ひきこもクライシス“100万人”のサバイバル ひきこもクライシス“100万人”のサバイバル

ひきこもり高齢化 地方では

”66歳”。

皆さん、何の年齢か分かりますでしょうか。

実は、ひきこもりの人の家族で作る「KHJ 全国ひきこもり家族会連合会」という団体が把握している、最高齢のひきこもりの人の年齢なんです。

これまで、若者の問題とみられがちだったひきこもりは、今、中高年層に広がっています。

山形県が、5年前に独自に調査した時点で、ひきこもりの状態にあった人は1600人。その45%が40歳以上でした。

16年ひきこもる40歳男性

今回、私は、山形県米沢市に住む40歳の男性に会いました。

男性は、今、地元のせんべい工場で、社会復帰のための訓練を受けていますが、16年間、ひきこもりの状態が続いています。

「どんな人だろう」と、少し緊張しながら会いに行きましたが、とても優しくて物腰の柔らかい方でした。

趣味の話になると口数も多く、「本当にひきこもりの人なのかな」と意外に感じたほどです。

いじめがきっかけに

しかし、ひきこもりになった経緯を聞くとやはり、その体験は深刻でした。

きっかけは、中学時代に同級生から繰り返し受けたいじめだったそうです。

うつ病になって入院し、一度は、就職しましたが、過去に受けたいじめの記憶がよみがえって仕事を続けられなくなり、ひきこもるようになりました。

家族以外と会うのが嫌で、カーテンを閉め切ったまま、一日中、部屋で布団をかぶって過ごしていたと言います。

精神的に不安定になり、自分の部屋の壁を殴りつけて大きな穴を開けたことや、うつ病の薬を一度に大量に飲んで病院に搬送されたこともありました。

そして、そんな男性がのめり込んでいったのが”自殺サイト”でした。

最初は、部屋のパソコンを使って自殺する方法を検索するだけでしたが、次第にサイトに書き込みをするようになりました。

そして、ある日、とうとう集団自殺の呼びかけに応じて、待ち合わせ場所に指定された、栃木県内の駅に足を運びました。

待ち合わせの時間を過ぎても誰も現れなかったため、自宅に帰りましたが、男性は、この時のことを、「本当に死ぬ気で行ったので、ホッとしたという訳ではなく、『なんで生きているんだろう』という疑問しかなかった」と振り返っています。しかし、一方で、「8割は死ぬことを考えながらも、2割は、どこか『今の状況から脱出したい』という思いがあった」とも話していました。

そして、去年4月、定期的に通っている心療内科の医師に紹介されて、職業訓練を受けるようになりましたが、ひきこもりになってからすでに15年がたっていました。

男性は、両親がすでに年金暮らしのため、できるだけ早く仕事に就きたいと考えていますが、一方で、本当に社会に戻れるのかと不安を感じています。

男性は、「いろいろな人に助けてもらって、なんとかやっていますが、ひきこもる時間が長いほど、社会に復帰するのは、難しくなりますし、戻れる保障はないと思います」と話しています。

追い詰められる中高年層

ひきこもりの人の家族で作る「KHJ 全国ひきこもり家族会連合会」の共同代表を務める伊藤正俊さんによると、40歳以上のひきこもりの人と、その親から、今、生活の不安を訴える相談が相次いでいます。

伊藤さんは、「ひきこもりの人がいる家庭では両親も高齢になって、年金生活や少ない収入の中で、親子で苦労しながら暮らしている。支援のための窓口もあるが、そこになかなかつながれずに孤立している状況で、このままでは共倒れになるおそれがある」と指摘しています。

国はようやく実態調査に

これまで、ほとんど、若い世代にしか目を向けてこなかった国ですが、国は、秋をめどに、40歳から60歳ごろまでを対象にした、初めての実態調査を行う方針です。全国5000世帯ほどを対象に本人や家族から調査票を集めて、ひきこもるようになったきっかけや期間などを分析した上で、今後の支援に役立てるということです。

この世代の人たちは、若い頃は、支援してくれる制度がなく、ようやく支援が始まると、今度は年齢制限に引っかかってしまうという、いわば”制度の狭間”で生きてきた人たちと言えます。

長年、社会の目が行き届かなかった、中高年層のひきこもりの人たちがこれ以上、抜け出すきっかけをつかめないまま、家族とともに追い詰められてしまわないよう、立ち直りに向けて支援していくことが、強く求められています。

  • 山形局
  • 武藤雄大記者