河野憲治がトランプのアメリカを行く
バイブルベルトのミレニアル
アメリカ南部の保守的な州で暮らすミレニアル世代は、選挙をどう見ているのか。南部テキサス州に来てみました。
テキサス州は、38年前の大統領選挙以来、ずっと共和党が勝利してきた保守派の牙城です。
信仰心が極めてあついキリスト教福音派が60%以上を占めるとも言われています。
高層ビルの立ち並ぶ大都市ダラスからしばらく車を走らせると、目に入るのは、広大な牧草地と、たくさんの牛がゆったりと草をはむ姿です。
そんな中に平屋の建物が現れました。一見、商店のようですが、よく見ると“Cowboy Church”と書かれた看板がかかっています。中では、ブーツにジーンズ、そしてカウボーイハットの男たちやその家族が参加して日曜の礼拝が行われていました。
牧師もカウボーイ姿で説教していました。
「いまはインターネットで多くの情報が手に入ります。耳に響きのいい教えを見つけることがあるかもしれません。しかし神の言葉と全く矛盾するものもあります。注意しましょう」
ある若者との出会い
23歳のトラビス・ミッチェルさんに出会いました。
日曜の夜をどう過ごすのかと聞くと、聖書の勉強会に参加するという答えでした。
朝も夜も聖書!
その勉強会を見せてもらうことにしました。
近所の牧場主の家で、その男性が講師役となって、若い人たち6人が参加して行われていました。
この日のテーマは「赦(ゆる)し」について。それぞれ聖書の一節を読んで、自分の考えや経験を話していました。
終わった後で話を聞きました。
「日曜の夜は外食したり、テレビでスポーツ観戦したりする人が多いけど、そうしたくないの?」と聞くと、答えは―
「いつでも悪魔の誘惑はありますが、やはり神の存在を感じて過ごすほうがいいんです」
続いて「ミレニアル世代の間では、同性愛や妊娠中絶を容認する人たちが増えているけど、どう思う?」と聞くと-
「自由の国なので、いろんな考え方があります。でも自分は反対です。聖書の教えは明白です。そういう主張の候補者には、投票することはないでしょう」
当たり前に銃のある生活
ミッチェルさんが別の日に友人と狩猟をするというので同行させてもらいました。と、言っても、野鳥や鹿を狙うのではなく、夜間に牧場の中を車で回って、コヨーテやイノシシを銃で撃つのです。牛を襲ったり、牧場を荒らしたりする害獣を駆除する仕事というわけです。
手にしている銃は、いわゆるAR15というライフル。軍隊でも使われているタイプです。ふつうの猟銃を使うと思っていたので驚きました。ジャケットの下には、左胸に拳銃をぶら下げていました。
テキサスでは、許可があれば、見えないように隠して携帯するのは認められているそうです。いつも持ち歩いているので、持ってないと落ち着かないとのこと。他の州に旅行するときは、銃の携帯について、その州の規則を調べてから出かけると話していました。
カウボーイにとっては、銃は生活の一部と言ってもいい存在でした。これだけ銃の乱射事件が相次いでいるのだから、銃所持を規制したほうがいいと思わないかと聞いたら、次のように返してきました。
「銃を規制して、まともな人から銃をとりあげるのはまちがっている。人を殺すのは銃そのものではなく、それを使う人間だ。食べ過ぎて太ってしまうのも、悪いのは自分であって、スプーンのせいではないでしょう」
選挙では、銃規制を訴える政治家は支持しないと話していました。
ミレニアル世代の若い人たちは、リベラルな考えが強いとされています。しかし、アメリカ南部に広がる、いわゆる“バイブルベルト”では、聖書の教えを重んじ、変化を拒む若者たちが少なくないのが現実でした。
そんなテキサス州でも、全く政治経験のないミレニアル世代の若い候補者が政治を変えようと奮闘しています。
次回は、そのミレニアル候補についてお伝えします。
- アメリカ総局長
- 河野憲治
- 1986年に入局。ニュースウオッチ9前キャスター。
ワシントン支局長などを歴任し、いまニューヨーク駐在。
アメリカでの特派員歴は通算13年。