アメリカの選択を読み解く①外交・安全保障

異例尽くしだった2020年のアメリカ大統領選挙。
民主党のバイデン前副大統領が、史上最多の8100万票を獲得して当選を確実にした。一方のトランプ大統領も、共和党の候補者としては史上最多の7400万票を獲得。当選した前回4年前の選挙よりも、およそ1100万票を上積みした。

有権者の選択をどう読み解くのか。アメリカは今後どこへ向かうのか。各分野の専門家に分析と展望を聞いた。
第1回は、外交・安全保障に詳しい、元駐米大使の藤崎一郎さんだ。

元駐米大使 藤崎一郎さん

Q.これまでの開票結果では、バイデン氏が当選確実とされている。その要因は?

今回の選挙は、「トランプ支持」と「反トランプ」の戦いだった。
共和党員の中にも、トランプ大統領の人柄ややり方に不満があって、トランプ大統領には投票したくないと思った人もいただろう。
バイデン氏は、トランプ大統領が嫌だという人の支持で当選を確実にしたということだと思う。

Q.トランプ大統領が及ばなかった要因は?

まず、トランプ大統領は、支持率が各種世論調査の平均で5割を一度も超えたことがない、支持の弱い大統領だ。一部の人は、トランプ大統領には岩盤支持層が4割くらいいると言うが、共和党員が4割いるのは当たり前の話で、2割の中間層を取らなければならないのだが、トランプ大統領はそれを取ることができなかった。
また、新型コロナ対策のまずさもあったと思う。大統領の対応やふるまいが悪く、チェンジしたいということだったのだろうと思う。

Q.ただ、当初の世論調査の結果以上にトランプ大統領は善戦し、7400万以上の票を獲得している。その理由は?

アメリカには不満が鬱積していて、「アメリカ・ファースト」で変えてほしいという人が結構いるというのが理由だと思う。その背景には、アメリカで格差が拡大していること、および外国人が増えていることが挙げられると思う。
もう1つは、製造業がかなり減ってしまったことがある。中国に製造業の拠点が移ったため、サービス業に転換した人もいるが、仕事が奪われた人もいる。
そのほか、アファーマティブ・アクション(=差別是正措置)やポリティカル・コレクトネス(=政治的に正しい言動)を求める動きが行き過ぎだという反発、是正の要求があるのだろう。

Q.バイデン氏が政権を担うことになると、アメリカ外交はどう変わる?

すでに発表されているように、民主主義の国々との連携や、NATO=北大西洋条約機構をはじめとした同盟国を重視するとしている。国際機関との関係では、国連との関係を重視するだろうし、WHO=世界保健機関やパリ協定にも即時復帰し、イランとの核合意にも戻るという方針を打ち出しているので、だいたい元に戻るということだと思う。

日米関係には、基本的には大きな変化は無いと思う。
日本時間の11月12日に行われた菅総理との電話会談でも、尖閣諸島の問題も話したということなので、基本的に日米安全保障条約を重視するだろう。
中国やロシアと競争するアメリカにとっては、アジア太平洋地域において頼りになる同盟国は極めて大事だ。日本を当てにしているので、日本との関係は変わらないと思う。
また、バイデン氏は、トランプ政権が韓国に対して駐留米軍経費の劇的な増強を要求したのはおかしいと言っているので、在日米軍の駐留経費についても、今後、一定の増強を要求してくることはありえるが、劇的な要求は無いのではないか。

バイデン氏の政権は、おそらく大統領1人でやる政権ではなく、みんなでやる政権になるので、外務大臣と国務長官、財務大臣と財務長官、あるいはその下の官僚も含めて、チームプレーになるだろう。政権がチームプレーというのは、同盟国ともチームプレーをするということなので、予測可能性は高まり、やりやすくなると思う。
みんな人脈はどうなんだと言うが、つい4年前まで当時のオバマ政権にいた人たちが戻ってくるわけなので、日本は人脈が無いわけではない。

対中政策について、バイデン氏はタフな政策をとらなければならないと言っているが、関税戦争のようなことはしないだろう。
協力できる分野、すなわち、気候変動とか核不拡散の問題では協力するとしているうえ、米中関係を不安定にすることで世界を不安定にしないようにすると言っているので、アメリカと中国との関係は変わる可能性があると思う。
一部には、5Gの問題や技術の問題、軍事の問題もあるので、米中関係はもうエンゲージメントが起きないという人も多いのだが、アメリカは政権が変わると、がらっと政策は変わるというのを頭に置いておく必要があると思う。

北朝鮮の問題については、関係国と協力して、まずは外交当局者の交渉から即時開始すると言っている。今までのように大統領レベルが交渉する政策はとらないということだ。そして、人道的援助について検討するとも言っているので、これはかなり意味があると思う。

Q.バイデン氏の課題は?

共和党、そして民主党内の左派とどう折り合いをつけていくかが課題になる。

議会上院は、今回、共和党が50議席、民主党が48議席で、あとジョージア州の2議席が残っている。議会下院は、ぎりぎりで民主党が過半数をとった。知事は27対23で、共和党のほうが多い。
つまり、両政党は同格だ。だから、バイデン氏は、自分の政策を全部押し通すわけにはいかないだろう。共和党の人が納得するものでないと、共和党は議会上院で多数派となった場合、法案も予算も上院で通さないので、それも考えなければいけない。

同時に、自分を支持してくれた左派、例えばウォーレン議員、サンダース議員、オカシオコルテス議員など、そういう人たちの意見も反映しなければならない。いわば挟み撃ちにあっている中で、どうやって中道的な政策を打ち出していくことができるかが問われる。

(聞き手:国際部記者 岡野杏有子)