再軍備 改憲 専門家の見方

昭和天皇が再軍備や憲法改正の必要性に言及していたことに対する「拝謁記」の分析に当たった専門家の見方です。

目次

「驚きだが気をつけて見るべき」

「拝謁記」の分析に当たった日本近現代史が専門の日本大学の古川隆久教授は「昭和天皇が戦前の軍隊に否定的な考え方だったということはこれまでの資料からある程度わかっていたが、改憲や再軍備に言及していたことは今回の拝謁記で初めてわかったことだ」と述べました。

そのうえで、「これは一般の人だけでなく研究者もかなり驚くと思うが、どういう文脈で、具体的にどういう内容を言っているかを、気をつけて見ていく必要がある」と指摘しました。

そして、「改憲と言っても自衛隊的なものを作ることを憲法上認めるということで、国民主権や象徴天皇の枠組みを変えるところまではいっていない。再軍備といって戦前の日本軍のようなものを再現しようと言っているわけではないし、外国に侵略できるような、あるいは日本の国政を左右するような軍隊ではない。昭和天皇は旧軍に関してはものすごく批判的で、同じような軍隊を再現する気が全くないということはちゃんと押さえておかなければならない」と述べました。

「国際政治の冷厳な現実を重視」

日本の近現代政治史が専門で一橋大学の吉田裕特任教授は「この資料を見ると昭和天皇は憲法を改正したうえで再軍備すると、かなりはっきり繰り返し述べているので、昭和天皇が独立国家であれば軍隊を持つのは当然だと考えていることがよくわかる。明示的に憲法を改正したうえで、 しっかりと再軍備することを考えていたことがわかったことは新たな発見だ」と述べました。

さらに、「吉田茂は軽軍備や安保のもとで憲法を改正せずに経済成長を優先させるといういわゆる『吉田ドクトリン』を採っていたが、昭和天皇がそれとはかなり違う路線を考えていたということも新しい発見だし、あまり予想していなかったので驚いた」と話しました。

そして、「吉田路線によって憲法の問題をきちんと議論しないままなし崩し的に再軍備が進み、その延長線上に今日(こんにち)があるということを考えると、原点においてこれだけ議論があったということを振り返ることは重要だと思う」と述べました。

そのうえで、「昭和天皇は一貫して国際政治の冷厳な現実を重視する、一種のパワーポリティクス みたいな議論が非常に強くて、軍事的な空白が生じたらそこにソ連が入ってくるという考えが非常に強い。背景として、朝鮮戦争の勃発によって冷戦が熱戦に転化してしまったことが大きく、 それとともに起こった国内の治安問題やレッドパージなどの騒然とした事態への危惧も非常に強い」と指摘しました。

「主権国家なら当然だというこだわり」

歴史家の秦郁彦さんは「旧軍閥の復活はダメだというのが前提で、憲法9条を改正して再軍備をするというのが主権国家として当然だというのが昭和天皇のこだわりだ。一方、吉田茂も独自の再軍備の構想を持っていた。ちょうどこの頃に警察予備隊ができたが、吉田としては日本の経済力が足りないうちは本格的な再軍備はできないので待っていてもらいたいという意味を込めて、再軍備に反対していた」と指摘しました。

基地反対闘争への批判的見解について

「『リアリスト昭和天皇』の安全保障論」

「拝謁記」の分析に当たった志學館大学の茶谷誠一准教授は「実際に私の祖母が内灘で試射場反対の座り込みやっていたので、その孫としては少し複雑な心境なのは確かだ」としたうえで、「今の観点から言うと昭和天皇がひどいことを言っている。とても保守的な人だと思うかもしれないが戦前の自由主義の価値観では自分たちの国を自前の軍隊で守るというのは当然のことなので、その視点から言えば当然のことを言っているだけだ。現実主義的な『リアリスト昭和天皇』の安全保障論が強く出ている」と指摘しました。

そして、「昭和天皇が、昭和22年、まだ日本が占領中の時期に戦後日本の安全保障論として沖縄および他の琉球諸島に駐留米軍にとどまってもらい、それで日本の安全を守ってもらうしかないという、いわゆる『沖縄メッセージ』を出していることを考えると、日本の中でも沖縄とか本土の一部の地域に駐留米軍を置いておくことで日本を守るんだという考えが昭和天皇の頭の中にずっと戦後通貫した考えとしてあったと受け取っていいのではないか。昭和天皇にとって安全保障上の持論だったということが、今回の資料で改めてわかった」と話しました。

「大局的に考えている」

また、古川隆久教授は「基地が置かれた現場の住民からすると納得のできない議論のようにも見えるが、昭和天皇は仮に再軍備するにしても日本を西側世界に残すためにはやっぱりアメリカ軍の駐留が必要だと考えていた。全体の利益から考えれば基地が置かれた地域の住民が多少不便を感じるのはしかたがないというマクロな視点で見たプラスマイナスで考えていることがこの発言に表れている」と述べました。

そのうえで、「昭和天皇からすると大局的な目で見たら議論の余地のない問題だと認識し、それまで天皇としてやってきた経験からも大局的な立場で考えるのが当然と考えているので、どうしても国民との間に矛盾が起きてしまう」と指摘しました。

そして、「田島は両方の気持ちがわかる立場だが、象徴天皇が国民に受け入れられていくうえでは決定的にマイナスだと判断し、いらだちはわかるけどここは黙っていてくださいという判断になっていったことがこの記録からうかがえる」と話しました。

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