分析に当たった専門家の評価

「拝謁記」の分析に当たった専門家は「昭和天皇の発言がほぼそのまま記され、本音を読み取ることができる非常に貴重な資料だ」と高く評価しています。

目次

「生々しい昭和天皇の本音」

日本近現代史が専門の日本大学の古川隆久教授は「詳しくて生々しい昭和天皇の肉声がいっぱい書かれているので非常に驚いた。発言の要旨ではなくほとんど昭和天皇がしゃべったままの言葉が書かれていると思う。昭和天皇の肉声をこれほど継続的に詳しく記録した資料は他に例がなく、今後昭和史を研究する上で超一級の基本資料になる」と指摘しました。

そして、「天皇の発言をきちんと記録しておこうという田島の気持ちが表れていて、昭和天皇としっかりコミュニケーションをとって仕事を進めることが大事だと考えていたことがわかる」と話しました。

そのうえで、「天皇の1人語りや断片的なメモではなく、2人の対話がそのままの形で克明に記録されているため、天皇がどのような文脈で発言しているのかが非常に明瞭にわかるのが大きな特徴だ。解釈の幅があまりなく、議論の余地なくわかる資料だという意味でも珍しい存在だ」と指摘しました。

さらに、「外に見せるために作ったり調整したりしたものではなく、あくまでも信頼できる側近との対話の記録なので、ここに書かれていることは生々しい昭和天皇の本音だと思う。田島長官の思いや意図もきちんと書いてあるので、それとセットで組み合わせて本音を読み取っていくことが大事だ」と話しました。

「天皇の考えの揺らぎ伝わる」

日本の近現代政治史が専門で一橋大学の吉田裕特任教授は「昭和天皇の肉声の記録は『昭和天皇独白録』のような、形を整えるために後から手を入れたものが多いので、発言をほぼそのまま記録しているというのは非常に珍しい」と指摘しました。そして、「昭和天皇と側近の内輪のやりとりが非常に克明にかなりまとまった形で残されているという点で非常に重要な資料だ。昭和天皇の肉声が聞こえてくるし、天皇自身の考えの揺らぎみたいなものが伝わってくる」と話しました。

「一言一句の記録 見たことない」

志學館大学の茶谷誠一准教授は「昭和天皇の発言を一言一句克明に書き残している。占領期から独立回復後の動きを追える資料がなかなかない中で、このような資料は見たことがなく、専門の研究者から見てもとても貴重な第一級の資料だ。1冊手にとって何ページか開いただけでもそれがわかるほどの価値ある資料が、これだけまとまった期間残されているのでさらに貴重だ」と述べました。

そのうえで、「5年前に宮内庁が昭和天皇実録を公開した際、どれだけ多くのことがわかるかと期待していてそうでもなく拍子抜けしたが、この拝謁記からは戦後の混乱期における天皇と宮中の動向を細かいところまでうかがい知れる」と話しました。

「生身の昭和天皇 衝撃的な資料

京都大学大学文書館の冨永望特定助教は「昭和天皇の肉声が話し方の癖まで細かく書かれていて、よくぞこれだけ書き残してくれたというのが率直な感想だ。昭和天皇もやはり感情を持った生身の人間だったということがよく伝わってくる、本当に衝撃的な資料だ」と述べました。そのうえで、「単に天皇が話したことを記録したのではなく、2人の対話が記録されている点が大きな特徴だ。昭和天皇の発言だけでなく、田島長官の発言や考えもたくさん書かれているので、昭和天皇が田島との対話の中でどのように自分の考えを決めていったのかよくわかる」と話しました。さらに「量が圧倒的で、田島の考えと天皇の発言とが明確に区別されているので、田島が記録者として非常に良心的であったと言え、間違いなくこれは質、量ともに最上級の資料だ」と指摘しました。また、「当時天皇がどのようなことを 考えていたのかという点で新事実が多いが、日本国憲法のもとで天皇はどのような位置にあるかということを、繰り返し模索していたことがわかる資料でもある」と述べました。そして、「歴史は選択の積み重ねで、過去の選択の上に現代の我々の社会がある。今後私たちが天皇にどのような役割を求め、皇室をどのように位置づけるかということを考えるうえで、新憲法発足時の当事者がどのような選択をしていったのかを知ることは、今後の私たちの選択をも左右する大きな指針になるだろう」と話しました。

「昭和天皇の本音がわかる貴重な資料」

成城大学の瀬畑源非常勤講師は「昭和天皇が本当は何を考えていたのかという本音の部分がわかる貴重な資料だ。憲法が変わり天皇や皇室をめぐる制度が変わったということは昭和天皇もよくわかっていたと思うが、それに順応しきれず昔のように政治家に色々言おうとするなど本音が克明に記録されている」と述べました。

さらに、「当時の社会についてどのように考え、どこを評価し、どこに不満があったのかなど、昭和天皇の考え方もよくわかる。生身の人間としてどのような葛藤や苦しみがあったのかなど、天皇個人の思想的なものもわかるので、ほかの資料とはかなり違う」と話しました。そのうえで、「天皇制と国民や政治家とのあり方の転換期に関するこれだけ大きな資料が出てきたことは非常に貴重だ。拝謁記の記述から、新憲法における象徴天皇が実は我々の見えないところで葛藤を抱えながら色々なことをやってきたことがわかる。それを土台に、象徴とはどうあるべきかを考えることが皇位継承や女性天皇の問題など今後のことを考える材料になるだろう」と話しました。

「拝謁記」とは 一覧に戻る

TOPに戻る