100年ぶりのクリスマス選挙

ブレグジット+クリスマス=?

年の瀬、クリスマスを前に行われるイギリスの総選挙。イギリスで12月に選挙が行われるのは約100年ぶりです。「ブレクジット(EU離脱)」と「クリスマス」をかけて、「ブレクスマス」という造語も出てきています。

約1世紀にもわたって12月に選挙が行われなかったのはなぜなのか。それは、暗くて寒い時期に選挙活動を行うことを政治家たちが避けてきたからとも言われています。

実際に選挙戦を取材すると、「暗くて寒い」のを避けたいという理由がよくわかります。議会が解散されたのは11月6日。しかしイギリスでは11月に入ると日が出ている時間が急速に短くなります。朝7時はまだ真っ暗。8時ごろにようやく明るくなってきたと思ったら、午後3時を過ぎると、日が落ち始める。だんだん気が滅入ってきます。「1年の中で11月がいちばんきらい」という人も多いのです。

寒風吹きすさぶ中での選挙活動

11月末に中部の街を取材したときのこと。外の気温は2度。晴れてはいましたが、じっとしていると、体の芯から冷えてくる、そんな天気でした。

しかし選挙活動では候補者は街頭に立ってリーフレットを配ったり、有権者の自宅を回って支持を呼びかけたりと街頭での活動がそれなりのウェイトを占めます。

私たちが取材していた候補者も、あまりの寒さに目に涙がにじんでいました。寒さに加えて冷たい風も吹きつける中、体力はどんどん消耗します。取材した市民は「こんな寒くて、暗い時期に選挙なんて。みんな、やりたくないと思ってるよ!」とうんざりした様子でした。

ホリデー気分が台なしに

気分が落ち込む11月を乗り切ったところでやってくるのがクリスマスシーズンです。12月に入るとクリスマスムードで街中は一気に華やぎます。あちこちにイルミネーションの明かりがともり、パブでは暖炉の横にクリスマスツリー。街ゆく人たちも高揚しているのが感じられます。

しかし、12月の選挙はそんな華やいだ気分にも水をさします。クリスマス関連のイベントが予定されていた会場の中には、投票所として使われることが決まり、予定の変更を余儀なくされるケースも出てきています。「ホリデー気分が台なしだ」という怒りとも、あきらめともつかない声も聞こえてきます。

100年前の選挙の結果は

離脱を決めた国民投票以来、離脱をめぐって国を二分する議論は3年以上続いてきました。取材で話を聞いていると、先の見えない離脱の議論に有権者たちが疲れ果てていると感じます。

選挙だというのに、取材した中部の街には、選挙ポスターも看板も見当たりませんでした。イギリスの選挙はそういうものなのかと思っていましたが、元議員に聞いてみると、「普通だったら、ポスターももっとあるし、選挙の雰囲気もある。みんな嫌気がさしているんだ」と話します。

こんな話を聞いていると、今回の選挙は疲れ果てた有権者にムチを打つ行為であるかのようにすら思えてきます。ジョンソン首相は「議会で過半数を確保したら、クリスマス前には離脱に向けた法案の審議を始める」と主張していますが、人によっては「クリスマス前くらい、そんな話聞きたくないよ…」というのが本音かもしれません。

ちなみに約100年前の12月に行われた選挙の結果は「ハング・パーラメント」。当時の保守党政権は政権基盤を強化しようと選挙に打ってでましたが、どの政党も過半数を確保できない状況に陥りました。今回の「ブレクスマス」、投票結果はクリスマスの少し前に明らかになります。勝者はどんなプレゼントを手にするのでしょうか。(ロンドン支局長 向井麻里)

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