ひきこもり”部屋の写真集 “つながり”のきっかけに…

“ひきこもり”部屋の写真集 アートで変える!考え方

ゴミで散らかった部屋、そして、畳の上にマットと扇風機が置かれた部屋。
ひきこもっている人たちが自ら撮影した、自分の部屋の写真を集めた写真集が、ことし2月、出版されました。
ひきこもる人は、いまや100万人を超えると言われます。写真集は、そうした人たちにアートを通じて社会とつながるきっかけを持ってもらおうというものです。
リポート:高橋大地(ネットワーク報道部)

写真集の出版に合わせ、今月開かれた展覧会です。
写真が、ちょっと変わった形で展示されました。
壁のわずかな隙間からのぞきこむように見るのです。

何百冊もの専門書などに囲まれた部屋。
10年間大学に通ったものの、研究職への進路が断たれ、ひきこもった人が撮影しました。

ゴミで埋め尽くされた部屋の写真。
撮影した当事者は「ゴミがあることで、こんな自分を罰している気がして安心できます」とメッセージを添えています。

部屋の写真には、ひきこもった人たちのリアルな日常、そして抱え込んだ思いが映し出されています。

現代美術家の渡辺篤さんです。
ひきこもりの当事者たちに呼びかけ、自ら部屋を撮影してもらう取り組みを5年前から進めてきました。
およそ40人から写真が寄せられ、写真集にまとめることにしたのです。

現代美術家 渡辺篤さん
「ひきこもりの人の言葉は聞けない。
だから聞こうと思いたい、そういう機会を作っていきたい。
理解を深めるためのきっかけや材料になるかもしれない。」

きっかけはアート ひきこもり経験から再び社会へ

渡辺さん自身にも、ひきこもった経験があります。
美術家として成功できるのか。
大学卒業後、作品へのプレッシャーや不安などで追い詰められ、外に出られなくなりました。
3年間、ひきこもった末、再び社会とつながりを取り戻すきっかけとなったのが、実は、アートでした。
長年閉じこもっていた自らの部屋。
写真に撮ってみると、そこに生きる人の姿を表現するアート作品になることに気づいたのです。

現代美術家 渡辺篤さん
「ひきこもった時間がないと、空気感は作れない。
ひきこもった時間こそ、写真の制作期間だと考え方の転換をはかれば、ひきこもった時間は、クリエイティブな時間ではないか。」

“アクションを起こしてよかった” 30代女性の変化

渡辺さんの呼びかけに応じ、社会との向き合い方が変わった人がいます。
10年以上にわたり断続的にひきこもってきた30代の女性です。
女性が撮影した部屋の写真です。
敷きっぱなしの布団のそばには、たくさんの薬の袋。
漫画や小説、飲みかけのペットボトルがそのまま置かれています。

写真を送った女性(30代)
「一日中ずっと部屋で寝たきりみたいな生活。
友達は働いているし、早い子は結婚も出産もしている。
どうしたらよいのだろうと、不安しかなかった。」

ツイッターで偶然、募集を見つけ、スマホで送った写真。
渡辺さんは、苦しみや不安を表す良い作品だと受け入れてくれました。

写真を送った女性(30代)
「こんなふうにして使ってくれたんだ。
アクションを起こしてみてよかった。
一つのプロジェクトに携わっている、一つのものを作ったのかな。」

渡辺さんとのやりとりも重ねることで、女性は少しずつ家から外にも出るようになっています。

“ひきこもり×アート” 「傷ついた経験にこそ可能性」

さらに今、渡辺さんは写真だけでなく、新たな作品づくりも始めています。
共に作るのは、中学時代のいじめが原因で10年以上ひきこもってきた30代の男性です。
つらい思い出の象徴だという中学の卒業アルバムをコンクリートで複製。
それを2人でハンマーでたたき壊していきます。

現代美術家 渡辺篤さん
「いいよ!もう1発!」

「すっとしますね。」

そして、バラバラになったかけらを一つ一つ、つなぎ合わせていきます。

男性
「中学校の時の思い出や怒りみたいなもの、傷の正体みたいなものと闘う感じがあった。」

そして、作品が完成。
過去の苦しみを表現した力作として展覧会で披露されました。

男性
「傷だらけだけど立っている。
すごく気に入っていて、今の自分に似ている。
このかけらが、今後どうなるか。
このかけらが戻る日が来るのか、消えてしまうのか、このままか。
この部分がすごく重要な気がしている。」

ひきこもったからこそ生まれるアート作品。
渡辺さんは、その制作を通じ、当事者の新たな生き方を後押ししていきたいと考えています。

現代美術家 渡辺篤さん
「当事者と向き合って対話の場を作りながら、一緒にものを作り上げる。
ひきこもることは、クリエイティブな状況作りにつながる。
傷ついた経験自体が、何か可能性を秘めている。」

ネットワーク報道部記者
高橋 大地

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