第1回テレビ討論 トランプ、バイデン両候補 初の直接対決

トランプ大統領とバイデン前副大統領による初めての直接対決となるテレビ討論会。およそ90分におよぶ討論のポイントをまとめた。

目次

    トランプ大統領 1期目の評価は

    トランプ大統領 「私ほど3年半の間に多くのことをやってきた大統領はいない。新型コロナウイルスの感染が広がるまで経済の状況は最もよく、失業率は最も低かった。また、宇宙軍の創設などアメリカ軍の再建に取り組んだ」と述べ、大きな成果をあげたと強調。
    そのうえで「前政権ではちゃんとした医療保険制度がなかったため、30万人以上が死亡した」などと前オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏を批判した。

    バイデン氏 「この大統領のもとではわれわれは弱体化し、貧しくなり、分断され、より暴力的になってしまう。私はかつて副大統領として経済を立て直したが、トランプ氏は再び不況をもたらした」と反論。
    さらに「私はロシアのプーチン大統領に対して彼のやり方は受け入れないとはっきり伝えたが、トランプ氏は何も言えない、プーチンの犬になっている」と述べ、現政権の外交姿勢を痛烈に批判した。

    関連記事 トランプ大統領 一般教書演説での発言内容は

    “オバマケア”について

    オバマ前大統領が導入した医療保険制度、いわゆる「オバマケア」についても激しい議論が交わされた。
    オバマ政権で副大統領を務めたバイデン氏が、新型コロナウイルスの感染が依然として深刻な状況であることを受けて拡充を訴えると、トランプ大統領が割り込む。

    バイデン氏 「オバマケアを拡大すべきだ」

    トランプ大統領 「それは社会主義者の保険制度だ」
    バイデン氏と民主党が左寄りだという主張で揺さぶりをかけた。

    「オバマケア」をめぐっては、トランプ大統領のもとで連邦最高裁判所の保守化が進めば廃止されるおそれがあると指摘されているが、討論会でトランプ大統領は司会から「オバマケア」に代わる政策について問われた。

    トランプ大統領 「医薬品の価格を下げるよう友好国と取り組んでいる。これは、どの大統領も取り組んでこなかったことだ」

    バイデン氏 「彼が言っていることはすべてうそだ。大勢の人からオバマケアの恩恵を取り上げようとしている」と厳しく批判。

    トランプ大統領 「オバマケアは保険料が高すぎてよくない。われわれは個人の加入の義務をなくした」と実績を強調。

    バイデン氏 「彼は医療保険制度について何も計画を持っておらず、何も考えていない」と改めて批判した。

    関連記事 社会保障 どうなる?「オバマケア」

    経済政策は

    トランプ大統領 「われわれは史上最高の経済を築いたが、中国からの感染症のために経済活動を止めざるをえなかった。経済活動の再開後、1000万人余りの雇用が戻っており、誰も見たことのないような回復をしているが、バイデン氏は再び経済活動を止め、国を破壊してしまうだろう」と、みずからの政策の効果を強調。

    バイデン氏 「トランプ大統領は金融市場しか見ておらず、新型コロナウイルスによる死者が急増しているのに経済活動を再開させると言い張っている。ウイルスの危機を何とかしなければ、経済を回復させることはできない」
    「私の経済政策は700万人の雇用の創出と1兆ドルの経済効果が見込める」とアピール。
    さらに、トランプ大統領が行った法人税率の引き下げについて「法人税率は21%でなく、28%であるべきだ。主要な500社の中には多額の稼ぎをあげながら全く税金を支払っていない企業が多くある」と述べた。

    トランプ大統領 「バイデン氏の政策が実行されれば、アメリカから半分の企業が出て行き、見たことのないような景気後退に陥るだろう。私は製造業で70万人の雇用を回復させた」

    関連記事 どう違う?「アメリカ第一主義」VS「より良い再建を」

    “所得税疑惑”トランプ大統領否定

    トランプ大統領は、大統領選挙で当選した2016年と就任した年の2017年は国への所得税の納税額がいずれも750ドル、日本円でおよそ7万9000円だったと報じられている。

    トランプ大統領 「数百万ドル払った。すぐに分かるだろう」と疑惑を否定。

    バイデン氏 「彼が納めた税金は学校の教師より少ない。史上最悪の大統領だ」などと非難した。

    新型コロナウイルスへの対応

    アメリカ国内では新型コロナウイルスへの感染でおよそ700万人が感染し、20万人を超える人が亡くなっている。

    バイデン氏 「大統領は新型コロナ対策で何の計画も持っていない。2月にはこのウイルスが深刻な危機で、命に関わる病気だと知っていたのに私たちに言わなかった。私は3月に計画を作り、7月にも人々が外出し、ビジネスを守り、学校を再開させるために何をすべきかの対策を示した」

    トランプ大統領 「バイデン氏の言うことを聞いていたら国境が開かれたままになり、もっと多くの人々が亡くなっていただろう。専門家も民主党の知事たちも私がすばらしい仕事をしたと言っている。私たちはマスクなどを確保し、ワクチンが得られるまであと数週間だ。バイデン氏にはこのようなことはできなかっただろう」

    ワクチンについて

    バイデン氏 「私たちは大統領ではなく科学者を信頼している。製薬会社は、ワクチンの提供は来年のはじめか、半ば以降になると言っている」

    さらに激しいやり取りが

    バイデン氏 「大統領がもっと賢くないかぎり、さらに多くの人が命を落とす」

    トランプ大統領 「いま『賢い』と言ったのか?私に対して二度とそのことばを使わないでくれ。あなたは何一つ賢くないし、47年の政治活動の間、何も成し遂げていない」

    関連記事 国民の信任を得るのはトランプかバイデンか ~アメリカ大統領選挙まで半年~

    連邦最高裁判所判事について

    アメリカ社会に大きな影響を与える連邦最高裁判事。トランプ大統領は、亡くなったリベラル派の判事の後任に保守派の判事を指名した。議会上院で承認されれば判事9人のうち6人を保守派が占めることになるが、野党・民主党は選挙結果を待つべきだと批判している。

    トランプ大統領 「新たに指名したバレット氏はすばらしい人物だ。われわれは前回の選挙に勝ったので、彼女を選ぶ権利がある」

    バイデン氏 「国民は最高裁判事を選ぶにあたり意見を述べる権利がある。選挙は国民の声を反映する機会だが、今回はすでに投票を済ませた人も多くいる。選挙結果を待つべきだ」

    人種差別問題の対応は

    黒人男性が白人の警察官による取締りで死亡した事件などを受けて、選挙の争点の1つにもなっている人種差別問題についても取り上げられた。

    バイデン氏 「トランプ大統領はホワイトハウスの前で行われた平和的な抗議デモに対し、警官隊を出動させ催涙ガスまで使った。あらゆる手段で憎悪を生み出し、人種差別的な分断を引き起こそうとしている」と批判。

    トランプ大統領 オバマ前大統領の時代にも黒人が死亡する事件が相次いでいたと主張し「オバマ前大統領の政権下で大きな分断があった。今、私が見ている以上に暴力的だった」と述べたうえで、「法と秩序」にのっとって問題の対応にあたっていると強調した。

    また、黒人に対する差別が構造的に残っていると指摘されている警察の改革について

    トランプ大統領 「バイデン氏は予算の削減について言及している。彼は法の執行機関から全く支持されていない」と批判。

    バイデン氏 予算の削減について真っ向から否定したうえで「ほとんどの警察官は立派だが、そうではない人もいるので、何かが起きたときには説明責任を求めたい。さらには透明性を確保できるよう、体制を変えていきたい。われわれは皆同じアメリカ人であり、団結することで人種差別を乗り越えることができる」と述べ、警察や人権団体などと協力して改革に取り組んでいく姿勢を示した。

    関連記事 米、再燃する人種差別への抗議デモ 警察改革は実現するのか?

    環境政策は

    トランプ大統領 「アメリカは今、二酸化炭素の排出量がこれまでで最も少ないが、私は経済を壊していない。これに対して『パリ協定』はひどいものだ」と述べ、アメリカ経済を守るためにも地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱は必然だと主張した。
    また、西部カリフォルニア州などで起きている山火事と地球温暖化との関連を指摘され「それは森林管理の問題だ。ヨーロッパでは森林を管理し、維持しているがカリフォルニア州では毎年、広大な土地が焼けている」と述べ、温暖化とは切り離して考えるべきだと主張した。

    バイデン氏 自分が大統領になったら、まずパリ協定からの離脱を取りやめるとしたうえで「私は再生可能エネルギーのコスト削減に努め、石炭や石油と同じぐらい安くした。アメリカにこれ以上、火力発電所を作らせず再生可能エネルギーへの移行を進める」と主張。
    そのうえで、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることなどを目指す「バイデン計画」を推し進め、雇用を新たに創出することで温暖化対策と経済活動の両立をはかると強調した。

    関連記事 環境問題 「パリ協定離脱」の命運握る大統領選挙

    郵便投票の是非をめぐって

    トランプ大統領は、今回の選挙で大幅に増加する見通しの郵便投票が不正につながると主張している。これについて司会者が次の大統領の正当性をどう担保するか質問した。

    バイデン氏 「郵便投票が不正につながる根拠はない。あなたの1票で結果が決まる。期日前投票をできるならば、そうしましょう。対面での投票ができるならそうしましょう。彼(トランプ大統領)に投票を止めさせることはできないので、いちばん良い方法で投票してほしい」と呼びかけた。

    トランプ大統領 「トランプと書かれた票が小川やごみ箱に捨てられているのが見つかっている。票を売る配達員もいるようだ。かつてない不正が起きるだろう。郵便投票では投票日の11月3日以降に届く票も有効になるところがあり、何か月も結果が出ないかもしれない」と主張した。

    また、司会者が法廷闘争の可能性を質問すると

    トランプ大統領 「あってほしくないが、最高裁判所が票を確認することを期待している。公正な選挙であれば受け入れるが、多くが不正な票であれば受け入れることはできない」と述べ、不正の疑いがあれば選挙結果を受け入れない可能性を示唆した。

    バイデン氏 「法廷闘争に発展することを心配している。票の集計が終わり、勝者が決まったら、それで選挙は終わりだ。私は選挙結果を受け入れるし、彼も受け入れるべきだ」と述べた。

    関連記事 郵便投票が急増、現地の悲鳴

    アメリカメディアの評価は

    今回の討論会についてアメリカのメディアは、トランプ大統領が討論会のルールを守らずバイデン氏の発言にたびたび割り込む一方、バイデン氏も時に乱暴な物言いをしたとして、一様に「混とんとして、とっちらかっていた」とか「史上最低の討論会だった」などと評価している。

    一方、勝敗についてはバイデン氏が僅かにトランプ大統領を上回ったという分析が目立っている。

    このうち、有力紙ワシントン・ポストは「トランプ大統領が自爆し、討論会も台なしにし、バイデン氏が勝利した」と評価している。

    ニューヨーク・タイムズは「トランプ大統領は、まだ投票先を決めかねている有権者に対してみずからの指導力を証明しようと努力せず、バイデン氏は大統領としてあるまじき態度だとトランプ氏を批判した」とする一方、勝者は明示しなかった。

    ウォール・ストリート・ジャーナルは「バイデン氏はもともと討論会のパフォーマンスを期待されていなかったが予想以上に説得力があり、トランプ大統領の攻撃に反撃する場面もあった」と指摘。

    ABCニュースは、有名キャスターが「40年間、大統領候補者による討論会を見ている経験から言って、今回は史上最低の討論会だった」と表現した。
    また別の記者は「両者ともが負けた討論会だったが、本当の敗者はこの討論会の場を使って選挙戦の方向を変えなければならなかったトランプ大統領だろう」と分析した。

    CNNは討論会を視聴した568人の有権者を対象に電話で回答を聞き取った世論調査結果を公表し「有権者の60%がバイデン氏が優勢だったと回答し、トランプ大統領が優勢だったと考えた有権者は28%だった」と伝えている。

    ただ前回、2016年の大統領選挙の討論会では1回目のあとの同様の世論調査で民主党のクリントン氏が優勢だったと評価した人は62%で、共和党の候補者だったトランプ氏が優勢だと回答した人は27%にとどまり、その後の討論会でもトランプ氏はクリントン氏を上回ることはできなかったが、選挙では勝利している。

    一方、トランプ大統領が好んで視聴する番組の司会者で「大統領の側近」とまで言われているFOXニュースのショーン・ハニティー氏は「弱く混乱したバイデン氏が、トランプ大統領によって圧倒されていた」とコメントした。