新戦略その1~若者を取り込め~
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去年12月のクリスマス前。
「これはテイラー・スイフトのコンサートか!?」
フロリダ州パームビーチの会場には5000人以上の若者が集結していた。
トランプ支持者といえば、白人の中高年の労働者層が代表的だ。大統領就任後も、毎週のように、全米各地で支持者集会を開いてきたトランプ大統領。
ところが、この3年の間で、その集会に変化を感じていた。若者の姿も目につくようになってきたのだ。
トランプ大統領の再選のための「新戦略その1」。
それは「若者を取り込め」だ。
集会を開いたのは、全米の1000以上の大学に支部を持ち、トランプ大統領や共和党を支持する活動を展開する、共和党系の学生団体「ターニングポイント」。
疑惑の“中心人物”に長蛇の列
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4日間にわたった政治イベント。初日に登壇したのはトランプ大統領の側近で顧問弁護士の元NY市長、ジュリアーニ氏。
ウクライナ疑惑で直接ウクライナに圧力をかけたとされる疑惑の中心人物で、野党・民主党やメディアの厳しい批判にさらされていた。
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ジュリアーニ氏は民主党への怒りをこうぶちまける。
「私は犯罪捜査の対象とされているが、犯罪をおかしたことは決してない。弾劾は違法で、道徳に反し、そして憲法に違反する」
ジュリアーニ氏と記念撮影しようと、会場内には若者の長蛇の列。繰り返すが、テイラー・スイフトではない。
列を作っている若者に、ウクライナ疑惑について聞いてみた。すると、みな、「弾劾なんてでっちあげだ。魔女狩りだ」と口をそろえていう。これはトランプ大統領の常とう句だ。
“保守的な主張を拡散せよ”
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集会で歓声をあげて騒ぐだけではない。イベント会場の一角では、再選に向けた具体的な講習会も開かれていた。
SNSでトランプ大統領への支持をどう呼びかけるか…。
保守的な主張を拡散させる効果的な方法は…。
「インスタ映え」する写真や動画の撮り方、タイトルの付け方までも…。
若者層には民主党支持者が多いとされている。しかし、トランプ陣営は、そこに「隠れトランプ支持者」が眠っていると分析している。そこをねらって力を入れている。
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さらに目に飛び込んできたのは、横断幕。
「社会主義は最悪だ」と書かれている。
アメリカでは、トランプ大統領の誕生もあって、現状への不満から、リベラルで社会主義的な考え方が広がっていると言われている。このイベントに足を運んだ若者たちは、そうした傾向に危機感を感じているという。
そして、この人が登場すると
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さて、イベント3日目。
ついにトランプ大統領が登場し、最高潮を迎えた。
弾劾のニュースで疲れた筆者をよそに、会場の若者は疲れを知らない。
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「USA! USA!」のコールとともに、スタンディングオベーション。
やはり、これは、トップミュージシャンのライブだ。
ニューヨークの女子高校生 「トランプのことを愛してるわ。大好きよ。2020年選挙はトランプ。イエーイ!」
バージニア州の女子大学生 「トランプは、若者の政治への見方を変えてくれたわ。ツイッターとかで私たちに直接語りかけてくれるもの!」
なぜ若者がトランプを支持するのか
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この集会に参加していた1人、ジョン・リザックさん(18)。
保守的な家庭に育ったというリザックさん。今はニューヨーク州の大学で経営学を学んでいる。
入学して驚いたことは、圧倒的な「リベラル派」の多さだ。「保守派」ではなく。
ある程度、予想していたことではあったという。しかし、ある出来事が彼を突き動かすことになる。
去年11月、キャンパスで共和党への支持や銃を所持する権利を呼びかける活動をしていたところ、突然、リベラル派とみられる学生たちに取り囲まれ、活動を妨害された。気付くと200人ほどに取り囲まれ、「口汚く」ののしられたという。
「これはおかしい。表現の自由は学内にはないのか」と衝撃を受けたリザックさん。しかしその後…。
今度は「実は自分もトランプ大統領を支持している」と明かす若者が次々と声をかけてきたという。
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これが「隠れトランプ支持者」なのか。リザックさんは、仲間とともに、トランプ支持を広げようと動いている。大学内では、学生はおろか、教授までリベラルが多数派で、リザックさんとその仲間など保守派の学生は、肩身の狭い思いをして疎外感を抱えていると話す。だから、「もう『隠れトランプ支持』ではなく、声を上げるべき時だ」と、呼びかけている。
リザックさん 「社会主義は失敗しているのに、アメリカは社会主義に向かっています。保守の波は来ます。愛国的なアメリカ第1主義の波がわれわれの世代を包み込もうとしています。それはトランプを支持し、アメリカを支持することです」
新戦略その2~黒人を取り込め~
「新戦略その2」は、黒人層だ。
黒人は伝統的に民主党の支持基盤。前回、2016年の大統領選挙の出口調査では、黒人の88%が民主党のクリントン氏に投票。トランプ氏に投票したのはわずか8%とされている。
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「BLEXIT!」。
最近、トランプ集会で目にするようになった、この標語。
イギリスのEU離脱にかけて「BLACK=黒人」と「EXIT=離脱」を合わせて民主党からの離脱を訴える造語だ。
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そして、トランプ大統領は、こう呼びかける。
「民主党の政治家のもとでは、黒人は“忘れられている”。私の政権下で成し遂げたことを見たでしょう。黒人はもはや“忘れられた人たち”ではないのだ」
黒人に何をアピールするのか
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黒人支持者を増やすキーワードは、「格差」と「雇用」。
好調な経済を背景に、黒人に限って見ても失業率は改善している。陣営は各地で小規模の集会を開き、草の根で支持を広げようとしている。
去年12月、南部バージニア州で開かれた集会を訪ねた。地元の人たちが集まるバーで、陣営の担当者が30人ほどの黒人を相手に熱心に訴えていた。
トランプ大統領が就任してからの3年で、黒人の失業率は2ポイント以上低下した、と。これを成果として強調し、格差に苦しむ黒人層の支援につなげようというのだ。
巨大なマガハット(トランプ支持者が愛用する帽子)をかぶった黒人男性からはこんな声が聞かれた。
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「人種は関係ない。アメリカが再び偉大になればいいのです。肌の色は関係ない」
共和党の選挙戦略に詳しい専門家は、トランプ陣営の「新戦略」を、こう解説する。
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保守系シンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」マシュー・コンティネッティ研究員 「前回の大統領選挙ではぎりぎりの勝利だったが、今回も接戦が予想される。若者や黒人といった前回の選挙ではトランプに投票せず、クリントンに投票した人を民主党からひきはがし、取り込むことができれば、それがほんのわずかであっても、選挙結果に影響を与えるだろう」
“忘れられた人たち”
今回取材したトランプ支持者の若者や黒人は、それぞれの層の中ではあくまで少数派だ。
「反トランプ」の多数派は、この新戦略を「選挙のための、なりふりかまわない態度」と冷ややかに見ている。
不満を抱える少数派に「自分は味方だ」と呼びかけて、取り込みを図る。これは、前回の選挙で、ラストベルトの白人労働者層に「あなたたちは忘れられてきた」と訴えたのと似た手法だ。
では、トランプ大統領は再選するのか。あの手この手で、わずかな層を取り込もうという戦略は、トランプ陣営の危機感のあらわれともとれる。
だから、再選の確率は現時点では「五分五分」としか言えない。
まだわからない。