破れなかったガラスの天井
アメリカ大統領選挙のキーワードの1つとなっているのが「ガラスの天井」。 「女性の社会進出を阻む、表立っては見えないが、確かに存在する障壁」という意味で使われることばだ。
前回・2016年の大統領選挙では、ヒラリー・クリントン氏が民主党の大統領候補となり、高い知名度を背景に「初めての女性大統領」になることが確実とみられていた。
しかし、結果は共和党のトランプ氏の勝利。
クリントン氏は敗北を認めた際のスピーチで、「いつの日か、そう遠くない将来に、このかたいガラスの天井を誰かが打ち破ってくれると期待している」と悔しさをにじませながら訴えた。
立ち上がる 怒れる女性たち
トランプ氏が女性をさげすむような発言を繰り返したこともあって、その後、アメリカでは「ウィメンズ・マーチ」と呼ばれる大規模なデモが行われるなど女性たちが激しい怒りの声をあげている。
この声に後押しされ2年前の中間選挙では、下院で当選した女性議員が100人を超え、過去最多となった。
今回の民主党の候補者選びでも、これまでで最も多い6人の女性が名乗りをあげ、今もエリザベス・ウォーレン氏ら3人が指名獲得を目指している。
私は女性でもいいけど…
今回こそアメリカで「初の女性大統領」が生まれるのか。
アメリカの経済専門ウェブサイト、ビジネスインサイダーの調査によると、民主党を支持する有権者のうち5人に1人が、今回の候補者選びで「間違いなく」女性の候補に投票すると答えている。
さらにリサーチ会社、Ipsos(イプソス)が民主党支持者と無党派層を対象に行った調査では「女性大統領でも自分は問題ないと考える」と答えた人は74%に上った。
ところが、同じ調査で「自分の近隣の住民は女性大統領でも問題ないと考えるか」という質問をしたところ、YESと答えた人は、たったの33%だった。
「自分は女性大統領でも別にかまわないけれど、周りには反対の人が多いと思う」という意識。 これが今のアメリカの「ガラスの天井」の正体なのかもしれない。
女性かどうかよりトランプ打倒
また、民主党支持者の間には、前回ほど「女性かどうか」にこだわっていないのではということを示すデータもある。
Ipsosの調査では、「民主党の候補に投票する際に重要なこと」を聞いたところ、「女性候補であること」という答えは、40%。
一方、突出して多かったのが、「トランプ大統領を打倒できること」で82%だった。
今回は「初の女性大統領」より「トランプ大統領に勝つ」ことの方が大事。 そんな空気は、実際の動きにも現れている。
例えば、ことしの「ウィメンズ・マーチ」。
トランプ大統領が就任した2017年に首都ワシントンで参加した人はおよそ50万人だったのに対し、ことしの参加者はわずか1万人ほどだったとみられている。
女性候補にとっては逆風ともいえる今の状況。
それでもガラスの天井を破る候補は現れるのか。
まずは、民主党の候補者選びの行方が最大の焦点となる。
(国際部記者 藤井美沙紀)