8050問題 孤立する親子

「8050問題」という言葉、皆さんご存じですか。80は80代の親、50は自立できない事情を抱える50代の子どもを指し、こうした親子が社会から孤立する問題として「8050問題」と呼ばれています。代表的なのがひきこもりです。これまで若者の問題とされていましたが、ひきこもりが長期化し、子どもが40代、50代と中高年になる一方、親も高齢化して働けなくなり、生活に困窮したり、社会から孤立したりする世帯が各地で報告されています。なかには周囲から気づかれないまま親子共倒れとなるケースも起きています。

札幌で親子が衰弱死

ことし1月、札幌市中央区のアパートで82歳の母親と52歳の娘がともに遺体で見つかりました。死因はいずれも栄養失調による衰弱死でした。近所の人の話では、娘は10年以上ひきこもり、近所付きあいはほとんどなく、高齢の母親が娘の生活を支えていたということです。

近所の男性は「娘は家からほとんど出ず、年2、3回しか会わなかった。母親も助けを求めたりしなかった。近所づきあいは少なかったかもしれない」と話しています。
遺体の状態から母親が先に死亡し、娘はしばらくたってから亡くなっていました。娘は母親の遺体のそばで生活していたのです。遺体が見つかる10日ほど前、アパート近くで1人うずくまる娘の姿が目撃されていました。近所の人が声をかけましたが、娘は「大丈夫」とだけ答え、1人家の中に入っていったといいます。

他人ごとではない

周囲から孤立した親子が気付かれないまま共倒れとなった札幌のケース。ひきこもりの子どもを抱えた親にとって切実な問題となっています。小樽市内ではこうした親どうしが悩みなどを相談しあう会合が毎月1度、開かれています。参加者に取材すると、「自分が死んだ後、子どもがのたれ死ぬのか心配だ」、「親子共倒れはいずれ自分の問題になる」など、8050問題を不安に思う声が上がっていました。

この会を主催している鈴木祐子さん(70歳)も33歳のひきこもりの息子と暮らしています。息子は小学生の頃、いじめが原因で不登校になり、それ以来、20年近くひきこもりが続いています。ふだんは2階の部屋でゲームをしたり、ペットの世話をしたりして過ごし家族以外とは接点をもとうとしません。

鈴木さんは「この先、自分が倒れたあと、誰が息子の生活を支えてくれるのか不安です」と話しています。

実態がわかっていない中高年のひきこもり

ひきこもりを抱える家族の団体が行った調査では、ひきこもりの平均期間は10年8か月、平均年齢は32.7歳。期間、年齢とも年々上がっているということです。ひきこもりはこれまで若者の問題として位置づけられてきたため国が全国で行っている調査は39歳までが対象で、詳しい実態がわかっていませんでした。ただ、一部の自治体では、中高年を対象にした調査が行われ驚く数字が出ています。
例えば、茨城県がおととし1460人あまりのひきこもりの人たちを対象に行った調査で、40代と50代が683人と、その割合は46.6%に上っていました。また、佐賀県も去年の調査で40代と50代の割合が44.6%に上りました。その理由としては失業や病気もありますが、なかには学校での不登校や就職活動の失敗から長期間にわたって続いているケースもあります。

家族だけで抱えないで

各地域には「生活困窮者自立支援の窓口」などがあります。ただ、相談先があっても本人自ら窓口に行けなかったり、家族も声を上げにくかったりしてあまり利用されていません。今回の取材で出会った母親たちは、ひきこもりの子どもとの暮らしでいちばんつらいことは、近所の人や親戚から「子どもは何をしているの?」と聞かれることだと話していました。たとえ本人に悪気がなくても、責められているような感じを受けるからだという理由でした。ひきこもりの子どもを抱えた家庭では近所などの周囲に声を上げられないまま孤立してしまうのです。
大阪・豊中市の社会福祉協議会では全世帯に家庭訪問し、こうした問題で困っている世帯がいないかを把握する取り組みを4年前から進めています。訪問には、地域の民生委員や町内会も同行し、なるべく近所の人がその後も継続して見守ることで孤立を防ごうとしています。
取り組みを始めた豊中市社会福祉協議会の職員で、8050問題の名付け親の勝部麗子さんは「親子だけで解決しようとしてもなかなか改善できず、ひきこもりの長期化につながっている場合もある。困っている世帯は、まず生活困窮者自立支援の窓口を訪ねて欲しい」と話していました。誰にも気づかれず親子共倒れとなった札幌の親子。こうした世帯を孤立させないための対策が急がれます。

札幌局
三藤紫乃記者

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