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プロジェクトマネージャが語る「はやぶさ2」の帰還

「はやぶさ2」のプロジェクトを率いてきた津田雄一さんは(45歳)これまでの道のりを振り返り、「結果としてはパーフェクトだった」と話す一方で、決して楽ではなかったと語りました。

「はやぶさ2」チームを率いるJAXA津田雄一教授

「はやぶさ」初号機の帰還前に、すでに構想がスタートしていた「はやぶさ2」プロジェクトの初期の状態について津田さんは、「開発を始めてから打ち上げまで3年ほどしかなく探査機の開発としては異例の短さだった。日々、起きる不具合や故障に対応しなければいけないが、小惑星は待ってはくれないので、打ち上げに間に合わせるのにとにかく必死だった」と当初から多くの困難があったことを語りました。

さらに、これまでで一番の困難な状況だったと津田さんが話すのは、「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」に到着した時のことでした。

津田さんは「一生懸命開発して、なんとかリュウグウに到着したのに、表面がどこもかしこも凸凹で、平らな場所がひとつもありませんでした。全く想像しておらず、ショックだった。このままではタッチダウンすることができないと思いました」と当時の切迫した心境を話してくれました。

しかし、結果的には2度のタッチダウンに成功。とくに2回目は、金属製の球を表面に打ち込んだあとにタッチダウンに挑戦し、リュウグウの内部の物質の採取に成功したとみられています。

この成功の秘訣について津田さんは「事前に何度もひどいトラブルを想定し、訓練を積み重ねていました。訓練では何度も小惑星に墜落してしまいましたが、その経験が役に立ちました。しかし、なによりも大きいのは600人近くいるプロジェクトのメンバーのチームワークです。業務内容はそれぞれ違い、意見が違うことがあっても意思疎通をしっかりと行い、みんな同じ目標をもって取り組んでいたことです」と語りました。

こうして、世界で2例目の成功となった小惑星へのタッチダウンですが、ことし10月にはアメリカの探査機、「オシリス・レックス」が後を追いかけるように小惑星へのタッチダウンを行っています。

津田さんは猛追するアメリカに焦りを感じるのではなく、むしろ誇りに考えています。

津田さんは、「世界中がかつては、『小惑星は火星や木星などに比べたら注目に値しない』と考えていましたが、『はやぶさ初号機』がそのパイオニアとなった。日本の宇宙科学の規模や予算は小さいけれども、限られた空間、予算の中で工夫をして精巧なものを作り上げるのは日本の科学の特色であり、いまでは世界が『小惑星の科学はおもしろい』とこぞって目指すようになりました」と時代をリードした自負をのぞかせました。

カプセルを帰還させた後も、「はやぶさ2」の旅は終わりません。さらに10年以上かけて新たな小惑星に向かい探査を続けることが決まっています。

この「拡張ミッション」について津田さんは、「初号機も元気だったらこうしたことをやりたかったと思います。2号機の目標はサンプルリターンであり、その役割を果たせば自由の身です。なので、その後はさらに大胆に挑戦していきたい。新しい世界にいけば新しい発見があるので、拡張ミッションで宇宙のだいご味を再びみなさんにお見せしたい」と話していました。

カプセルの帰還を目前にしたいまの心境について津田さんは、「安心はしていませんが、自信をもってやっています。映像で見る限り、たくさんの小惑星のかけらが舞い上がって、 相当の量のサンプルがとれたと思います。肉眼で見るのが楽しみでワクワクしています」とした上で、「誰も手にしたことのない宝物が地球に帰ってきます。新しい科学や技術の芽がでてくることは、人類の未来への希望だと思います。2020年はコロナによって本当に多くの人たちが大変困難に見舞われて苦しんだ年ですが、全部が全部、悪いことばかりではなく、『はやぶさ2が宝物を持って帰ってこれたね』と話題になるような成果を残せればと思います」と決意を語りました。