2022年11月3日
韓国

ソウル 梨泰院での事故 駆けつけた記者が現場で見たものとは?

日本人2人を含む156人が死亡した韓国ソウルの繁華街、イテウォンで起きた事故。
発生直後、NHKの記者が自宅から現場にかけつけると、混乱した光景が広がっていました。

(ソウル支局 長砂貴英)

週末の深夜に・・・

「イテウォンで数十人が心肺停止」。

週末の深夜、自宅でこれから寝ようかと家族と話していたところ、目を疑うような韓国メディアのニュースの通知がスマートフォンに飛び込んできました。いったい、何のことか、何が起きたのかと思う間もなく、同じ内容のニュースの通知が鳴り止まない状況になりました。

「ただごとではない」。

事故現場は自宅から3キロ余り離れた場所で、ハロウィーンで賑わっていたとありました。「群集事故かもしれない」と思い、すぐに上司に連絡し、タクシーに飛び乗って現場に向かいました。

タクシーの中で、SNSに投稿された動画や画像を確認します。路地で人が無数に倒れ、心臓マッサージがあちこちで行われています。

街じゅうで救急車などの緊急車両のサイレンが鳴り響いていました。

現場まで数百メートルの付近にくると、仮装した若者たちが道の両側を覆い尽くすように歩いています。ただ、タクシーは通行規制でそれより先に進むことができません。

わたしはタクシーを降りて現場に走りました。

どこへ向かうか?

警察官たちを追いかけて現場へ

イテウォンといっても、どこに向かえばいいのか。

目の前に韓国の警察官たちが隊列を組んで走っています。「彼らを追いかけよう」と思い、仮装した若者たちの流れに抗う形で現場に向かっていきました。

すぐに映像を東京に送らなければなりません。すぐにカメラをかばんから取り出して撮影しようと思いました。

しかし、パソコンで伝送する時間も惜しまれ、まずは1報ニュース用にスマートフォンで短く撮影した映像を専用のアプリで送ることにしました。

救急車や警察官の様子を撮影しながら、2分ほどの映像をスマホで東京のニュースセンターに送ります。その後、再び警察官たちを追いかけて現場に向かいました。

道路脇には多数の救急車が

道路の脇には救急車が何台も止まっています。現場に近づくにつれ、救助された人を乗せたストレッチャーが途切れることなくすれ違っていきます。

運ばれる人のほとんどが、全く動くことなく、布で顔や上半身を覆われたまま、救急車に収容されていきました。

「亡くなったのかもしれない」と思うと、胸がしめつけられました。

現場付近とみられる場所に到着すると、まだ大勢の仮装した若者たちが歩道を埋め尽くしていて、警察官が「立ち止まらずに進んでください」と大声で叫んでいます。

同僚から通信アプリで現場はホテル近くの路地のようだと教えてもらい、地図アプリをみながらそのホテルを見つけました。

現場に設営されたテントで活動する韓国の緊急医療チーム

現場の路地は警察官が立ち並び、立ち入りが規制されていましたが、大勢の人たちが周辺にとどまって様子を見守っていました。なかには泣き叫んで道にうずくまっている人も何人かいました。

現場にはテントが設営されて、医療関係者があわただしく動いています。

災害や事故現場にかけつける緊急医療チーム「DMAT」と書かれたベストを着た人たちの姿が見えました。「ここだ」と思い、上司に現場に到着したとスマホでメッセージを送りました。

混乱する現場

医療チームのテントの前には、手当てを受けたとみられる大勢の人が座ったり横たわったりしています。外国人の姿も多くみられました。力なく横たわった人の顔に表情はなく放心した様子で、知人や医療関係者とみられる人が脇から声をかけていました。

医療チームのテント前 外国人の姿も多数見られた

すぐ近くには交番がありました。「これだけの状況で警察は一体どんな警備をしていたのだろうか」。そんな疑問も浮かびました。

現場から通りをはさんで向かいの建物の2階に、営業中の飲食店がありました。現場全体が見渡せる映像が必要だと思い、そのビルを駆け上がりました。

飲食店の2階から見た事故現場の路地

中に入ると、すでに韓国メディアのカメラマンが2人、現場にカメラを向けています。店主に声をかけて名刺を渡し、この場から撮影してもよいかを尋ねると「撮影してください」とのことだったので、すぐに小型のカメラで撮影を始めました。

通行規制のラインの奥では、大勢の警察官たちがあわただしく動いています。路上にはハロウィーンの飾りや買い物袋、ペットボトルなどが散乱していました。

短く撮影を終えると、再び路上に戻って仮装した若者たちに何が起きたのかを聞いてまわります。

日本のNHKという放送局だと名乗り、撮影の許可を得た上で当時の状況を話せる範囲でお願いしますと声をかけていきます。断られ続けますが、何人かが応じてくれました。

質問に応じてくれた人

「人々は坂道で倒れ、重なるように倒れていった。たくさんの人があちこちで心臓マッサージをしていて…。もうその光景は、口にできない…。口にできないような状況でした」

「コロナ禍で大規模にハロウィーンをできなかったが、今回、突然たくさんの人が集まったからこんな事故になったと思う」

撮影したインタビューを東京のニュースセンターに送り、再び街頭の撮影を始めます。

事故から数時間たって、徐々に人の数は少なくなってきましたが、仮装した若者たちで歩道は埋め尽くされたままです。付近の飲食店のなかには営業を続けているところもあり、お酒を飲み続け、談笑している人の姿もありました。

緊迫し混乱した現場のすぐそばで、それとは関係ないかのように友人たちと過ごす人たちの姿のギャップ。私は本当に当惑しました。

これは、社会の規範がどうこうというよりも、ハロウィーンという非日常の空間、そして通常では考えられないようなさらに非日常の事故のため、こうした状況が起きているのではないだろうか。

私はそう感じました。

なぜこんなことが起きたのか?

現場に到着してから7時間後の朝のニュースで、現場で見た状況を中継で伝えました。中継用コメントを書きながら、なぜこんなことが起きたのか、なぜこんなに亡くなったのかという思いが頭から離れず、感情が高ぶったままでした。

朝のニュースで現場から中継

中継が終わり、再び現場で警察の動きを取材していると、足元に色のついた細長い紙が散乱しているのをみつけました。治療の優先順位を決めるトリアージに使われたとみられるものでした。

事故から時間がたち、当時あの場所で何が起きていたのか少しずつ明らかになってきています。韓国社会はこの事故にどう向き合うのか、そして再発防止のために何を取り組むのか、引き続き取材していきます。

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