37歳「ピート市長」躍進の背景

民主党の候補者選びで混戦が続く中、注目を浴びているのが、37歳の「ピート市長」。
中西部インディアナ州サウスベンドの市長、ピート・ブティジェッジ氏だ。

ここに来て支持を大きく伸ばし、ことし11月には、選挙の行方を大きく左右する重要州、中西部アイオワ州の世論調査でトップに立った。
躍進の背景には、何があるのか。

目次

    実は知る人ぞ知る期待の政治家

    ことし立候補を表明するまで一般の有権者にとってほとんど無名の存在だったブティジェッジ氏。
    しかし、民主党の中では期待の若手として以前から知られた存在だった。

    オバマ前大統領は2016年、退任を前に雑誌ニューヨーカーとのインタビューで、民主党の次世代を担う期待の政治家として、カマラ・ハリス上院議員(大統領選から撤退表明)やティム・ケイン上院議員(前回の副大統領候補)らとともに、ブティジェッジ氏をあげている。

    立ちすぎなキャラ

    夫のチャスティン氏(左)とブティジェッジ氏

    ブティジェッジ氏の特徴をあげると切りがない。

    • 民主党候補者で最年少の37歳
    • 名門ハーバード大学、超エリートの証とも言われるローズ奨学生としてイギリスのオックスフォード大学で学ぶ
    • 29歳の若さでサウスベンド市長に就任
    • 海軍予備役に登録、市長在任中7か月間アフガニスタンに派遣され従軍
    • 同性愛者であることを公表し、夫とともに選挙運動
    • 英語、スペイン語、ノルウェー語など8か国語を話す
    • 名前の読み方がアメリカ人にも難しいので、多くの人が親しみも込めてファーストネームで「メイヤー・ピート(ピート市長)」と呼ぶ

    支持を集める背景は?

    アイオワ州でトップに立ったことは、アメリカでも驚きをもって受け止められている。
    アイオワ州は、来年2月に全米で最初に党の候補者選びが行われ、ここでの結果はその後の選挙戦に大きな影響を与えるからだ。

    支持を集めている背景には何があるのか。
    11月、ブティジェッジ氏の集会が開かれるのにあわせアイオワ州を訪ねた。

    この日、集会が開かれたのは、州西部のアトランティックという人口7000人ほどの小さな町。

    町の中心部(といっても数百メートルの商店街があるだけだが)に設けられた会場の前には、演説開始1時間前から列ができていた。

    テレビでお約束の「多くの人たちが列を作っています」というリポートを撮影していると、高齢の男性に声をかけられた。

    「君たち、どこから来たんだい?」

    この町で生まれ育ったというリック・ハンスレーさん(82)。
    日本のテレビ局だと説明し「メイヤー・ピートの関心、日本でも高まっていますよ」と少し誇張しすぎかなと思いつつ伝えると、ハンスレーさんは「彼はいいよね」と応じ、支持する理由を話してくれた。

    左派ではなく中道・穏健派の候補を支持したいが、バイデン氏の77歳という年齢が気になるそうだ。
    その点、ブティジェッジ氏は若く、知的で期待できる、と。
    話を聞いたほとんどの人たちが支持の理由にあげたのが、ブティジェッジ氏の若さ、そして知性だった。

    未来を語る演説

    ここで開かれたのはタウンホールと呼ばれる比較的小規模な集会だ。

    ブティジェッジ氏は詰めかけたおよそ200人を前に、トランプ政権下で進む社会の分断への懸念を述べ、立場を超えて協力し、課題に立ち向かうことが必要だと強調。
    そのうえで、教育、医療保険、社会保障など有権者に身近な政策を語り、最後に改めて左派、中道・穏健派、さらには共和党支持者とも協力して未来を創っていこうと訴えた。

    演説の基本スタイルは同じだが、会場によって話題や言い回し、盛り込むエピソードを結構変えてくる。
    現状の課題、理想の未来を示したうえで政策を分かりやすく説明していくブティジェッジ氏の演説能力を高く評価する人は多い。

    陣営の戦略

    実はアイオワ州でブティジェッジ氏が支持を伸ばしている背景には、陣営の戦略がある。

    資源の集中投下だ。
    州内に設けた選挙事務所は20か所以上。主要候補の中で最多だ。
    さらにアメリカの選挙で有権者の判断に大きく影響するテレビ広告に、アイオワ州だけで3億円をつぎ込んでいる。

    人的資源と資金をアイオワ州など候補者選び序盤の州に集中させることで、混戦を抜け出そうという戦略が透けて見える。

    ただ、アイオワ州などで支持を伸ばしている一方、全米の世論調査の支持率では、トップのバイデン氏に依然として大きく水をあけられている。

    序盤の州に集中する戦略で党候補の指名を勝ち取れるのか?
    演説終了後に取材に応じたブティジェッジ氏に報道陣から質問が飛んだ。

    ブティジェッジ氏は戦略には直接答えず、「私たちのメッセージが有権者の心に響いているのは心強いが、まだ私たちのことを知らない人たちが大勢いる。訴えを続けていくことが大切だ」と述べ、訴えを続け浸透をはかると繰り返した。
    その表情からは手応えを感じていることが伺えた。

    続く混戦

    ここに来ての躍進で、2008年の選挙でアイオワ州を制したオバマ前大統領になぞらえる記事も目立つようになってきた。
    一方で、黒人層の支持を得られていないことや、上院議員だったオバマ氏と異なり国政での経験がないなど違いも目立つ。

    また、「アメリカは同性愛者の大統領を受け入れる準備ができているか?」という声は根強い。
    LGBTに理解を示すリベラル層が多い都市部とは異なり、地方に行けば行くほど意識は保守的だ。

    ブティジェッジ氏の勢いが全米でどこまで広がるのか。
    民主党の候補者の座をめぐる争いは混戦が続きそうだ。

    ワシントン支局記者

    石井 勇作

    1995年入局。
    国際部、ロサンゼルス支局などを経て
    2018年からワシントン支局・取材キャップ。