「9月入学」文部科学省の示した2案 メリット・デメリットは

先月下旬から、にわかに検討が始まった「9月入学」。本当に導入されるのか、子どもたちや保護者、学校関係者など多くの人たちがその検討の行方を見守っています。今回はその前提として、文部科学省が来年度から9月入学を実施する場合に示した2つの案について、詳しく説明します。

なぜ9月入学?

そもそも、なぜ今、9月入学なのでしょうか。背景には、新型コロナウイルスで、長い地域では、およそ3か月にわたり、休校したことによる大幅な学習などの遅れがあるとされています。

そうした遅れを取り戻す手段として、一部の知事らが9月入学の導入を求め、政府も検討を始めました。

もし来年度から実施すれば、今の学年で学ぶ内容を来年8月までの1年5か月かけて学ぶことができるため、遅れが解消できるとしています。

さらに、秋入学になれば、海外の大学に学生が留学しやすくなるとして、長年課題とされてきた教育のグローバル化も進められるとしています。

示された2つの案 メリット・デメリットは?

それでは、文部科学省から示された2つの案をみていきます。

1つめは、今の年長クラスに加え、年中クラスのうち、来年9月1日までに、満6歳となる子どもまで新1年生にすることで、1年間で一気に移行するパターンです。

2つめは、来年度から一学年を13か月としつつ、5年間かけて移行させるパターンです。

文部科学省は、2つの案について、以下のように説明しています。

パターン1~新1年生が増加

パターン1の場合、1年で移行が完了するメリットがありますが、大きな問題となるのが、来年度の新1年生です。

今の年長クラスの子どもの数は100万9000人ほど、そして、年中クラスのうち、対象となる子どもの数は42万5000人ほどで、足し合わせると、143万4000人余りです。これは今年度の1年生と比べておよそ1.4倍となります。

子どもの数は年々減少傾向が続き、昨年度は過去最少でしたが、もしこのパターン通りに新1年生になると、この学年だけ、まだ人口が増えていたおよそ30年前の水準に戻ることになります。

増加による課題は

これにより、想定される課題はさまざまです。まず今、年中クラスのうち、誕生日が9月1日までの子どもは来年9月から小学1年生となるため、こども園での期間が7か月短くなり、小学校の環境になじめるか、課題となります。

また、同じ1年生でも、7歳5か月の子どもと、6歳ちょうどの子どもが一緒の学年となるため、発達段階が大きく異なる子どもたちに、同じ学びができるのか、疑問の声もあります。

さらなる懸念もあります。この新1年生は、その後もほかの学年より大幅に多い子どもたちが、そのまま学年を上がっていきます。中学、高校、大学の受験、さらに就職試験に至るまで競争にさらされるおそれがあります。

こども園(幼保)や保護者にも

問題は、こども園などの施設や保護者にとっても生じます。

今の年長クラスは、9月入学となれば、こども園などの卒業が5か月遅くなるため、保護者に負担が生じる可能性があります。

さらに、こども園などにとっても、年長クラスの在園期間が延びれば新たに年少クラスとなる子どもたちも9月まで入園が遅れると、待機児童などの問題が生じる可能性があります。

厚生労働省の試算では、今の年長クラスにいるおよそ50万人の園児が来年8月まで保育所にとどまった場合、保育士が新たに1.7万人必要となり、追加で1400億円の予算が必要になるとしています。

受け入れる小学校にも

さらに、小学校にも影響が及びます。新1年生の数が1.4倍になることで、学校によっては、学年のクラスを増やす必要があります。1年後に、新たに教室が確保できるのか、また、それに伴って、教員を増やせるのかといった課題があります。

さらに、もし教員を増やすことができたとして、この学年が卒業したあと、どうするかといった問題も残ります。

パターン2~新1年生急増は起きず

パターン2の場合、年長クラスの子どもに加えて、今の年中クラスの子どものうち、5月2日までに満6歳になる子どもが1年生となります。

その場合、人数は予定より8万3000人余り多い109万人余。パターン1のように、新1年生が急増する事態は避けられます。学ぶ年齢も6歳11か月から満6歳までとなり、大きく発達段階が異なるなどの問題は生じません。

課題は制度の複雑さ

しかし、問題はその複雑さです。

移行期は、毎年、誕生月を1か月ずつスライドさせていき、5年間をかけて完了させますが、学年ごとに誕生月が異なる集団となります。

例えば、来年度の1年生は2014年4月2日生まれから2015年5月1日生まれ、その翌年度の1年生は、2015年5月2日生まれから2016年6月1日生まれ、さらに次の年度の1年生は、2016年6月2日生まれから2017年7月1日生まれといった具合となります。

このため、制度が非常に複雑になり、教育委員会や学校の事務作業が混乱するなどの指摘が出ています。

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