イギリス総選挙 その先にある4つのシナリオ
12月12日の総選挙の最大の焦点は、ジョンソン首相率いる与党・保守党が議会で過半数を確保できるかどうかです。選挙の後、どのようなシナリオが考えられるのか、JETRO(日本貿易振興機構)ロンドン事務所の宮崎拓次長に聞きました。
総選挙後の4つのシナリオとは
まず、考え方です。JETROでは、保守党が勝利する場合のシナリオを「大勝」と「辛勝」の2つに分けています。
議会の定数は650で、採決に加わらない議長などを除いた実質的な過半数を320余りとした場合、次のようになるといいます。
「保守党が大勝」~過半数を大きく上回る350議席程度を確保
ジョンソン首相がEUと合意した離脱の取り決めは議会ですんなり承認、来年1月末までに離脱となりそうです。
この場合、イギリスは急激な変化を避けるためのおよそ1年間の移行期間に入ります。この移行期間を使って、イギリスはEUとFTA(自由貿易協定)の締結を目指します。
これもスムーズに進みそうです。保守党内で、仮に政府の方針に強硬に反対する議員が出てきても、協定の承認に必要な過半数を維持できると見込まれるためです。
しかし、EUとのFTA交渉がうまくいかなかった場合はどうなるのか。
宮崎次長は「EUとの通商交渉に失敗すれば、混乱への歯止めがかからなくなる」と指摘します。
ジョンソン首相は選挙公約で「移行期間の延長はしない」と明言しています。移行期間中に必要な準備が間に合わず、1年後に「合意なき離脱」と同じような混乱状態となる可能性があるのです。
「保守党が辛勝」~過半数を上回るも350議席程度には届かず
このシナリオでも、イギリスが来年1月に離脱する線は変わりません。しかし、そのあとのEUとの自由貿易協定の交渉の進め方が「大勝」した時とは変わりそうです。
保守党内で政府の方針に反対する議員が出てきた場合、その数によっては協定が議会で承認されなくなるおそれがあります。
このため政府はこうした声に配慮せざるを得なくなり、交渉が難航したり、EUと密接な関係を築くことが難しくなったりする可能性があるのです。
宮崎次長は「EUとより密接な関係を求める企業にとって、このシナリオは懸念材料になる」という見方を示しています。
「保守党、少数与党に」ー保守党が過半数に届かずも、政権を担う
今と同じ「ハング・パーラメント」(宙ぶらりんの議会)です。
保守党は単独で離脱に関する議案を通すことができず、こう着状態が続きます。
現状で、ジョンソン首相によるEUとの合意を支持する政党は保守党以外にありません。このためジョンソン首相は議会で身動きができなくなり「“合意なき離脱”のリスクを抱えての年越し」(宮崎次長)になりそうです。
「労働党主導の政権」
最大野党の労働党や、スコットランド民族党、自由民主党は国民投票を実施するという点では一致しています。
このうち労働党はEUと離脱の条件について再交渉し、そのうえで選挙から6か月以内に国民投票を実施するとしています。
ただ、予定どおり実現できるかは不透明で、議会が紛糾するリスクを常にはらんだ状態となります。
離脱が終わりではないという現実
“離脱の本丸”はEUとのFTA交渉
4つのシナリオから明らかなのは、いずれの場合も、その先に混乱のリスクがあるということです。
特に「合意なき離脱」や、それに準ずる混乱の可能性が消えないことを考えれば、各企業は、例えばイギリスからEUへの輸送ルートの再構築などの対策をとらざるをえない状況です。
さらに、イギリスとEUとの通商関係が固まらなくては、長期的なビジネスの展望は描けません。
宮崎次長は「日本企業にとって“離脱の本丸”はイギリスとEUの自由貿易交渉で、それが最も重要だ」と強調します。
その意味では、イギリスのEU離脱は始まったばかり。総選挙が終わったあともイギリスの動向は注目を集め続けることになります。(ロンドン支局・栗原輝之)
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