共産党大会で中国は新時代に

今回の中国共産党大会で、共産党の権力構造は大きく変わり、党トップの総書記に就任してわずか5年で習近平国家主席への権力の一極集中が確定しただけでなく、権威の強化も大きく進みました。中国の政治は新しい時代に突入したと言えます。中国総局の奥谷龍太記者が解説します。

現代化強国

10月18日の共産党大会の初日、習主席は、胡錦涛前国家主席や江沢民元国家主席も壇上に列席する中で、総書記として3時間半にもわたる長大な政治報告を行いました。

この中で、まず、みずからの過去5年を総括し、汚職の摘発や貧困対策など多くの分野で成果があったとしたうえで、「長期にわたって解決したくてもできなかった多くの難題を解決し、歴史的変革を推進した」と高く評価しました。

そして、今後の目標について「ゆとりある社会の全面的な実現から一歩進んで、建国100年を迎える2049年には社会主義の現代化強国を築く」と強調しました。

党規約で権威の強化

そのうえで、これまでさまざまな言葉を使って打ち出してきた指導理念を「新時代の中国の特色ある社会主義思想」という1つの言葉に、初めてまとめて提示し、「全党員と人民が中華民族の偉大な復興を実現するため、長期にわたって堅持しなければならない」と強調しました。

そしてこの新しい思想について、▽共産党の指導の堅持、▽現代化強国を築くこと、▽改革を進めて生活水準を向上させること、▽環境に配慮した発展などと30分近くにわたって詳しく説明しました。

党大会最終日の24日には、この思想にみずからの名前を冠した「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」を党規約に盛り込む案を全会一致で採択しました。

党規約に名前が載っているのは、建国の父、毛沢東の「毛沢東思想」と、改革開放を進めた鄧小平の「鄧小平理論」の2つで、これで習近平主席の権威は、就任からわずか5年で、2人の歴史的な指導者と肩を並べました。党規約のうえでも、習主席の権威の絶対化が図られたのです。

人事でも一極集中

権力の一極集中は党指導部の人事面でも見て取れました。党大会が閉会した翌日の25日、党大会で選出されたおよそ200人の新しい中央委員による中央委員会総会が非公開で開かれ、共産党の最高指導部にあたる7人の政治局常務委員と、7人を含む政治局委員25人が選出されました。

7人には、習主席自身と李克強首相のほか、習主席の30代のころからの知り合いで、これまで国家主席の秘書室にあたる「中央弁公庁」の主任だった栗戦書氏や、習主席の知恵袋として指導理念の理論構築を担ってきた王滬寧氏、そして人事を扱う「中央組織部」の部長として習主席の組織固めを支えた趙楽際氏ら、いずれもこれまで習主席を支えてきた人物が選ばれました。

7人の人選よりもさらに注目すべきは、政治局委員全体25人の人選で、その半数以上は習近平派とも言われる、これまで習近平主席と直接、接点のあった人物です。

(左)陳敏爾氏 (中央)丁薛祥氏 (右)蔡奇氏

新しい政治局委員には、習主席が浙江省のトップを務めた当時の部下で、昇進の早さから注目を集め、一時は常務委員昇格も指摘された重慶市トップの陳敏爾氏、習主席が上海市のトップを務めた当時の秘書で、中央弁公庁で副主任を務める丁薛祥氏、そして習主席が福建省で勤務した当時の部下で、ことし北京市トップに抜てきされたばかりの蔡奇氏が選出され、習近平指導部の半数以上を、かつての部下など、みずからに近い人物で固めました。

軍の人事でも、中央委員会総会で、制服組トップの2人の中央軍事委員会副主席のうちの1人に、習主席と同じ紅二代、つまり革命第一世代の軍幹部の子息で、父親どうしが戦友だったという張又侠氏が選出されました。

就任してわずか5年で、ここまで人事を思いどおりに進めることができた指導者は、この数十年で習近平主席ただ1人です。

習主席 長期にわたって最高指導者か

今回の党大会で、習主席が長期にわたって最高指導者にとどまる可能性が強まっています。最高指導部人事では、汚職の摘発を指揮して、権力基盤の強化を支えてきた王岐山氏が、68歳以上は引退という慣例を破って最高指導部入りするかが注目されましたが、結局、慣例は守られました。

一方で、重慶市トップの陳敏爾氏と広東省トップの胡春華氏の、ともに50代の2人が、習主席の次の指導者候補として最高指導部入りする可能性も指摘されていましたが、結局2人とも見送られ、これまで円滑な指導者の交代のため事前に次世代の指導者と目される若手幹部を最高指導部入りさせるという、長く続いてきたパターンは踏襲されませんでした。

これは習主席が今後5年の任期のあとも、最高指導者としてとどまる可能性が高いことを意味します。

毛沢東化する習主席

中央委員会総会翌日の26日、党の機関紙、人民日報は、1面に習近平主席の巨大な顔写真を載せました。ほかの最高指導部のメンバーは小さくしか紹介されず、5年前に比べても習主席は別格の扱いです。
そしてこの日、党中央の幹部が記者会見し、習近平主席を正式に人民の領袖(りょうしゅう)と呼びました。これは毛沢東にしか許されなかった古い呼称です。

習近平主席がまるで現代の毛沢東のように君臨する中国。そこには時代を逆行するかのような危うさもにじみます。どの組織でも、みずからが信頼を置く部下を抜てきするのはよくありますが、権威と権力が圧倒的になった習主席に対し、幹部たちは耳の痛い意見を述べることができるのでしょうか。

また、党規約には、個人崇拝を禁じる、とも書かれています。これはかつて毛沢東が文化大革命を発動し、国が大混乱に陥った反省から、鄧小平が最高指導者だった80年代に盛り込まれたもので、それ以降、集団指導体制を保つことで、権力の過度の集中を防いできました。

その党規約に盛り込んだ「習近平思想」は、建国の父の「毛沢東思想」や、改革開放の「鄧小平理論」と比べると、発想の根本的な転換というよりは、これまで進めてきた基本方針の総括にしか見えず、習主席の権威を高めるために作られたものだという批判的な指摘もあります。

5年前まで、共産党は汚職まみれで、国民の支持は大きく落ち込んでいました。権力が分裂して既得権益が絡み合い、環境対策や経済構造改革など、難しい問題が多く残されていました。習主席だけでなく、党指導部の多くが強い危機感を持ち、反腐敗運動を推進し、それに伴って権力の集中を進めたものとみられます。
しかし、権力の過度の集中は、もろ刃の剣というのもまた事実です。

中国はどこへ?

<言論統制>

中国の言論空間は、この30年で最悪の状況です。ネットの書き込みは厳しく監視され、かつて不満や意見を表明する場だった中国版ツイッターのウェイボーも政府に都合の悪いものはすぐに削除されます。
そしてスマホを使った個人どうしのやり取りにも、監視の目が光り始めています。弱い立場にある人たちのために活動する弁護士も、いったん政府と対立すると、徹底的に排除されたり、拘束されたりしています。

長大な習主席の政治報告の中に、言論の自由や表現の自由といった言葉はひと言もありません。自由な発想や意見の多様性を制限して、社会の発展は順調に続くのでしょうか。

<経済の構造改革>

経済面でも、今でこそ中国経済は成長率が6%後半で成長していますが、持続的に発展していくためには、構造改革を進めて民間の力を最大限に発揮させていかなければなりません。

政治の一極集中が、今後の経済発展や構造改革の邪魔になることはないのでしょうか。経済が低迷し始めたとき、多くの国民は、今と同じように共産党の一党支配を支持し続けるでしょうか。

<中国の外交は?>

そして、「現代化強国」や「大国外交」を標ぼうする中国の外交は私たち日本や世界にとって、どのような外交になるのでしょうか。
権力基盤が安定すれば、より秩序のある大胆な外交が進められる面もある一方、対日外交や、東シナ海、南シナ海での海洋進出などの面で、より強硬になるのではないかという心配もあります。

新しい時代に入った習近平の中国が、対外的にはどのようなふるまいをするのか、しっかり注視していく必要があります。

先日、たまたま乗ったタクシーの運転手が「習近平は皇帝になったんだよ」とこぼしたのが印象的でした。そして同時に、「でも、生活さえよければ政治には関心がないね」とも話していました。13億8000万人の中国の人々は、政治の変化とは別に日々の生活にいそしみ、その考え方や価値観も少しずつ変化し続けています。

特に若い世代の興味や感覚は、徐々に日本人の感覚に近くなってきていて、政治の変化と社会の変化は、必ずしも同じ方向を向いていないようにも見えます。関係が切っても切れない隣の大国、中国の変化から、これからも目が離せません。

奥谷龍太
中国総局記者
奥谷龍太