中高年のひきこもり 手探りの支援

国の調査の対象外とされてきた40歳以上のひきこもり。実態をどう把握し、どう支援していくのか。模索を続けている北九州市のNPO法人を取材しました。

見過ごされてきた中高年

「取り組むべき第1の課題は、40代以上の方々に向けての支援だ」。この10年で、1615人のひきこもりの人を支援してきたNPO法人「STEP・北九州」の理事、田中美穂さんが今、特に力を入れているのが中高年の支援です。

若者特有の問題とされてきたひきこもりですが、全国各地で当事者の高年齢化が新たな課題となっています。例えば、茨城県が平成28年に独自に行った調査では、国の調査の対象外となっている「40歳以上」が、「39歳まで」を上回り、全体のおよそ6割を占めたのです。男性の比率が7割を超え、極めて高いこともわかりました。

田中さんがひきこりの子どもを持つ親を対象に開く講演会でも、子どもが中高年だという親が増えていると言います。しかし、中高年のひきこもりは、実際には、もっと多いのではないかと、田中さんは考えています。

その理由について、田中さんは「40歳以上の男性は、社会と家族を支える役割がある。そういう意識の強い年代だから、助けてと言うことさえ、はばかられる方たちがいてもおかしくない」と話しています。

「身動きとれない」 50歳男性の10年

私は、田中さんが1年前から支援している50歳の男性に会いました。「周りの人に対してとても気を遣う方なんだな」というのが第一印象です。会ったばかりのころ、男性は額から大粒の汗を流して緊張した様子でしたが、回を重ねるうちに、自身の過去について話してくれるようになりました。

東京の大学を卒業後、大手企業勤務を経て、非正規の仕事を転々としていた男性。40歳の時、60代の父親を介護するため、仕事を辞めざるを得なくなりました。未婚の男性は、孤独な介護生活の中で次第に周囲との関わりを失い、実家にひきこもり始めたと言います。

どんどん自分が嫌いになっていく。なんでこんなまぬけで、根性がないのか。脱力してやる気がそがれて、気力が起きない。何をするにもおっくうだった。職業人としての旬も外してしまい、後は死ぬまでの時間の方が短いと考えると、なおさら身動きがとれなくなっていった」。

当時を振り返った男性の言葉です。親とともに老いていく不安を感じながらも、頼れる場所を知らなかった男性。収入もなく、自己破産しました。債務整理を行った弁護士からたまたま紹介されたのが、田中さんでした。ひきこもり始めて10年近くがたっていました。

転機を生んだものとは

男性は、それまでひとりで抱え込んできた介護の悩みや孤独感を田中さんに打ち明けました。そして、病院に通うための手続きや生活再建について言葉を交わすうち、少しずつ、再び、他人とコミュニケーションがとれるようになったと言います。今では、地元のハローワークを1人で訪れ、社会復帰に向けて仕事を探しています。男性は「田中さんから『もっと自分を大事にした方がいいですよ』と言われた。そのひと言が、自分がこれ以上悪くならないように、真剣に考えるきっかけになった。自分の存在価値を誰かが認めてくれて、自分はむだな人間じゃないと言ってくれたことが大きかった」と話していました。

見えない「40歳以上」を探し続けて

男性のような中高年との接点を見つけ、支援につなげたい。田中さんは今、ひきこもりの人やその家族がよく訪れる地域の心療内科を訪ね歩いて、頼る先のない人がいた場合、自分たちにつなげて欲しいと呼びかけています。また、地元のサッカーチームも訪ねています。ひきこもりの人も参加しやすいサッカー教室を開くなど、スポーツの力も借りて支援のネットワークを広げたいからです。

どこに、どれだけ、支援を必要としている人がいるのか。国は、ことしの秋にも40歳以上のひきこもりの実態調査を行うとしていますが、今回取材した男性のように、高齢化したひきこもりの子どもとその親が孤立し、生活に困窮するケースが各地で報告されています。田中さんたちは、少しの時間もむだにはできないとして、今も、手探りの活動を続けています。

北九州局
伊藤一馬記者

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