環境問題 「パリ協定離脱」の命運握る大統領選挙

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    地球温暖化は依然として世界的な課題

    新型コロナウイルスの感染拡大による企業活動の停止などを受け、各地で大気汚染が改善したことが、NASA=アメリカ航空宇宙局などの調査で分かった。

    しかし、それも一時的な現象と見られている。
    多くの国で今後、本格的な経済活動が再開されるのに伴い、地球温暖化などの環境問題が世界的な課題として再浮上するのは避けられない情勢だ。

    再選すれば初仕事は「離脱」か

    その、地球規模の環境問題の行方も左右しそうなのが、アメリカ大統領選挙の結果だ。

    焦点となっているのは、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定※」からのアメリカの離脱。
    地球温暖化に懐疑的な立場をとるトランプ大統領が、去年11月4日、国連に協定からの離脱を通告したが、離脱のタイミングは規定により、1年後のことし11月4日。
    くしくも大統領選挙の翌日だ。

    中国に次いで世界で2番目に温室効果ガスを排出するアメリカが、本当に協定から離脱するのか。
    それは、トランプ大統領が再選されるかどうかにかかっている。

    地球温暖化対策を否定するトランプ大統領

    トランプ大統領は地球温暖化対策に、一貫して否定的な立場をとっている。

    2018年、NASAなどが報告書をまとめ、地球温暖化により経済的に深刻な影響が出る可能性があると指摘したが、「信じない」と一蹴。
    昨年末、アメリカの雑誌「タイム」が世界で最も影響を与えた「2019年の顔」に、地球温暖化対策を訴えるスウェーデンの17歳、グレタ・トゥーンベリさんを選んだときも、「ばかげている」とこき下ろした。

    トランプ大統領の発言の背景には、前回の大統領選挙でみずからの勝利の原動力となった中西部ラストベルトをはじめ、温室効果ガスを多く排出する石炭産業などからの支持を固めたい思惑もある。

    攻勢強める民主党

    一方の野党・民主党は、環境問題も選挙の争点だとして、対決姿勢を強めている。

    ペロシ下院議長は去年12月、地球温暖化対策を話し合う国連のCOP25に出席した際、“We’re still in(アメリカはまだとどまっている)”と発言するなど、パリ協定の離脱は決まっていないと強調。
    党の候補者の座を確定させているバイデン氏も、協定にとどまるべきだと主張している。

    その軸となる政策が、党内の若手議員らが提唱した「グリーンニューディール」だ。
    環境を表す「グリーン」と、世界恐慌の時代に、経済の活性化を図ろうとしたルーズベルト大統領の「ニューディール」政策を掛け合わせたことばで、地球温暖化対策や環境関連の事業に投資して、新たな雇用を生み出し、経済成長につなげようというものだ。

    バイデン氏は5月、陣営の環境問題などの公約を策定するチームの共同議長に、「グリーンニューディール」を提唱した下院議員のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏を任命した。

    アレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員(右)

    オカシオコルテス氏は左派のサンダース上院議員を支持していたため、バイデン陣営としては、彼女を重要なポストにつけることで左派からの支持を拡大したい思惑もあるとみられる。

    大気汚染で新型コロナの被害が拡大?

    さらに、今回の新型コロナウイルスの感染拡大も、環境問題をめぐる認識の違いを際立たせている。

    ハーバード大学が4月に発表した研究論文によると、大気汚染物質PM2.5を長年吸い込んできた人は、新型コロナウイルスによる死亡率が高くなるという研究結果が出た。

    これを受けてバイデン氏は自宅の地下室からメッセージを発信し、「トランプ大統領は科学を信じない。今回の感染拡大は気候変動に対応する必要性を気付かせてくれた」と述べて、大気汚染への対策を講じなかったトランプ政権が、結果的にアメリカ国内の死者数を増やしたと批判。
    一方、トランプ陣営は、大気汚染と新型コロナウイルスによる死亡率の相関性は、まだ実証されたわけではないとして、バイデン陣営の主張を否定している。

    アメリカではこれまで環境問題への関心が比較的低いとされてきたが、今回の大統領選挙では新たな争点の1つとして注目されそうだ。

    ※パリ協定
    2015年のCOP21で採択され、世界の温室効果ガスの排出量を2050年以降、実質的にゼロにする目標が掲げられた。アメリカは、2025年までに排出量を2005年に比べて26%削減する目標が設定された。

    (国際部記者 近藤由香利)