英断かエゴか 論争呼ぶ中東政策

目次

    トランプ政権 中東政策の基本方針とは

    大統領選挙に向け、論争を呼んでいるのがトランプ大統領の中東政策だ。
    中東地域に対するトランプ大統領の方針は、明確で一貫している。

    基本方針は次の2点だ。

    ▼中東の紛争からは手を引く。

    これに基づき、シリアの内戦では、駐留させていたアメリカ軍部隊の大半を撤退させる方針を示した。

    ▼同盟国のイスラエルを全面的に支援し、敵対するイランには強硬姿勢で臨む。

    イスラエルに対しては、パレスチナとの間で争いのある聖地エルサレムをイスラエルの首都と認め、歴代の政権が行ってこなかった大使館の移転を強行。
    その後も次々とイスラエル寄りの政策や方針を打ち出している。

    イランに対しては、オバマ政権時代に結んだ核合意から一方的に離脱し、「史上最強の制裁」と称する厳しい経済制裁を科して圧力を強めている。

    トランプ大統領の狙いは…

    こうしたトランプ大統領の一手一手には、再選に向けた支持固めの狙いが透けて見える。

    中東の紛争、特にシリア内戦からの撤退は、2016年の大統領選挙のときの公約。

    「我々はこのばかげた終わりのない戦争から手を引き、兵士たちを帰国させる」。

    シリア北部から部隊を撤退させると表明したときのトランプ大統領のツイートだ。
    公約の実現を強調し、イラクやアフガニスタンでの血みどろの紛争に嫌気がさしていた人たちの心をつかもうとしている。

    イスラエル寄りの政策の数々は、国内のユダヤ系の団体やイスラエルへの支援を信仰の柱に据える「キリスト教福音派」へのアピールという側面が強い。

    特に、キリスト教福音派はアメリカ国民のおよそ4分の1を占める最大の宗教勢力。トランプ大統領が再選に向け最も重視している人々だ。
    実際、こうした人々からは、トランプ大統領の政策を「アメリカの国益を重視した英断だ」と評価する声も多い。

    野党「アメリカの信頼を失墜させた」

    これに対し、野党・民主党は批判を強めている。

    イランとの核合意から一方的に離脱したことについて、大統領選に名乗りを上げている民主党の候補者たちは「誤った判断だ」と口をそろえる。
    イランは、アメリカの圧力に対し、ウランの濃縮活動などの核開発を再開する対抗措置に乗り出し、かえって危険な状況を生み出しているという主張だ。
    さらに、国際的な合意を一方的に破棄したことで、アメリカ外交の信頼は地に落ちたと非難する。

    シリアからの撤退を巡っては、民主党はアメリカがクルド人勢力を裏切ったと批判する。撤退を契機に、クルド人勢力は対立するトルコの軍事攻撃の標的となったためだ。
    アメリカは、過激派組織IS=イスラミックステートとの戦いの中でクルド人勢力と手を結び、地上戦を担わせてきた経緯があり、民主党だけでなく、与党・共和党からも厳しい非難の声が出た。

    トランプ大統領の中東政策は、国益と国民の命を第一に考えた英断なのか、それとも自分の再選を優先させる単なるエゴなのか。
    論争は続いている。

    (国際部記者 栄久庵耕児)