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イギリス連合王国は解体へ?離脱でくすぶる不満

「アメリカ」は「合衆国」。「ロシア」は「連邦」。ではイギリスは?
正解は「連合王国」。イギリスはイングランド、スコットランド、北アイルランド、ウェールズからなる「連合王国」なのです。サッカーやラグビーのワールドカップでは今でもそれぞれの地域でナショナルチームを作っています(ラグビーはアイルランド統合チーム)。ところが今回の選挙の結果はその「連合王国」の今後にも影響するかもしれません。

スコットランドで勢いづく地域政党

スコットランド スターリング

スコットランドはイギリスの北部。民族楽器のバグパイプやスコッチウイスキーなどで知られる地域です。

イギリスの選挙は「2大政党」である保守党と労働党の動向が注目されていますが、スコットランドでは少し様相が違っています。

スコットランドだけを見ると第一党はスコットランド民族党(SNP)。解散前にはイギリス議会下院でスコットランドが持つ59議席のうち、35議席を占めていました。

そのSNPは今回の選挙で議席を増やす勢いです。SNPが訴える「EU離脱への反対」と、「スコットランドの独立」がスコットランドの有権者に支持を広げているのです。

なぜ今、「独立」が支持を集めるのでしょうか。

スコットランドでは2014年、独立するかどうかを問う住民投票が行われました。結果は独立反対派の勝利。

とりあえず独立に向けた機運は鎮まったかのように見えましたが、そこに降ってわいたのが、EU離脱問題だったのです。

2016年の国民投票の際、スコットランドでは「EUへの残留」を求める人が62%にのぼりました。それ以降「イギリスがEUから離脱するなら、スコットランドは独立してでも、EUに残留すべきだ」という声が次第に強まっているのです。

ことし11月にはスコットランド最大の都市、グラスゴーで数千人が参加する大規模な集会が行われ、参加者は「スコットランドの未来を取り戻そう」と訴えました。

独立派のデモ(スコットランド グラスゴー 2019年11月2日)

現地で市民から聞かれたのは「イギリス政府はスコットランドのことを考えていない。そんな政府に自分たちの未来を決められたくない」という声です。

アイルランドへの統合

スコットランドだけではありません。11月、北アイルランドとアイルランドの国境付近では「統合のための行進」というイベントが行われました。

参加したのは双方の統一を求める人たちです。ここでも聞かれたのは「北アイルランドのことを考えていないイギリス政府に、自分たちのことを決められたくない」という声でした。

同じアイルランド島に位置するだけに、自分自身のアイデンティティは「ブリティッシュ」ではなく「アイリッシュ」だと感じている人も少なくありません。

シンフェイン党の集会(北アイルランド )

選挙ではアイルランドとの統一を求めるシンフェイン党が初めて地域政党などと選挙協力に乗り出しています。イギリス寄りで、ジョンソン首相に閣外協力する地域政党から議席を奪おうというねらいです。

開かれたパンドラの箱

スコットランドと北アイルランドで共通して聞かれたイギリス政府への憤りの声。こうした不満を背景に、今回の選挙では独立や統合の動きが一気にクローズアップされる結果となっています。

専門家は「すぐに独立や統合が起きるわけではない。ただ、離脱によって、その可能性は高まった」と指摘します。

ジョンソン首相はこうした動きを警戒しています。野党が政権をとれば、またスコットランドの独立の是非を問う住民投票の実施につながり、国内が不安定になるなどと主張し、徹底して反対する姿勢です。

12月12日の総選挙。ジョンソン首相率いる保守党が過半数を確保すれば、おそらくイギリスは来年1月にEUから離脱します。すると、こうした動きがさらに加速する可能性も否定できません。

EUからの離脱は「連合王国解体」というパンドラの箱をあけることになるかもしれないのです。 (ロンドン支局長 向井麻里)

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