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メルケル首相 12年の軌跡

9月24日に連邦議会選挙が行われるドイツ。3期12年にわたり国を率いてきたメルケル首相が勝利し、4期目続投となるかが注目されています。ヨーロッパで絶大な影響力を発揮するメルケル首相。任期中、ヨーロッパの信用不安やウクライナ危機、それに難民問題などの大きな政治課題に直面しましたが、手堅い政治手腕で無難に乗り切って国民の支持を獲得するとともに、ヨーロッパを主導する指導者として存在感を高めました。メルケル首相の12年の軌跡をたどります。

首相の支持率推移

首相に就任した2005年11月以降の、世論調査の支持率をグラフにしました。グラフを左右にドラッグすると、その時点(赤色の丸)の支持率とともに、主な出来事についての解説が下に現れます。

支持率

infratest-dimap社の調査データを第一生命経済研究所がまとめたものを元に作成

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1. 2005年就任 支持率80%に

メルケル氏が2005年に初めて首相に就任した直後の支持率は60%近くありました。翌年(2006年)1月にはシュレーダー前政権でイラク戦争をめぐって悪化していたアメリカとの関係を修復したことで外交面での手腕が評価され、支持率は80%に達します。
その後、健康保険制度の見直しを進めたことに対して、国民から強い批判を浴び、2006年11月には、支持率は47%にまで低下しました。
2007年に入ってからは、EU=ヨーロッパ連合の議長国の首相としてEUの新しい基本条約、いわゆる「リスボン条約」をとりまとめるなど指導力を発揮し支持率は70%台の高い水準で安定していきます。

2. 政権2期目 “信用不安”に対処

2期目に入ったあと、ギリシャで多額の財政赤字が発覚したことをきっかけにヨーロッパの信用不安が広がると2010年には支持率は40%台にまで落ち込みます。
ヨーロッパの信用不安でメルケル首相はヨーロッパ最大のドイツの経済力と比較的健全な政府の財政状況を背景に、EUの対策を主導しました。財政状況の厳しい国を支援するために設立されたEUの基金にはユーロ圏各国の中でドイツが最も多くの資金を拠出する一方、ギリシャなどに対し財政の立て直しのために緊縮策や構造改革を迫りました。国民の税金を支援のために安易に投入しない姿勢は国内ではメルケル首相への支持率を押し上げる要因となります。

3. 福島原発事故後、“脱原発”にかじ

エネルギー政策では、2011年の東京電力・福島第一原子力発電所の事故を受けて、従来の方針を一転させ、脱原発にかじをきりました。原発に反対する世論を見極め柔軟な姿勢を下す政治姿勢は国内で高く評価されました。

4. 経済状況改善 60%台に回復

メルケル首相は2000年代初頭に「ヨーロッパの病人」とまで言われた最悪の経済状態について前の政権が始めた大規模な構造改革を着実に進めることで12年で劇的に改善させました。
この結果、失業率は東西ドイツの統一以降、最低水準の状況が続いているほか、自動車産業を中心とする製造業の活性化を進め、「ヨーロッパ経済のけん引役」と言われるまでになりました。
こうした経済政策の効果もあって2012年頃からは支持率は再び60%台に上昇しました。

5. 政権3期目 ウクライナ危機で成果

外交面での成果により、メルケル首相への支持が高まることになります。2014年以降、ウクライナ東部で政府軍と親ロシア派との戦闘により犠牲者が増える中、メルケル首相が調停役となり、対立していたロシアのプーチン大統領やウクライナのポロシェンコ大統領と協議して停戦合意を結びました。メルケル首相が欧米を代表する形でロシアのプーチン大統領と正面から向き合って合意をまとめたことで国際的な評価が一気に高まるきっかけとなりました。
加えて2015年に再燃したギリシャの財政危機への対応についても評価されたことで、2014年から15年にかけてはおおむね70%と高い水準で推移します。

6. 難民問題 支持率急落

2015年の秋以降、メルケル首相は大きな試練を迎えます。中東やアフリカなどから多くの難民や移民がヨーロッパに押し寄せた際、メルケル首相は人道的な観点から難民の受け入れを表明し、手厚く保護する政策を打ち出しました。
この政策は当初は国内外から高く評価されたものの難民が急増し、治安悪化への不安がひろがると、一転して厳しい批判にさらされます。この年の大みそかに西部の都市、ケルンで女性たちが乱暴された事件に、難民の男たちが関わっていたことがわかると、翌年2月には支持率が46%に急落し、メルケル首相の影響力にかげりが見え始めました。
このためメルケル首相は難民の流入を抑える政策を相次いで打ち出します。

7. “英離脱” トランプ政権発足、支持率上昇

2016年6月、イギリスが国民投票でEUからの離脱を決めると、EUの結束を訴えてきたメルケル首相の支持率が前の月より9ポイント高い59%に跳ね上がります。
さらに、2017年に入ってアメリカでトランプ政権が発足してからは、支持率は再び持ち直し、7月には69%となりました。
ドイツ国民の間では、アメリカ第一主義を掲げるトランプ大統領に対する好感度が低いため、トランプ政権とは一線を画し、国際協調や自由貿易を重視するメルケル首相に支持が集まっているものと見られています。