2023年8月25日
ウクライナ ロシア

ロシア軍がうまく防衛?ウクライナ兵の質に問題?反転攻勢の今

ことし(2023年)6月に始まり、各国が注視するウクライナ軍による“反転攻勢”。

しかしー。

「ハリウッド映画のような結果を求める人もいるが、ものごとは必ずしも映画のようにはならない」(ゼレンスキー大統領 2023年6月21日インタビュー)

こうしたなか、7月、欧米の著名な軍事専門家4人がウクライナを訪問。前線やキーウで直接、兵士たちに聞き取り調査を行いました。

激しい攻防となっている反転攻勢の今は? 専門家の分析です。

(国際部記者 山下涼太 / 後藤祐輔 / 野原直路)

現地調査を行った専門家は?

イギリス 国際戦略研究所 フランツ=ステファン・ガディ氏

聞き取り調査を行ったのは、アメリカの海軍分析センターのマイケル・コフマン氏やイギリスの国際戦略研究所のフランツ=ステファン・ガディ氏など4人。いずれも欧米の著名な軍事専門家などです。

4人は7月にウクライナを訪問。戦闘が続く前線や首都キーウなどで、ウクライナ軍の司令官や下士官、さらには情報機関の関係者などにも聞き取りを行ったとしています。

その後、ガディ氏が聞き取りをもとにした分析結果をSNSに投稿しました。

ガディ氏の投稿 2023年7月

見えてきたウクライナ軍の反転攻勢の実情。投稿された内容から反転攻勢の現在地を見ます。

将校や下士官の質は高いが…

まずガディ氏はウクライナ軍全体の課題についてこう指摘しています。

ウクライナ軍の砲撃(バフムト近郊 2023年7月)

ガディ氏のSNSから

「最前線で戦っている兵士たちに話を聞くと、反転攻勢の進展がないのは、戦力の投入と戦術のまずさ、部隊間の連携不足、官僚的なお役所仕事、旧ソビエト流の考え方、そしてロシア軍の抵抗によるものだということがよくわかる」

「ウクライナの将校や下士官の質は高く、士気も高い。しかし、動員兵の能力が低く、年齢が高いため、部隊の質に問題が生じている」

なぜ、ウクライナ軍の前進遅い?

ガディ氏は、前進の遅れの要因についてより具体的に分析しています。指摘したのが、ロシア軍が築いた防衛線を突破するため、歩兵による戦闘を強いられている現状です。

バフムト近郊とされる地域を進むウクライナ軍兵士 (2023年8月公開)

「多くで歩兵の戦闘になっている。このため機動力が低下していて、部隊はキロ単位ではなく、メートル単位でしか前進できていない。さらに歩兵を支援する(装甲車などを装備した)機械化部隊は地雷を除去する装置や防空ミサイル、それに対戦車ミサイルのような機動性を向上させる装備が不足している。このためほとんど展開できていないことも影響している」

そして、多くの専門家が指摘しているように、ロシア軍が仕掛けた多数の地雷も前進を遅らせているとした一方で、それ以上に動員兵の質が低く、「部隊間の連携」に問題があると強調しています。

地雷原を示す表示 (ハルキウ州 2022年9月16日公開)

「ロシアが張り巡らせた地雷原は問題となっている。地雷原は作戦行動の場所を狭め、前進を遅らせている。しかし、ウクライナ軍がロシアの防衛を突破する上で、地雷原よりもはるかに影響を受けているのは、大規模な統合作戦が実施できないことだ。ウクライナ軍は前進する際にロシアの対戦車ミサイルや砲撃に対して、よりぜい弱となっている。観察したかぎり、ロシアの防衛を効果的に打開することは望めない」

前線でのロシア軍は?

一方、ウクライナ軍の反転攻勢にさらされているロシア軍はどうか。

今回のガディ氏の投稿から、頑強に攻勢に対抗するロシア軍の姿も見えてきました。

「ロシア軍の質はさまざまだ。損耗は激しいが、ウクライナ側によればロシアは陣地をよく防衛している。戦術レベルではかなりの順応性があり、旧ソビエトやロシア軍の基本原則にしたがって、広い範囲を防衛している」

「ロシアの対抗策は効果的で、高機動ロケット砲システム=ハイマースによる攻撃の影響が減少しているとの証拠もある」

ロシアの多連装ロケット砲の攻撃 (ハルキウ州 2023年8月20日公開)

「ロシアの砲兵部隊への補給は実際に行われており、機能している。ウクライナ軍は無反動砲で優勢を確保しているが、ロシアは南部で多連装ロケットシステムにより優位を保っている。ウクライナ軍の火力優勢は局所的で、ロシアの防衛を突破するには不十分である」

さらに、ロシア側にはまだ十分な余力がある可能性にも言及しています。

「ロシアの弾薬を計画的に消耗させる戦闘を示す証拠は限られている。ロシア側は補給の問題を抱えているにもかかわらず、弾薬は入手可能となっている。ロシア側はウクライナの攻撃をいなすために予備兵を投入する必要に迫られていない」

戦況が変化するには?

では、これから戦場の最前線はどうなるのか?

ガディ氏は、ウクライナ軍がより体系的なアプローチをとることができれば、戦況に変化が生じる可能性があると指摘。ただ、ウクライナ軍の組織的な問題を挙げ、それができなければ、今後の戦闘でさらなる犠牲が増えると予想します。

「戦況が変わるとすれば、ロシアの防衛線の突破に向けてより体系的なアプローチをとって、ロシア側の士気を著しく低下させて防衛線が崩壊する場合だけだろう」

「ロシアの防衛線が崩壊することがなければ、今後、数週間から数か月のうちに予備の兵力が徐々に投入され、血みどろの消耗戦が繰り広げられることになる」

今後の反転攻勢、ポイントは?

そして、反転攻勢に向けて2つのポイントをあげています。まず、ウクライナ側の砲弾などの不足を補うための欧米各国の軍事支援の継続です。

アメリカ軍供与のりゅう弾砲を扱うウクライナ軍兵士 (ルハンシク州 2023年6月)

「火砲は不足しており、生産と納期を考えると対処が難しい」

「消耗戦においては、より多くの砲弾などが常に必要であり、着実に供給される必要があることは言うまでもない。西側のウクライナ支援は、反攻が成果を上げる見込みが残っている以上、継続すべきだ」

そして、その上で何よりも重要なのが戦術を組み合わせた作戦だと強調しています。

「ロシア軍は、戦力の損耗が激しく弾薬が不足していたとしても、個々の小隊や中隊規模ではウクライナ軍の前進を遅らせることができている。このためウクライナは広い範囲の戦線でより連携した攻撃を行う必要がある」

「スターリンク(※イーロン・マスク氏の提供した衛星通信システム)はウクライナの指揮・統制にとって絶対的な鍵を握っている。」

「ATACMS(地対地ミサイル)や防空システムなど追加の兵器の供与は戦力を維持するために重要だが、それらの兵器に適応し、より効果的に戦術に組み込まなければ、戦術的に重要な成果を得ることはできない」

「これは突破作戦にもあてはまる。追加の地雷除去の装備が必要であり、有用だろう。しかし、大規模な射撃と機動の統合が実現しないかぎり決定的なものとはならなず、それは極めて困難だ」

資料: ATACMS

最新情勢は?

ウクライナ軍の反転攻勢は、東部ドネツク州のバフムト周辺やドネツク州の西部、南部ザポリージャ州の西部の主に3つの地域で始まりました。

当初から、地雷原を突破しようとした欧米製の複数の戦車などが、次々に攻撃を受けたと伝えられるなど、ロシア軍が築いた分厚い防衛線を前に苦戦を強いられているとみられています。

アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズは、ウクライナ軍は、反転攻勢の開始から最初の2週間で戦場に送った兵器の2割を失ったと報じ、この中にはドイツの主力戦車「レオパルト2」も含まれるとしています。

攻撃を受けたとみられる西側から供与された戦車など(ザポリージャ州 6月10日公開)

一方、最近ではウクライナ軍の反撃の兆候も見えてきています。8月20日付けのニューヨーク・タイムズは、兵士らの話として、7月中旬に届いたアメリカのクラスター爆弾をかなり効果的に使っているとするなど、ウクライナ軍の善戦についても伝えています。

ウクライナ軍は、一部の集落ではざんごうで待ち伏せをするロシア軍兵士に対して銃撃戦も繰り広げながら一歩ずつ前進しているとみられます。その戦果として、ウクライナ側は、7月末には、ドネツク州のスタロマヨルシケを、8月16日には、その近くのウロジャイネの奪還を発表しました。ザポリージャ州のロボティネにも進軍しています。

ドネツク州ウロジャイネで旗を掲げる兵士 (2023年8月)

アメリカの一部メディアは「こうした小さな突破が続くことがロシア側にパニックを引き起こし、ウクライナ側に勢いをもたらす可能性がある」と指摘しています。 この勢いを保ちながらザポリージャ州のトクマクなど、要衝にまで進軍できるのかが焦点となっています。

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