2023年4月25日
インド 経済

スタバもシャネルも…なぜ?世界トップにインド出身者

グーグルを傘下に持つアルファベット、ユ-チューブ、マイクロソフトにIBM、スターバックス、シャネル、FedEx…

これらの世界的な大企業に共通しているのは、そのトップが“インド出身”だということです。

なぜインド出身者のトップ就任が相次いでいるのか。現地での取材、そして世界を知るビジネスマンの話から、その理由が見えてきました。

(ニューデリー支局長  平沢公敏)

休みの日は1日18時間勉強!

インド南部の都市チェンナイに住むシュウェタ・ビスウィシュさん(16)。この夏に大学受験を控え、追い込みの真っ最中です。

シュウェタ・ビスウィシュさん(16)

最難関のインド工科大学を目指すシュウェタさん。

学校がある日は家に戻ってから夜10時までオンラインで予備校の授業。休みの日も朝6時から夜12時ごろまで、文字通り1日中勉強しています。

実はシュウェタさんが通っている学校は、グーグルを傘下に持つアルファベットのCEO、スンダー・ピチャイ氏の母校で、ピチャイ氏は生徒たちの尊敬の的になっています。

母校を訪問したアルファベットのスンダー・ピチャイCEO

学校によると、ピチャイ氏はあまり豊かではない家庭で育ったということです。

そうした環境から世界的企業のトップに上り詰めた先輩の存在は「勉強を頑張ればチャンスをつかめる」と、中間層の家庭が多い生徒たちにとって大きな励みになっているのです。

英語や科学の全国規模のコンテストで優秀な成績を収めてきたシュウェタさんもピチャイ氏にあこがれている生徒の1人で、将来は天体物理学などの道に進むのが夢だといいます。

シュウェタ・ビスウィシュさん

シュウェタさん

「今はインド工科大学に入学することが目標です。いい大学に入れば、私の未来は決まります。ピチャイ氏も私たちと同じ普通の生徒でした。ピチャイ氏のような先輩がいることで、自信を持って勉強を続けられます」

人口およそ14億人、15歳から24歳の人口だけで2億5000万人を超えるインド。

受験競争が過熱し、インド西部のラジャスタン州コタは「あの町の予備校に行けば合格できる」と評判に。

人気の予備校で授業を受ける200人あまりの生徒たち

インド工科大学の合格者が多数出ているという大手の予備校では、インド全土から多くの生徒が集まるなど、受験が地域の一大産業になっていました。

なぜ世界でインド出身者が活躍しているのか

自身もインド出身で、マイクロソフト・インディアをグループ2位にまで育て上げたラビ・ベンカテサン元会長に話を聞くと、インド出身者が世界で活躍している背景について主に3つの理由を挙げました。

マイクロソフト・インディアのラビ・ベンカテサン元会長(左)と創業者のビル・ゲイツ氏

理由① 教育の充実

まず挙げたのは「教育の充実」とその人口の多さです。

ベンカテサン元会長

「明らかにインド工科大学のような非常に優れた教育機関がいくつもあり、その卒業生が50年前から海外に渡っていることです。
人口が多く、人材の裾野が広いという“ピラミッド”がうまく機能している結果です」

1947年にイギリスから独立を果たしたインドは、「科学技術なしに国の発展はない」と超エリートを育てるインド工科大学などの大学を各地に設置。

特に理工系の優秀な人材を育成するための教育に力を入れてきました。

国家予算に占める教育関連の予算は2006年度には対GDP比で3.1%だったのが、2020年度には4.5%と、2019年度時点で3.0%の日本を上回る数字で、多くの優秀な人材が海外に渡るようになっています。

理由② 打ち破った“ガラスの天井”

さらに、インド出身者の能力が世界で認められるようになったことも大きいと指摘。

以前は欧米系に比べてチャンスが得られにくかったアジア系の人材に対する見方が、この20年余りで大きく変わったといいます。

「80年代から90年代にかけて私がアメリカにいたとき、インド出身者のCEOはほとんどいませんでした。女性も同じです。だんだん増えてきて、今はたくさんいます。

つまり私たちは“ガラスの天井”を打ち砕いたのです。

企業の役員はインド出身者をトップに据えることをもう珍しいことでも、危険なことでもないと考えるようになりました。

そして彼らの成功が多くのインドの若者を刺激し自信を持たせ、世界に挑戦していく。その好循環が始まっているのです」

左から グーグル ピチャイCEO、ユーチューブ モハンCEO、IBM クリシュナCEO

理由③“カオス”な社会で鍛えられる打たれ強さ

そしてベンカテサン元会長が大きな特徴の1つとして挙げたのが、インド社会の厳しさ。

異なる言語や風習を持つ多様な民族が暮らし、“カオス”と言われる混とんとした社会でもまれることで、「打たれ強さ」や「柔軟さ」が鍛えられるといいます。

「リーダーの資質は困難な経験を通じて鍛えられます。信じられないような挑戦や逆境に直面した時、人はよりタフになります。
そして、困難な状況に対処するための考え方や方法を身に付けます。柔軟で、発想力が豊かで、粘り強く、あきらめずに前進し続けられるようになるのです。
インドは先進国に比べると暮らすのが簡単な場所ではありません。
システムは想定どおりには動かないし、さまざまなものが設計どおりにいかない。路上に牛が寝ていたり、車が逆走してきたりする道路状況は完全に“カオス”です。
インドで育つとそうした問題が日常的なので、対処法が自然と身につくのです」

高速道路を悠然と歩く牛たち インド西部ラジャスタン州にて

さらに高まるインド出身者への需要

インドの大学進学率は2000年には10%を下回っていましたが、2020年には約30%まで高まっています。(ユネスコ=国連教育科学文化機関調べ)

若者を中心に人口が増え続けていて、ことし中国を上回り世界一になる見通しのインド。

ベンカテサン元会長は、世界の大企業でインド出身者が活躍する流れはさらに広がっていくだろうとみています。

マイクロソフト・インディアのラビ・ベンカテサン元会長

「21世紀に入り混沌とした世界は、“VUCA”(ブーカ)といわれます。これは、
Volatility=変動性、
Uncertainty=不確実性、
Complexity=複雑さ、
Ambiguity=あいまいさの頭文字からなる言葉で、
その昔、米軍が現在のウクライナのような戦場の状況を表現するために作った造語です。戦場では何もかも想定通りに動いてはくれません。兵士が生き残り、勝利するためには賢い意思決定が必要です。
VUCAの世界では、多くのインド出身者が持つ、不安定で不確実な状況に強いという特性は大きな武器となるのです」

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