【詳しく】コロナワクチン
4歳以下の子ども どうしたらいい?

2022年10月21日

生後6か月から4歳の子どもを対象にした新型コロナワクチンの公的接種が10月24日から始まります。

幼い子どもへのワクチン接種。効果や副反応は? 専門家の見解は? 保護者の皆さんの気になる疑問に答えます。

(科学文化部 記者 池端玲佳 / 2022年10月21日現在)

Q.生後6か月から4歳の子どものワクチンってどんなもの?

アメリカの製薬会社ファイザー社が作ったワクチンで、1回の接種に含まれる有効成分の量は大人のワクチンの10分の1、5歳から11歳の子どものワクチンの3分の1程度です。

5歳から11歳の子どものワクチンと同様に従来型のウイルスをもとにしたワクチンで、オミクロン株をもとにした成分も含んだワクチンではありません。

全額公費で負担されるため、無料で接種できます。

Q.接種のスケジュールは?

3回の接種が必要です。

1回目の接種から3週間あけて2回目を接種し、その後少なくとも8週間あけて3回目を接種するとされています。

原則として、市町村から接種券が届き、小児科のクリニックなどで個別接種となりますが、自治体によっては集団接種の会場を設けるところもあります。

Q.国の方針は?

厚生労働省は▽子どもの感染者が増えていて重症者数も増加していること、▽オミクロン株流行下でのワクチンの有効性や安全性が確認されていることなどから、生後6か月から4歳以下に対しても接種を「努力義務」にする方針です。

「努力義務」というのは子どもがワクチンを接種するように保護者が努めなければならないということです。

ただ強制されたり罰則があったりすることはなく、ワクチンを接種するかどうかはあくまで本人と保護者が自分たちで決めることになっています。

Q.ワクチンの効果は?

ワクチンを接種することで新型コロナの発症を防ぐ効果が期待されています。

ファイザー社が生後6か月から4歳の子どもを対象に臨床試験を行った結果、3回接種後には、これより上の年代の子どもや大人で行われた臨床試験の結果と同じ水準まで、抗体ができることが確認されました。

また、主にオミクロン株が流行している時期に、アメリカやヨーロッパなどで、生後半年から4歳の子ども1100人余りを対象に、ワクチンを接種した子どもとプラセボ(無害な生理食塩水)を接種した子どもで、その後の感染状況を調べました。

その結果、ワクチンを接種した794人のうち、その後新型コロナに感染したのは13人。

プラセボを接種した351人のうち、その後感染したのは21人(2022年6月17日時点)で、3回接種後の発症を予防する効果は73.2%だったということです。

重症化をどの程度防ぐかについては、ワクチン接種後の感染者が少なく、分析する上で十分なデータがありません。

しかし、臨床ウイルス学が専門でワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「発症を予防できるということは、そのあとの重症化を予防する効果も十分期待できる。年代の近い5歳から11歳に対しての重症化を抑える効果は、研究によって差があるものの、40%から80%程度あることが確認されている」と話しています。

Q.ワクチンの主な副反応は?

ワクチンの副反応はほとんど軽度か中程度、かつ一過性のもので、安全性に重大な懸念は認められないとされています。

ファイザー社の臨床試験では、接種後1週間までの副反応を調べました。

その結果、2歳から4歳では
▽38度以上の発熱があった人が1回目の接種で5.2%、2回目で4.9%、3回目で5.1%
▽けん怠感が1回目の接種で29.7%、2回目で25.7%、3回目で24.5%
▽おう吐が1回目の接種で3.0%、2回目で3.4%、3回目で1.6%
▽下痢が1回目の接種で7.7%、2回目で6.7%、3回目で5.1%などとなっています。

生後6か月から1歳では
▽38度以上の発熱が1回目の接種で7.2%、2回目で7.4%、3回目で6.8%
▽食欲の減退が1回目の接種で22.2%、2回目で22.2%、3回目で20.2%
▽いらいらして機嫌が悪くなった子どもが1回目の接種で51.2%、2回目で47.4%、3回目で43.6%などとなっています。

日本小児科学会理事でワクチンに詳しい新潟大学の齋藤昭彦教授は「厳密な比較はできないが、生後半年から4歳の子どもでの副反応の頻度は大人よりも低く、かつ5歳から11歳、また12歳から15歳の子どもと比較した場合でも低いか同程度となっている」と話しています。

Q.ワクチンの重い副反応は?

新型コロナワクチンの重い副反応として、主に10代と20代の若い男性で、心臓の筋肉や膜に炎症が起きる「心筋炎」や「心膜炎」がごくまれに報告されています。

生後6か月から4歳の子どもでの心筋炎や心膜炎の頻度について、まだ十分なデータはありません。

ただし、厚生労働省によりますと、アメリカで2022年8月21日までに同じファイザー社のワクチンを接種した生後6か月から4歳の子どもおよそ60万人からは心筋炎や心膜炎の事例は報告されていません。

また日本国内のデータでは、ワクチンを接種した5歳から11歳の子どもで「心筋炎」や「心膜炎」の疑いがあった割合は、接種回数100万回あたり2件から3件程度となっています。

北里大学の中山特任教授は「10代や20代の男性と比べると、幼い子どもがワクチン接種後に心筋炎や心膜炎になる頻度は極めて低い。またほとんどの場合軽症で、回復している。一方で、新型コロナに感染して心筋炎になる頻度は、ワクチン接種後に心筋炎になる頻度よりはるかに高く、感染した子どもが心筋炎で死亡する事例も報告されている」と指摘しています。

ただし、ワクチンを接種したあと数日以内に、呼吸が苦しそうだったり、胸の痛みを訴えたりするなど、心筋炎や心膜炎を疑う症状が出た場合は、すぐに医療機関を受診してほしいとしています。

Q.長期的な影響は?生殖能力に影響はないの?

ファイザー社のワクチンは、「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」と呼ばれる新しいタイプのワクチンです。

「mRNA」はたんぱく質を合成する「設計図」となる遺伝情報で、これを注射することで体内の細胞でウイルスのたんぱく質の一部が作られ、抗体をはじめとした免疫ができる仕組みです。

厚生労働省によりますと、この「mRNA」は体内で数分から数日で分解されます。

また「mRNA」はヒトの遺伝情報であるDNAに組み込まれることはありません。

体の中ではDNAからmRNAが作られる仕組みがありますが情報の流れは一方通行で、逆にmRNAからDNAはつくられません。

このため「mRNA」を注射しても、その情報が長期的に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれたりすることはないと考えられています。

Q.海外での接種状況は?

海外では生後6か月から4歳のワクチン接種について対応が分かれています。

アメリカでは2022年6月に緊急使用の許可が出され、CDC=疾病対策センターが「ワクチンの接種を推奨する」と発表しているほか、カナダなどでも接種が認められています。

各国の接種率は
▽アメリカでは少なくとも1回接種した人が2歳から4歳で8%、2歳未満では5.2%となっています(2022年10月13日時点)

▽カナダでは少なくとも1回接種した人が6.5%、3回の接種を終えた人が1.0%となっています(2022年10月9日時点)

Q.子どもは重症化しにくいのに接種は必要?

日本小児科学会によりますと、新型コロナに感染した子どもの95%以上は軽症にとどまるとされています。

しかしオミクロン株が流行するようになってからは、感染する子どもの数が増加していて、それに伴って亡くなったり重症化したりする子どもが増えています。

国立感染症研究所は、オミクロン株が広がった2022年1月から8月までに、新型コロナに感染して亡くなった子どもなど20歳未満の41人のうち、詳しい状況を調査できた29人について分析しました。

その結果、亡くなったのは、0歳が8人、1歳~4歳が6人、5歳~11歳が12人、12歳~19歳が3人でした。

4歳以下で亡くなったのは14人で、このうち6人は基礎疾患のない子どもでした。

生後6か月から4歳だけを調べた重症化のデータはありませんが、日本集中治療医学会は子どもの入院施設がある全国の医療機関で、2022年3月10日から8月15日までに新型コロナに感染した20歳未満(主に高校生以下)の患者の症状や年齢を調べています。

その結果、酸素投与が必要だったり、人工呼吸器を装着したりして「中等症」や「重症」と登録された人は合わせて220人でした。

年齢別にみると▽1歳未満が15%、▽1歳以上の未就学児が43.6%、▽小学生が32.7%、▽中学生が4.1%、▽高校生以上が4.5%となっていて、小学校入学前の子どもが全体のおよそ6割を占めています。

また症状が重くなった人の詳しい症状を調べた結果、脳がむくんで意識に障害が出るなどする「急性脳症」や、肺炎、けいれんの割合が高かったということです。

Q.コロナに感染した子どもでもワクチン接種は必要?

専門家は感染したことがあっても接種をすることを勧めています。

新潟大学の齋藤教授は「新型コロナに感染した経験があっても、症状が軽い場合には免疫が十分つかないことがある。また、新型コロナの場合、免疫が時間の経過とともに弱くなっていくことがわかっている。コロナに感染したことがあっても、ワクチンを接種することで、より確実な免疫を獲得することができる」と話しています。

また、感染後のワクチン接種の時期については「新型コロナの症状が治まり、普段通りの体調に戻ったら接種できる」としています。

Q.子どもの時に接種するほかのワクチンと同時に接種はできる?

インフルエンザのワクチンと同時に接種することは可能です。

そのほかのワクチンについては、原則、接種の間隔を2週間あけることになっています。

たとえば、1歳になった子どもが「麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)」を11月1日に接種した場合、「新型コロナワクチン」を接種できるのは、最短で11月15日(2週間後の同じ曜日の日)になります。

複数のワクチンを接種する場合の優先順位について、新潟大学の齋藤教授は「子どもの定期接種に指定されているワクチンはすでに接種の時期が決められているので、まずはそちらを優先してもらいたい。その定期接種の2週間より前、あるいは2週間より後に、新型コロナのワクチンをうまく組み込んで接種するのがよいのではないか」と話しています。

Q.わが子の接種をどう考えれば?

幼いわが子のワクチン接種をどう考えればよいのか。2人の専門家に聞きました。

齋藤教授
「生後6か月から4歳の子どもたちは、いわゆる感染対策がなかなかできない年齢です。マスクもきちんと着用できないし、十分な手洗いや手先の消毒を自主的にするのは困難です。こうした中で、唯一できる積極的な予防がワクチン接種になります。他の対策ができない分、ワクチン接種によって発症を防ぎ、万が一の重症化を防ぐことが大切です」

中山特任教授
「新型コロナのワクチンに限らず、肺炎球菌や、麻しん風しんのワクチンなど、子どもたちはいろんなワクチンを接種することによって、健康な日常生活を送ることができています。新型コロナのワクチンもそれと同じように考えればよいと思います。ワクチンを打つデメリットとして副反応のことがある。一方で、ワクチンを打たなかった場合のデメリットとして、感染したら重い脳症や心筋炎などの合併症にかかり亡くなるおそれもある。そうしたバランスをよく考えて科学的に判断してもらいたいです」