究極の大量拡散兵器

Ultimate weapon of mass dissemination=究極の大量拡散兵器。

トランプ大統領が使うツイッターを、政権内ではこう呼ぶ人もいるそうだ。

2019年11月現在、トランプ大統領のツイッターのフォロワー数は6650万人。これは世界11位で、最も多いオバマ前大統領の1億1000万人には及ばない。

ただ、つぶやく頻度がすごい。

アメリカの調査会社によると、就任後3年近くで、1日平均10回ツイートしている。足し上げるとすでに1万1000回。
ニューヨーク・タイムズによると、再選をかけた大統領選挙まで1年が近づいた10月の第2週は1日平均38回を超えた。

一方で、世論調査会社によると、ツイッターのフォロワーのうちアメリカの有権者は19%にすぎない。これはアメリカの有権者全体の5%、20人に1人の割合だ。

しかし、トランプ大統領のツイートは、私たちのような世界中の報道機関によってニュースとして伝えられるから、その「拡散力」は計り知れない。

とりわけ金融業界では影響力が増している。
アメリカの大手金融機関が9月、大統領のツイートがアメリカ国債の利回りに与える影響の大きさを測る指数を発表して話題になった。

指数の名前は「Volfefe」。
価格変動の大きさを意味する「ボラティリティー(Volatility)」とトランプ大統領が投稿した謎のタイプミス「covfefe」を合わせたユーモアたっぷりの造語だ。

削除されたツイッター画面

ところで、大統領はどのようにしてツイッターを投稿しているのだろうか。

イギリスのバーミンガム大学の言語学者が発表した論文やアメリカメディアによると、トランプ大統領は現在のアカウントを2009年に開設した。
ツイートの半数は「誰か」か「何か」を攻撃する内容だ。
大統領仕様の特別なiPhoneを使っている。
攻撃的なツイートは1人でいることが多い朝6時から10時に集中しているという。

投稿しているのは、必ずしも大統領本人ではない。
裁判の記録から、ホワイトハウスのスカビノというソーシャルメディア部長が、代理で投稿することも多いことがわかっている。
現在40代前半のスカビノ氏は、10代の頃にトランプ大統領が所有するゴルフ場のキャディーとして働いたことがきっかけでトランプ氏と出会い、フットワークが軽く忠実であることから、日本円でおよそ2000万円の給与でこの仕事を任されたそうだ。

トランプ大統領が何かメッセージを思いつくと、数メートル先の控え室にいるスカビノ氏を「おい、ダン!」と呼び出す。
メッセージを読み上げると、スカビノ氏がそれを大きな文字でプリントし、大統領に見せる。大統領がOKすると、ツイートボタンが押されるわけだ。
大統領自身が執務時間中に投稿しない理由は、人前で老眼鏡をかけた姿を見せたくないからだとも言われる。

就任直後、側近たちは大統領がツイッター中毒だと判断して、投稿を15分間遅らせ、その間に一度文案に目を通そうと計画していたこともあるという。

大統領はいま、報道内容よりもツイッターへの有権者の反応を気にしているとも言われる。
選挙本番まで、「究極の大量拡散兵器」の動向に注意を払わずにはいられない。

国際部記者

濱本 こずえ

2009年入局
函館局、大阪局などをへて国際部
関心分野は、アメリカ、中国、ITテクノロジー