2024年2月2日
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スエズ運河ルートを回避!フーシ派の船舶攻撃 世界の物流混乱

炎が吹き上がる石油タンカー。イスラム組織ハマスとの連帯を掲げるイエメンの反政府勢力フーシ派による攻撃を受けたものです。

紅海とその周辺での船舶攻撃が止まりません。その影響で多くの船舶がアフリカの喜望峰を回るルートに迂回うかいすることを余儀なくされ、日本を含む世界の物流や経済に影響が及び始めています。

ガザ地区での戦争が世界の人々の暮らしにダメージを与えつつあります。

(紅海攻撃取材班)

喜望峰に船舶集中

アフリカ南端に位置する喜望峰。15世紀、航海者のバルトロメウ・ディアスによって発見された岬で、強風が吹き荒れることから「嵐の岬」と言われていましたが、この沖合を通過してインドへの航路が発見され、「良い希望の岬」という名前に改名されたといわれています。

喜望峰沖を行き交う貨物船(2024年1月)

現地を訪れると、ふだんより多くの貨物船やコンテナ船が行き交っていることが確認できました。ヨーロッパとアジアを結ぶ最短ルートである紅海での攻撃が相次ぎ、迂回する船舶が後を絶たないのです。

紅海周辺で攻撃相次ぐ

攻撃を受け炎上するタンカー(2024年1月)

2024年1月26日には紅海周辺、アデン湾で石油タンカーがハマスとの連帯を掲げるフーシ派によるミサイル攻撃を受けました。イギリス企業が運航するタンカーは右舷の貨物タンク1基で火災が発生したといいます。2023年11月以降のフーシ派による商船攻撃で最大規模のものとなったとアメリカのメディア、ブルームバーグは伝えています。

アメリカ国防総省は、船舶に対する攻撃は30回を超えたと説明。(1月22日時点)フーシ派の勢力をそぐため、アメリカ軍とイギリス軍が繰り返し攻撃していますが、事態は収まっていません。

ガザの戦争が運賃上昇に

アフリカの喜望峰経由に迂回した船舶は燃料消費が増え、輸送コストが上昇。コンテナ船の運賃が急激に値上がりしています。40フィートのコンテナ1個あたりの運賃は、1月25日の時点で3964ドルで、軍事衝突が始まる直前の2023年10月5日時点と比べて2点8倍になっています。(英物流調査会社、ドリューリーの調査)

ガザ地区での激しい戦闘が起点となり、海上輸送という動脈を傷つけ、運賃上昇を通じて世界経済に影響を与え始めているのです。

ドイツのメーカー 減産迫られる

ドイツ 食洗機用の洗剤などを製造するメーカー

紅海周辺の混乱は遠く離れたドイツ企業の生産活動に影響を及ぼし始めていました。ドイツ西部ラインラント・プファルツ州にある食洗機の洗剤などを製造するメーカーを訪れたところ、経営者は困った表情を浮かべていました。船舶の迂回によって中国や台湾から調達している主要な原材料のクエン酸三ナトリウムなどの到着が通常より2週間ほど遅れるようになったというのです。

こうした原材料はヨーロッパでは調達が難しく、重量もあるため航空貨物での輸送に切り替えることも容易ではなく、倉庫にある原材料は底をつきかけています。

倉庫にはふだんであれば50トンは保管されているクエン酸三ナトリウムが10トンを下回っていて(1月25日時点)、物流の混乱の影響の大きさがうかがえました。

会社は1月24日から取引先に対して出荷量の減少や出荷時期を遅らせる調整を始めています。今後の原材料の調達の見通し次第では、3交代のシフトを2交代に変更して生産を減らす可能性もあるとしています。

この会社は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で今回と同じように中国からの原材料の調達が滞る事態を経験しました。しかし、感染が下火となった今、再び同じ問題に直面するとはまったく想定していなかったということです。

洗剤などの製造メーカー「ゲヘム」マルティナ・ナイスウォンガー社長

「今回の危機は予想していませんでした。2月は厳しい状況になると覚悟しています。原材料が予定どおりに届くことはないでしょう。これからの生産量は、本当に原材料が届くか、そして、どのくらいの量が届くかによって決まります」

日系食品メーカー 値上げの可能性も

イギリスに輸出されたマヨネーズ

イギリスでは日系企業も影響を受けています。日本などからカレーやマヨネーズ、コメといった食品を輸入して日本食レストランや小売店に販売するロンドンにある日系の大手食品輸入会社を訪ねました。

出荷場所などによって変わるとしているものの、海上運賃はふだんと比べて2倍から5倍に上昇しているといいます。

そして事態が長期化した場合は商品の値上げを迫られる可能性があると指摘しました。

大手食品輸入会社 冨永美貴 サプライチェーンマネージャー

「長期化した場合には、調達ルートの見直しが必要になります。また、運賃が上昇しているため、今後、コストの見直しなどが必要になってくるかもしれません」

イギリスの複数の食品輸入会社から聞き取りを行っている「JETRO」=日本貿易振興機構は企業が新規のビジネスを広げにくくなっていると分析します。

JETROロンドン事務所 林伸光 農業・食品部長

「海上輸送が混乱している中、食品輸入会社は今、取り引きしている顧客の注文に確実に対応しようとしています。このため新規の顧客開拓ができないという声を聞きます」

小売り大手も影響を懸念

また、ヨーロッパでは小売り業への影響の広がりが懸念される事態となっています。

スウェーデン発祥の家具大手「イケア」は「一部の製品に遅れが生じ、入手が困難になる可能性がある」と明らかにしているほか、イギリスの衣料品メーカー「ネクスト」は、「スエズ運河を通行できない状況が続けば、ことしの初めには在庫の配送が遅れる可能性が高い。これが長期間続けば売り上げに影響を与える」と懸念を示しました。

さらに、イギリスの大手スーパー「セインズベリーズ」はワインや電気機器などについて、在庫を保つために仕入れの順序を慎重に検討していて、重要な問題だとして政府とも定期的に連絡を取り合っていると明らかにしています。

紅海経由でもコスト増加

影響は紅海・スエズ運河を経由するルートによって繁栄してきたイタリアの街にもあらわれていました。イタリア北東部、地中海に面するトリエステ港です。アジアとヨーロッパ東部を結ぶ物流の拠点として知られています。

船舶の手配を行うステファノ・ビジンティンさん

トリエステを拠点に荷主の依頼を受けて船舶の手配を行うステファノ・ビジンティンさんに話を聞きました。ビジンティンさんは、紅海とスエズ運河を経由して航行を続けた場合でも、貨物の運送コストは大幅に上がっているといいます。

その理由は

▼危険が高まっているとして保険料が値上がりしていること

▼海運会社は攻撃されるリスクを抑えるため、船舶をサウジアラビアのジッダなどの港に立ち寄らせて、より小さく、海運会社の名前などを表示していない船に貨物を積み替えていて、その分の費用が上乗せされること

さらにビジンティンさんは、物流の乱れの影響で、2月半ばころまでは空のコンテナが不足するという新たな問題も出てくると指摘します。

船舶の手配を行うステファノ・ビジンティン氏

「商業的には大惨事です。航行の安全を保つ必要があります。残念ながらコストはさらに上がる可能性があります」

地中海の港がスルーされる?

トリエステ港の関係者がさらに懸念しているのは、事態が長引いた場合の影響です。

中国などから到着した貨物はトリエステ港で荷揚げされたあと、列車やトラックでイタリアのほか、ハンガリーなどヨーロッパ東部の国に運ばれています。

紅海での攻撃が続き、アフリカの喜望峰を回る航路が定着した場合、貨物船は地中海を通らずにオランダのロッテルダムやドイツのハンブルクなど北海の港に向かうようになる可能性があると、トリエステをはじめイタリアの港の関係者は見ています。

海上でも、さらに陸上でも、モノの流れが変わり、イタリアが不利な状況におかれることを懸念しているのです。

イタリア港湾協会 ジャンピエリ会長

「アフリカを回るルートが定着すれば、イタリアの港の仕事が落ち込むことは明らかです。地中海の競争力が落ちればEUにとっても問題です。この危機が長引けば、経済的な影響が大きくなります」

スエズ運河の航行は71%減

アメリカの物流調査会社「プロジェクト44」によりますと、1月26日時点で、推計で362隻が危険を避けようとアフリカの喜望峰を回るルートに変更したといいます。また、スエズ運河を通る船の数は1月21日から1月27日の週で、12月中旬と比べて1日あたり71%余り減少しているということです。

フーシ派 “商船攻撃は続ける”

フーシ派 アベド・トール報道官

今後、フーシ派の攻撃はどうなるのか。

フーシ派のアベド・トール報道官が1月29日、NHKのオンラインインタビューに応じました。トール報道官はアメリカとイギリスがイエメンへの攻撃を行い戦争状態にあるとして、紅海などで行っている船舶への攻撃の正当性を主張しました。そしてイスラエルのハマスへの攻撃停止が実現するまでは同じような船舶攻撃を続けると強調しています。

フーシ派 アベド・トール報道官

「われわれはこれまで間違った標的を攻撃したことはなく、海上輸送になんら影響を与えていません。アメリカこそが海上輸送に悪影響を与えているのです。イスラエルがガザ地区への攻撃を止めればわれわれの攻撃も終わります」

専門家「まったく見通し立たず」

今後の見通しについて、日本の専門家に話を聞きました。

日本海事センター 後藤洋政研究員

「アジアから欧州の運賃が特に上がっています。また、航空貨物など、ほかの輸送モードを使うという対応をとった場合も追加的なコストがかかることになります。いつ、紅海で安全に船舶が航行できるようになるのかは今のところまったく見通しが立っていない状況です。紅海での航行が再開されるとしても、すでにルートを変えて対応している海運会社がまた、スエズ運河経由に船舶を戻すとなると、一定の期間かかることが想定されます」

ガザ地区の惨事 わがこととして

すでに日本でも一部の食品の輸入が滞っていることが判明しています。日本などからの部品の輸送に影響が出たことで自動車メーカーのスズキはハンガリーにある自動車工場の稼働を一時、停止しました。

砲撃を受けた住宅 ガザ地区ラファ2023年12月)

ガザ地区ではきょうもイスラエル軍による空爆や地上部隊による攻撃が続けられ、多くの人の命が失われています。憎しみが連鎖し、武力による応酬が中東の広い範囲に広がって、それが海上輸送を通じて世界の経済をゆさぶり始めているのです。ガザ地区の戦争は決して遠くの場所の出来事ではないと痛感しました。

(1月30日 ニュースウオッチ9などで放送)

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