芸術祭に「電凸」 当事者が語った

愛知県で開かれている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」は、展示の一部がわずか3日で中止されました。その直接の原因は、「ガソリンを持っていく」という脅迫でしたが、当時、芸術祭の事務局には、電話やメールなどによる抗議、いわゆる電凸(でんとつ)が相次いでいました。その数は3日間で2900件に上ったといいます。「いったいどんな人たちが電凸したのか」私たちはツイッターを調べていたところ、「反日イベントを潰しましょう」などとツイートしていた人物と連絡を取ることができました。

電凸した本人に接触!素顔は

待ち合わせしたのは、名古屋市の繁華街。

そこに現れたのはなんと16歳、高校生の少年でした。

2年前にツイッターを始め、そこで電凸を知ったといいます。

電凸とは、行政などに匿名で、電話やメールで集中的に抗議することです。

少年に、なぜ電凸したのかと聞きました。

すると、「ツイッターで、展示された写真などを見ました。天皇をコラージュした作品は、芸術と思えないし、少女像の展示は日本をおとしめるものだと思う。電凸は、相手も電話で受け取るので意見がすぐに伝わります。結構、影響力があるのではないかと思います」ときっぱり。

少年の話は事実でした。彼のツイッターには3700人のフォロワーがいて、芸術祭が開幕した翌日に投稿したツイートは2500人に拡散されていたのです。

「集団心理というんですか。ひとりでやるよりみんなでやったほうが何か許されるみたいな雰囲気はあります。自分が言うのも何ですが、やっぱり電凸をする人ははけ口というかストレスを出してしまうのかなと思います」

初めての電凸 きっかけは

さらに取材すると、別の人物にも接触することができました。

大手企業に勤める42歳のサラリーマンでした。

今回初めて電凸したという男性。

展示内容に抗議しようと思い、連絡先を確認してから、1時間も迷っていました。

それでも、電凸に踏み切ったきっかけは、県内に在住し、美容整形で有名な高須克弥院長のツイートだったといいます。

「高須院長が結構、怒ってらっしゃったんです。税金使ってやるとは何事だと。僕は、あっそうか、こういう人が動いているし、自分も納得いかんから、初めて電話していいのかなと思いました」

思いがけなく険しい口調に

男性は事務局に電話し、「うわさは本当ですか」と確認し、展示を撤去するよう求めました。

その際、自分でも思いがけなく険しい口調になったといいます。

「その時は感情をいくらおさえているといっても、やっぱり本当に冷静な状態ではないと思うんです。やっぱり今考えたらちょっと言葉が強かったなと思います」

事務局への抗議には、「死人が出るぞ」とか、「殺すぞ、この野郎」といった暴力をほのめかす内容も含まれ、対応した職員の中には、精神的なダメージを受けて、業務を続けられなくなった人もいたといいます。

後悔?それとも民意?

結果的に中止された展示会。これについてどう考えるか、42歳の男性は中止はしかたないとしつつ後悔の言葉も口にしました。

「こんなもん見せるべきじゃないと思って撤去していただきたいと電話したのに、本当に撤去されて、ああ残念やなというのはちょっとありました。抗議するほうも、もうちょっと冷静にならないといけないなと」

一方、高校生の少年は抗議はあくまで民意の表れで、中止は当然だと言い切りました。

「自分としては間違っていないと思っています。これは民意の反映で、いわゆる偏ったネトウヨの方の話ではなくて、総合的に社会の意見として(企画展は)潰れたんだと思います。自分としては当然という認識です」

専門家“マニュアル化された民意”

電凸による意見表明自体は、表現の自由であり、事務局もこうした抗議をできるかぎり受け止めようとしたといいます。

しかし、ネット上の社会問題に詳しい東京工業大学の西田亮介准教授は今回のようにSNSの呼びかけなどで広がった電凸による抗議は“マニュアル化された民意”だとして、その問題点を次のように指摘しました。

「民意は、本来異なる意見と接触し、時には意見や立場を変えながら形成されるものです。しかし、マニュアル化された民意は、人々の自発的な創意工夫や思考を奪っていると考えることもできると思います。それに従い、あまり考えずに行動した帰結がこの抗議の数であり、ある種の意見表明だったことも忘れないほうがいいのではないでしょうか」

私たちが今回接触できた電凸の当事者はごく一部にすぎません。
みなさんの意見や考えをこちらまでお寄せください。
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