ロゴだらけのアメリカ選挙

トランプ大統領の代名詞ともなった「Make America Great Again」と書かれた赤いキャップ、通称「MAGA(マガ)ハット」。
トランプ大統領の前回の選挙戦のスローガンを用いた、おなじみのグッズだ。

日本では、選挙の候補者の名前などが入った帽子やシャツを身につけた人を見かけることはない。
しかし、大統領選挙の年に突入したアメリカでは、選挙が近づくにつれ、候補者の名前を使ったロゴや、スローガンをモチーフにしたグッズを見かける機会が増える。

そもそもロゴって何のためにあるのか?
選挙ではどのような効果があるのだろうか?

目次

    あらゆるところにロゴ、ロゴ、ロゴ

    日本で選挙期間中に見かけるのは、候補者の名前や政党名が入った顔写真のポスター。
    サイズや掲示場所などは公職選挙法で厳格に定められている。

    しかし、そうした規制が無いのがアメリカの選挙。

    自宅の庭先や幹線道路沿い、車のバンパーや通学かばんなど…
    日本では考えられないほど、あらゆるところで候補者のロゴを目にする。
    ロゴは候補者によって、色やデザインもさまざまだ。

    支持する候補=自分のアイデンティティー

    候補者のロゴやスローガンを用いたグッズは、20世紀初頭の大統領選挙のころにはすでに定着していたとの記録がある。

    ロゴは、一目でその候補者を連想させる、まさに候補者の「顔」となる存在。
    いかに有権者に覚えてもらえるかが重要で、各候補者は、自分の政策や訴えを伝えるために工夫を凝らしたロゴで選挙戦を展開する。

    「アメリカの有権者は、自分が誰を支持しているのか、身につけたロゴを通じて示すことで、『自分はこの候補者と価値観を共有している』ということを周りにアピールする」。

    そう解説するのは、アメリカ政治が専門の上智大学・前嶋和弘教授だ。

    例えば、変革を訴えたオバマ前大統領の有名なスローガン、「CHANGE(チェンジ)」。
    このロゴを身につけることで、有権者自身も、オバマ氏の「変革」を支持し、その必要性を訴えていたのだという。

    では、今回の大統領選挙の候補者のロゴにはどのようなものがあるのだろうか。

    ジョー・バイデン氏(民主)

    民主党の候補者の指名争いで支持率トップを走るバイデン氏。
    「BIDEN」や「JOE」の、「E」の文字を赤色にして、ロゴ全体で星条旗カラーを表現している。

    2大政党のイメージカラーは、民主党は青、共和党は赤だが、いずれも星条旗に使われていることから、政党に限らず、どの候補もロゴに青や赤を使うことが多い。

    ネット上では、「『JOE』の『E』が単なる模様に見えてしまい、『JO』という名前かと思った」などといった厳しい意見もある。

    ピート・ブティジェッジ氏(民主)

    名字が覚えにくいブティジェッジ氏は、ファーストネームの「ピート」を大きく表示。
    鮮やかな青や赤を使う候補者が多い中、あえて紺色や黄色、オフホワイトを使っている。

    「2020」の数字を左右に分けることで、分断したアメリカ社会を表現。
    その間には、みずからの名前「PETE」で橋を描き、市長を務めたサウスベンド市のシンボルとなっている橋を表現すると同時に、社会の分断をつなぐ役割を果たしたいとの思いを込めたという。

    ドナルド・トランプ大統領(共和)

    現職のトランプ大統領のロゴは、ペンス副大統領の名前が並んでいることが多いのが特徴。

    敬けんなキリスト教徒で、福音派として知られるペンス副大統領。
    女性蔑視や乱暴な発言が多いトランプ大統領に抵抗を感じる共和党支持者の間でも、ペンス副大統領の人気は安定していることから、名前を並べることで、支持を保ちたい狙いがあるとみられている。

    個性豊かなロゴ

    すでに指名争いから撤退したが、目を引いたのがカマラ・ハリス氏(民主)のロゴだ。

    ジャマイカとインドからの移民2世で、黒人候補であることを意識した選挙戦を展開していたハリス氏のロゴは、黄色や紫を使い、レトロな雰囲気のデザイン。
    アメリカメディアの間では「斬新だ」との評価があった一方で、「商業的すぎる」との意見もあった。

    ハリス氏は、およそ半世紀前にアメリカで黒人女性として初めて下院議員になり、1972年の大統領選挙にも立候補した故シャーリー・チザムさんへの敬意を、自身の選挙戦でも示していた。
    ロゴについても、チザムさんが使っていたロゴの字体や色合いを参考にしたと言われている。

    ロゴを使ったグッズは、集会で無料で配られたり、販売されたりしているほか、各候補者のホームページからも購入できる。

    個人的に、エリザベス・ウォーレン氏(民主)のミントグリーン色をベースにしたロゴのデザインが気に入り、ためしに12ドルのノートを買ってみようと、購入ボタンを押してみた。
    ところが、購入できるのは、「アメリカ国民またはアメリカの永住権所持者」との注意書きが。

    グッズの購入は候補者への寄付になるため、外国人の私には買えないのだ。

    ロゴの効果のほどは…

    シャツや帽子、マグカップや犬の首輪にまでロゴを使用している。
    このように至る所で見ることができるロゴは、果たして、選挙戦にはどの程度影響があるのだろうか…?

    前嶋教授 「今回の選挙では、例えば、南部の保守派の多い地域でトランプ大統領のロゴを身につければ、『中絶や同性婚に反対している』というイメージにつながるし、同性愛者であることを公表している民主党のブティジェッジ候補のロゴは、『同性婚に賛成している』というイメージにつながる。こうしたロゴを掲げることで、社会で各候補者についての議論が深まっていく。ロゴの向こう側に意味するものを見いだすのも、アメリカ選挙のおもしろいところだ」。

    今回の選挙では、民主党候補者の中でロゴやスローガンが定着している人はまだいないが、これから候補者が絞られていく中で、だんだん定着してくると前嶋教授は話す。

    ロゴ1つとっても、候補者の政策や主張、選挙戦略が透けて見えるアメリカの大統領選挙。
    ちょっと変わった角度から選挙戦を見るのも、興味深い。

    顔写真:青木 緑

    国際部記者

    青木 緑

    2010年に入局。釧路局、サハリン事務所、新潟局などを経て、2017年から国際部。
    2018年のアメリカ中間選挙では、米中貿易摩擦の選挙への影響について、中西部の農家や製造業者を取材。