ひきこもり 親と子の溝は

NHKが行った、ひきこもりに関するアンケート。この中では、当事者と家族の悩みに差があることがわかってきました。どうしたらこの差を埋めることができるのか、ある家族の事例から、そのヒントを探ります。

見えてきた親と子のギャップ

NHKの特設サイトでことし2月から募集しているアンケート。

当事者と家族に「現在の悩み」について複数回答で尋ね、11月中旬までに得られたおよそ700人からの回答を集計しました。

当事者の「現在の悩み」については、
一番多かったのが、
▽「心の不調や病気を抱えている」で71%、
続いて、
▽「社会に安心できる場所がない」が65.9%、
▽「経済的に余裕がない」が64.7%、
▽「解決の方法がわからない」が61.5%、
▽「仕事が見つからない」が42.6%などとなっていました。

一方で、
家族に「ひきこもり状態の本人について、どんな悩みがあるか」を聞いたところ、
一番多かったのが
▽「仕事をしていない」で75.1%、
▽「本人の身体的・精神的不調」が66.5%、
▽「本人とコミュニケーションが取れない」が38.9%、
▽「経済的な困窮」が38.1%などとなっていました。

また、当事者に対して
「親に不安や悩みを相談しているか」を尋ねたところ、
▽「している」と答えたのが25.6%だったのに対し、
▽「していない」が47.7%、
「かつてはしていたが、今はしていない」が26.3%と、
半数以上の当事者が家族と悩みや不安を共有できていませんでした。

相談しない理由として最も多かったのが、
▽「気持ちを理解してくれない」で41%、
▽次いで「価値観を押しつけられる」が31.8%でした。

アンケートからは、当事者と家族の悩みにズレがあり、家族間で、その悩みも共有できていないことが浮き彫りになりました。

“働くべき”を突きつけた

どうすれば、当事者と家族の溝を埋めることができるのか。
投稿を寄せてくれた、ひきこもって16年になる35歳の息子がいるという60代の母親、日花睦子さんから、そのヒントになる話を聞くことができました。

日花さんは、19歳で専門学校を辞めてひきこもりになった息子に対して、当初、働くよう、強く求めたと言います。

「『働かざる者食うべからず』と何度も強く言いました。
学校行かないんだったら、仕事しなさいよと」

それに対して、息子はずっと押し黙ったままの態度だったと言います。

「私の前に座らせて、『あんた何考えてるわけ?あんたのやりたいことをお母さんは応援するために仕事してるんだから、やりたいことがあるんだったら何でもやったらいいんだよ』とも言っていました」

ひきこもりって悪いことじゃない

どうしても息子のひきこもりを治したい。
ひきこもりを治すしかないと思い込んでいたという日花さん。

わらにもすがる思いで、ひきこもりに関するさまざまな本を読みあさり、本の中の言葉を自分の中で何回も反すうし、どうすればひきこもりから抜け出せるのか考えたと言います。

そうした中、参加したある講演会で触れた言葉が、日花さんの考え方を変える大きな転機になりました。

「登壇した先生が『ひきこもりって、そんなに悪いことですか』って問いかけてきたんです。そこで、考えたんです。悪いことかなって。いや、確かにうちの子はなにも悪いことしてないなって。問いかけを受けて、自分の中では息子をどう見ていくのか、大きな転機になりました」

同調圧力で接していたことを反省

長年教師をしていた日花さん。多くの子供たちを、時に同調圧力でまとめようと振る舞ってきたと振り返り、当時の行動や息子に対する態度を反省していると言います。

「学校の現場で、クラスに40人いて、40人にひとつのことやらせると思ったら、結果やっぱり言うこと聞かせるっていう気持ちが強かった。やりたいことを、むげにしてきたんじゃないかなと反省しています」

周囲からも責められる

また、親しい友人や親戚などからの厳しい視線にもさらされました。

「親戚や周りから、お前が甘やかしているからだと言われた。いつまでも息子の世話を焼いているからチャンスつぶしてしまったというような意味のことも言われた。それはずっとひっかかっています」

息子の今を受け入れられるように

講演会で触れた言葉。その後、ひきこもりを家族だけの問題ではなく、社会全体の問題だと考えられるようになりました。
普通って何だろう、当たり前って何だろうと、常に考えるようになり、たどり着いたのが「ひきこもるという選択をしている息子」をそのまま応援したいという気持ちだったと言います。

「学校に行って当たり前とか。仕事をして当たり前とか、いろんな当たり前が、その人、それぞれで全て違う。ひきこもりの解決って、何かわからない。脱ひきこもりだけではなくて、個々人の生き方の1つとして、ひきこもりでも生きていけるような道ができればいいのかなと思います」

ひきこもったままでも生きていける社会に

今、日花さんは、ひきこもりの家族で作る家族会に参加し、家族に寄り添いながらネットワークを作ったり、ひきこもりに対する社会の偏見を少しでも取り払ったりするような活動を積極的に続けています。

息子の選択が自宅にいることなら、その息子の判断や意思を尊重する。
そして、息子が“ひきこもったままでも生きていける社会にしたい”と考えています。

「私が死んだら息子は生きていけない。食べていけない。どうしたらと思う。毎日不安なのは変わらない。でも、このままだったら死ねない。息子が家にいるという、そのひきこもりを認めていくのであれば、その選択をしても生きていける社会を作るのが親の責任かと思います。家族自身も変わらないと駄目だと思いますし、社会がひきこもりを見る目、あそこの家だけの問題だってことじゃなくて、社会全体の問題だということを見ていけるようになったら、生きづらさってずいぶん軽減すると思うんです。息子がちょっとでも楽に生きられたら、それだけで幸せです」

「クローズアップ現代+」の中で、ヒントを探ります

NHKでは、特設サイトなどに寄せられた全国のひきこもりの当事者や経験者、家族の声や悩みを、「みんなでひきこもりラジオ」のパーソナリティー、栗原望アナウンサーに話してもらい、その様子を12月9日、午後10時からの「クローズアップ現代+」で放送します。どうしたら、当事者と家族の間の隔たりを埋めることができるのか、専門家などとともに、ヒントを探っていきます。

クローズアップ現代,ひきこもりラジオ

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