別的な発言に聞こえます。
ただ前後の発言を確認すると「われわれの文化」は、家庭内暴力やセクハラを指しており、こうした社会的な課題は、アフリカやアジアから持ち込まれたものではないという趣旨だったことが分かります。
動画は、発言をねじ曲げることを目的に切り取られ、拡散されたものだったのです。 誤った情報をもとに候補者を選んでしまうことの危険性を教えていました。
この日の授業で、生徒たちが「いちばん難しかった」と話していた課題が、冒頭で紹介した銃規制を呼びかけるデモのツイートです。
どこが誤りなのか分からずにいると、先生がヒントを教えてくれました。
「そこに載っている情報を検索してみたら?」
「え、ネットで検索してもいいの?」
「これは、どこのメディアが出しているニュースかな?」
「ザ・アノン・ニュース??」
「その名前も調べてみたほうがいいかもね」
このツイートをしたメディアを検索すると、アカウントはすでに削除されていたことが分かりました。
そもそも、デモは行われたのでしょうか?
画像をインターネットで検索すると、大手メディアも報じていたことが分かりました。
ただ、参加者の人数を「公式発表で100万人」としているのは、削除されたアカウントだけ。
正解は「デモは実施されたものの、参加者の人数は事実かどうか分からない」でした!
ネット上の記事やツイートに含まれる情報をうのみにせず、信頼できる出典なのか、積極的に調べるよう求めるこの授業、私自身、勉強になりました。
授業に参加した生徒からは「疑問に感じたら進んで調べてみればいいと思った。授業で学んだことを生かして、どの候補者に投票するかを考えたい」と前向きな声が聞かれました。
授業のあと、先生は次のように話してくれました。
「もし生徒たちがフェイクニュースをもとに投票したら、それは民主主義を脅かすことにほかならない。ニュースに対して常に疑いの目を持って接するためには、教育こそがカギになる」。
教育がカギ。
うその情報や偽物の映像が出回るのを防ぐため、SNSの運営会社ではこうした投稿を積極的に削除する方針を打ち出しています。
しかしこれは、すでに出回ったフェイクニュースへの対処療法でしかありません。
大切なのは私たち一人一人が、事実をつかみ取れるようになることだと、気付かされました。
こうした教育、日本でも広がるといいなと思います。