コロナ禍をどう乗り越える
感染も 写真も 増えないで

2020年12月25日

先月、アメリカで撮られた1枚の写真がSNSなどで広がり、世界に拡散されました。

「妻に会いたい」と涙を流しながら、新型コロナウイルス専門の集中治療室から抜け出そうとする患者を、医師が静かに抱き締めた瞬間を捉えたものです。

(ニュース7 キャスター 井上裕貴)

確か医師はこのときで250日以上も連続勤務を続けていたはずだけど、今どうしているのだろう…?

クリスマスイブの夜10時を過ぎたころ、電話取材に応じていただきました。

彼はやはり、この日も病院にいました。

「クリスマスイブも、もちろん仕事だよ。きょうで連続勤務280日目だ」

アメリカ南部、テキサス州ヒューストンにあるユナイテッド・メモリアル医療センターの医師、ジョセフ・バロンさん、58歳。

3月から休みなく、新型コロナ集中治療室の最前線に立ち続けてきました。

「毎日の睡眠時間は、多い日で3時間くらい。スタッフは皆、しょうすいし、昼間から急に泣き出す同僚も少なくない」

あの写真が撮られてから、およそ1か月。

抱き締めた男性は、その後どんな様子なのか。

「男性は順調に回復して、先週、無事に退院したよ。会いたかった妻にも、ようやく会えた。こういう瞬間があるから、自分の身体も頑張れているのだと思う」

ただ、すべての患者が男性のように、家族とクリスマスを過ごせるわけではありません。

88床あるコロナ専用のベッドは、10月下旬から満床に近い状態が続いてるといいます。

厳しい日々が続く中で、バロンさんが大切にしているのが人間らしさを失わないこと。

チームの医師や看護師に、自分の大きな顔写真を、首からぶら下げるよう指示しました。

「私たちはコロナ病棟ではマスクや防護服などをつけて、まるで宇宙服のようです。怖がる高齢者も多いため、私たちもひとりの人間であり、皆さんのことを助けたいと願っていると少しでも知ってほしいと思い、スタッフみんなで始めたんです」

ユーモアも忘れません。

ある日、バロンさんは首からぶら下げる自分の顔写真を、俳優のブラッド・ピットさんにして集中治療室に入ったそうです。

重症患者たちもそれを見て笑い、重たい空気が少し和らいだということです。

そして、それは患者だけでなく自分自身やスタッフの心を保つためにも、必要なことでもあるといいます。

23日、明るい兆しも見えました。

「ようやくワクチンを打てて安心したよ。注射は怖いので飛び上がってしまったけどね」

アメリカでは今月14日からワクチンの接種が始まりましたが、バロンさんの病院にも今週、待ちに待った第1陣が到着しました。

ただ、ワクチンについてバロンさんは、「これが答えだと思ってはいけない」と、大きな不安を抱いています。

ワクチンができたからもう大丈夫と、世界中の人々が、ウイルスへの警戒を解いてしまうことを恐れているのです。

「コロナは、確実にある現実です。私たちはまだ暗いトンネルの中なのです。クリスマス以降の4週間は、アメリカの歴史にとって最も悲しく、最も暗い期間となるでしょう」

日本に向けても、こう呼びかけました。

「お願いですから、今は感染対策を徹底してください。あなたがたとえ無症状でも、大切な誰かを重症にしてしまうかもしれない。そしてその人は、いずれ私や日本のどこかの病院の集中治療室に来ることになります。もうこれ以上、誰かを抱き締めたくはないのです。あのような写真を、新たに増やしてはいけません」

わずかな時間で応じていただいた取材。

バロンさんにとって、”メリークリスマス” とはいきません。

「クリスマスに働くことは医者にとっては当たり前のことです。しかし、ことしはスタッフみんなの受け止めは違うように感じています。春から私たちは休みなく走り続けているのです。きょうくらい家族と過ごしたいと、普通の日常をどうしても求めてしまっています。みんなギリギリなんです」

この先、少しは休めそうですか?
「休みません。休めるはずがありません」

そうきっぱり言って、深夜、再び現場へ戻りました。