イギリスと日本 選挙戦はこんなに違う

イギリスの選挙はずいぶん静か

12月12日に投票が行われるイギリスの総選挙。選挙戦も後半にさしかかりました。

日本だと「○○○○にあなたの1票を託してください!」との呼びかけがスピーカーから鳴り響き、駅前などでは街頭演説が盛んに行われるわけですが、こちらイギリスでは選挙戦はずいぶん静かです。

ロンドン中心部では拡声器がついた選挙カーも、候補者のポスターも見かけません。周囲のイギリス人からは「別に禁止されてはいないけれど、もし走っていたら、迷惑でうるさい奴らだと思うだけ」と言われてしまいました。

候補の1日に密着!

では候補たちは、どのように活動して支持を広げようとしているのか。
1人の若手候補者に1日、密着取材しました。

今回、ロンドンのウェストミンスター・ノース選挙区に保守党から立候補した、ジェミー・マクファーレンさん(31)。立候補するのは初めてです。

この選挙区では、前回の選挙で最大野党・労働党が圧勝。新人のマクファーレンさんにとっては、知名度のある現職に挑戦する厳しい選挙戦です。

午前7時。マクファーレンさんと支援者たちの1日は駅前でのビラ配りから始まりました。ロンドンはすでに手がかじかむ寒さです。
受け取ってくれる人は、だいたい8人に1人くらいでしょうか。

場所を変えながらビラをまき終えた後、次に向かったのは朝の市場です。
このあたりは中東系の住民が多く、町にはアラビア語が飛び交います。マクファーレンさんはアラビア語ができる支持者を通じて、出会う人たちや通りの店に紹介してもらっていました。

ウェストミンスターの人口は24万7000人余り。全世帯の35%以上で英語以外の母語が用いられ、EU出身の有権者だけでも全体の18%を占めます。

多様な人々が住むロンドンでは、さまざまなコミュニティーに積極的に働きかける必要があるようです。

選挙権のない若者たちにも

午後1時前、次は私立の女子高校です。
学校側の承諾を得て、16歳から18歳の女子生徒20人余りにみずからの政策を語りかけました。

自分が政治家になったら何を成し遂げたいか、自分の過去の経歴を踏まえて熱弁を振るうマクファーレンさん。

ほとんどの学生はまだ選挙権を持たないのになぜ?と聞くと、「両親にPRしてもらえるよ」と話します。

驚きだったのは、生徒たちの関心の高さです。
「ジョンソン首相のことを本心から優れたリーダーだと思っていますか」
「環境問題に労働党や緑の党は積極的に見えるが、保守党はどう対応するつもりですか」

鋭い質問は途切れることなく時間いっぱい続き、マクファーレンさんも真摯(しんし)に答えていました。

日本では「校長・教員の地位を利用して、演説会の開催その他の選挙運動の企画に関与したりすること」が禁止されています。

でも「若者は政治に無関心」と言われる昨今、こうした取り組みは効果があるかもしれないと感じました。

夜は毎晩、戸別訪問

すでに暗くなった午後6時半。
毎晩の日課だという戸別訪問が始まりました。

支持者2人と手分けして次々に住宅街のインターホンを押してまわります。

日本では公職選挙法で禁止されている戸別訪問。
イギリスでは「ドアノッキング」と呼ばれ、政策を直接訴える手法として広く認められています。

各党の候補者が次々に自宅に押しかけたら迷惑なのでは…そんな風に思ってしまいますが、住民たちは思いのほか慣れっこのようでした。

外に出てマクファーレンさんの話に応じ、「頑張ってね」と激励したり、家に招き入れて10分ほど話しこむ人も。

合わせて70軒ほどを回って、時間は午後9時前。手伝ってくれた2人と最寄り駅で解散して、この日の活動は終了しました。

イギリスと日本の違いは

1日を終えて、イギリスの候補者はどう政策を実行したいのか、自分のことばで展望を語ることが強く求められていると感じました。

マクファーレンさんには路上でも学校でも、絶えずさまざまな疑問がぶつけられていたからです。

選挙の1週間前には、他の党の候補者との公開ディベートも控えています。

イギリスでは日本のような選挙ポスターもなく、選挙カーもない。有権者はメディアやネットを通じた情報収集が中心なのかと思いきや、実は日本よりも政治家と直接、議論を交わす機会が重要視されていました。

考えてみれば、ポスターも選挙カーも、情報の発信はいずれも一方通行。イギリスはどちらかといえば双方向のやり取りです。

両国の投票率を比較すると、イギリスの前回の総選挙が69%、かたや日本の前回の衆議院選挙は53%です。

候補者と有権者が社会課題について意見や主張をぶつけ合う過程で、政治に興味を持ちやすい土壌が作られているのではないかと感じました。(国際部記者 松崎浩子)

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