メイ首相何を思う ~最後の外交舞台で~

「こんなはずではなかった」 イギリスのメイ首相はそんな思いを胸にG20に臨むのではないだろうか。2016年、サッチャー氏以来、2人目の女性首相として、期待を一身に背負って政権の座についたメイ首相。EUからの離脱というまさかの国民投票の結果を受けて、政権を率いることになったが、離脱に追われ、離脱に倒れた。G20大阪サミットで首相として事実上の最後となる外交舞台に臨む。(ロンドン支局長 税所玲子)

目次

    EU離脱につぶされた首相

    富裕層の多い保守党にあって、牧師の家庭に生まれたメイ首相は、大学卒業後、中央銀行を経て、地方議員から下院議員と、時に落選の憂き目にあいながらも、一歩一歩、階段をのぼりつめた「努力と忍耐」の人だ。

    そのきまじめさで、「EUから抜けたい」離脱派と、「残りたい」残留派の180度違う主張の折り合いをつけながらEUとの間で合意をまとめた。

    しかし離脱・残留双方とも、不満を募らせ、孤立した。イギリスのメディアは、そんなメイ首相を、「おもしろみがなく、かたくなだ」とやゆし、ロボットのような「メイボット」と呼んだ。

    議会で離脱協定案が3度も否決されるという屈辱を受けても、500ページをこえるEUとの合意文書を隅々まで記憶し、何時間もひたすら答弁を続けるメイ首相。その根性には、反対する議員でさえ舌を巻いたが、「ことばで人々を突き動かす政治でなく、リスク管理をしているようだった」と酷評した。

    「政権を去るにあたり恨む気持ちはない。愛する国のために仕事ができて感謝しかない」

    退任表明にあたって声を震わせたメイ首相。

    しかし、「私はロボットじゃない、感情もある。そして苦しかった」という心の叫びが聞こえた気がした。

    「破天荒」か「ズボンをはいたメイ」か

    一方、イギリス国内では後継者選びのレースが大詰めを迎えている。当初10人が立候補した与党・保守党の党首選びで、決選投票に進んだのはボリス・ジョンソン前外相とジェレミー・ハント外相という対照的な2人。

    ボリス・ジョンソン前外相

    ジョンソン氏は、政治家らしからぬ率直な物言いや、派手なパフォーマンスで人々の心をつかむ。オックスフォード大学を卒業、ジャーナリストとしてEUの本部のあるブリュッセルの特派員などを歴任し、下院議員を経て、ロンドン市長を2期務めた。

    ジャーナリスト時代の記事のねつ造疑惑や、たび重なる不倫スキャンダル、それに失言の数々も、「ボリスだから」と許されてしまう、というか、諦めさせてしまう不思議な存在だ。

    EUからの離脱を問う国民投票では、離脱派の「顔」として運動をけん引。離脱派は、本命の登場に期待を寄せる。

    ジェレミー・ハント外相

    一方のハント外相のあだ名は「ズボンをはいたメイ首相」。海軍大将の息子で、学校では学級委員長、オックスフォード大学でも保守党の学生団体の会長を務めた。

    国の医療制度を担う保健相を歴代最長となる6年つとめ、実務能力は高く評価されるが、まじめでおもしろみがないというのがもっぱらの評だ。

    国民投票では、残留に投票。ジョンソン氏と同様、「合意なき離脱」も選択肢とするが、EUとの合意を最大限、模索する姿勢を示す。

    弱者に肩入れする傾向が強いイギリス人の琴線に触れるねらいか、みずからを「党首選ではアンダードッグ」「負け犬」だとし、形成逆転をねらう。

    誰が首相になっても…

    しかし、どちらが首相になっても、待ち受けるのはいばらの道。

    離脱の期限は10月31日。首相就任から3か月で、外交交渉をまとめるにはあまりにも時間が足りない。しかもEUは、メイ首相との合意について、再交渉に応じない構え。

    もし新首相がEUとの交渉を諦め、「合意なき離脱」に突き進むもうとすれば、野党が提出する内閣不信任案に、与党内の残留派の議員が賛成し、政権が倒れるというシナリオすら、ささやかれる。

    最後の外交舞台でメイ首相は

    メイ首相にとって、事実上、最後の外交舞台となる今回のG20。

    きまじめなメイ首相は、計画性があり、こまやかな「おもてなし」で知られる日本に対し、よい印象を持っているとみられる。

    2年前の初来日の際の装いは、赤いワンピースに白いジャケット。トレードマークの大ぶりのネックレスでなく、清そな真珠をあしらうなどディティールへのこだわりをみせた。「日本に精いっぱい、敬意を示したかった」とほほえみ、滞在中はイギリスでは見せないようなくつろいだ表情さえ見られた。

    G20を前にメイ首相は、2050年までに温室効果ガスの削減をゼロにする目標を発表するなど、地球規模の課題に目を向けている。

    「特権階級でなく、すべての国民のための政治」を目指してきたメイ首相は、志を成し遂げることなく、退陣する。

    保護貿易や環境問題など世界的な課題が山積する中で、「離脱」をめぐる政治闘争にあけくれ、国際的な威信を失う国の行く末を、今後は一議員として見続けることになる。