アメリカの選択を読み解く ②政治

異例尽くしだった2020年のアメリカ大統領選挙。
民主党のバイデン前副大統領が、史上最多の8100万票を獲得して当選を確実にした。一方のトランプ大統領も、共和党の候補者としては史上最多の7400万票を獲得。当選した前回4年前の選挙よりも、およそ1100万票を上積みした。

有権者の選択をどう読み解くのか。アメリカは今後どこへ向かうのか。各分野の専門家に分析と展望を聞いた。
第2回は、アメリカ政治が専門の東京大学の久保文明教授だ。

東京大学 久保文明教授

Q.これまでバイデン氏が当選確実とされている。この結果をどう分析するか?

バイデン氏の勝因とトランプ大統領の敗因は、表裏の関係、密接不可分の関係にある。つまりバイデン氏はトランプ大統領に対する批判票、「退任してもらいたい」と思った人の票を大量に集めることができたのが大きかった。
世論調査や出口調査を分析すると、「バイデン氏を積極的に支持する」というより「トランプ大統領を引きずり降ろしたい」という動機の人が多かったように感じる。

ただ、バイデン氏が勝利した積極的な理由も、もちろんある。

1つ目は、今回、民主党の団結がかなり強かったことだ。
前回2016年の選挙では、民主党の候補者選びでサンダース氏が最後まで正式に撤退せず、サンダース氏を支持する左派のグループは選挙戦でヒラリー・クリントン氏にあまり協力しなかった。しかし、今回は左派の人たちも「とにかくトランプ政権に終止符を打たなければいけない」という気持ちが非常に強かったので、とりあえずという面はあったと思うが、バイデン氏を支持していた。民主党が非常に強く一体になっていたと思う。

2つ目の理由は、バイデン陣営が非常に多くの政治資金を集めたことだ。
2017年のトランプ大統領就任から2020年6月ぐらいまでは、トランプ陣営が政治資金量で民主党を圧倒していた。しかし、トランプ陣営は油断して早い時期にお金を使いすぎたという部分があったようだ。最終的には資金がなくなり、接戦州のいくつかではテレビ広告を打ち切らざるをえない状態に追い込まれていた。
一方でバイデン氏側は、民主党の公認候補としての地位を固めたあと、小口献金、あるいは大口献金も含めて急速に政治資金を増やし、トランプ陣営を圧倒した。テレビ広告やSNSにおける広告量では、民主党のほうが圧倒していて、これがバイデン氏が接戦州を際どく勝ち抜いた理由でもある。

実際にどういう層から支持を集めたかという点では、バイデン氏は今回、白人票の42%を獲得している。前回の選挙でヒラリー・クリントン氏は37%しか取れていない。民主党は白人票では劣勢とされているが、その中で今回はかなり盛り返したと言える。
特に、白人の労働者層の支持を取り戻したということが言える。こうした人たちはトランプ大統領の支持基盤だったが、その票の多くを民主党が取り戻すことに成功したと言える。
特に白人が多い接戦州で際どく勝ち抜いたのは、バイデン氏が白人のカトリック教徒であること、あるいは労働者層が多いペンシルベニア州スクラントンの出身であることがアピールできたためではないか。

一方で、トランプ大統領の敗因は、何よりもトランプ大統領に対する拒否反応だ。
もちろん熱烈な支持基盤も存在しているが、他方で、それを上回る規模で「トランプ大統領が継続して次の4年間を務めることは容認しがたい」と考える人が、かなり存在していた。大統領としての適格性について、多くの国民が冷ややかな判断をしていたということが言える。
世論調査の結果などを見ると、トランプ大統領の支持率は比較的低く推移していることから、トランプ大統領は自分の支持基盤を広げる事には決定的に失敗したのではないか。自分の熱烈な支持層を維持することには成功した部分があるが、それを広げることに失敗したというのは大きな敗因だ。

Q.トランプ大統領が7400万以上を獲得した。その要因は?

トランプ大統領は白人の保守的な人たち、あるいは労働者層に熱烈な人気があるが、それはおおむね維持されていたということだと思う。
アメリカでは白人で成功していないと冷たい目で見られるとも言われていて、こうした人たちはトランプ大統領だけが彼らの怒りや、移民や人種問題に対するフラストレーションを率直に発信していると感じていた。トランプ大統領に対しては、大統領としての適格性やその発言の妥当性などを疑問視する人も多かったが、一方で、これだけ票が集まったというのは、アメリカ社会に広がる民主党に対するフラストレーションや敵意を見て取ることができる。
バイデン氏とトランプ大統領の勢力がきっ抗しているだけに、アメリカ社会が分断されているという印象がある。

Q.バイデン氏が政権を担うことになると、アメリカ政治はどう変わるか?

まず、コロナ対策の面でホワイトハウスの姿勢は相当変わるだろう。
トランプ大統領はマスク着用を奨励せず、専門家のアドバイスもあまり聞かず、経済を元に戻すことに精力を注いできた。バイデン氏が大統領になれば、ワクチンの供給や財政支援、専門的知識の提供など、連邦政府がさまざまな形で州政府を全面的に助けていくことになる。

Q.バイデン氏の課題は?

税金、緊急経済対策、介護保険制度などアメリカの国内政策全般に関しては、議会勢力が影響すると言えるだろう。
上院が共和党の多数体制となることが予想され、民主党の思ったとおりの国内政策が展開できないと考えられる。他方で、下院は共和党が少数なので共和党が考えている規制緩和などの政策がしにくい。いずれにしろ国内政治はこう着状態で、民主党寄りにも、共和党寄りにも大きく政策が変わることはないのではないか。
民主党と共和党の対立が激化すると、民主党が通したい政策が通る可能性は非常に低くなり、そういう意味で、民主党としては政権運営がかなりやりにくくなるということは確実だ。

(聞き手:国際部記者 山本健人)