高木美帆 金メダル 支えてくれた“2人”の存在

北京オリンピック、大会14日目の17日に行われたスピードスケート女子1000メートル。今大会5種目めの出場で力を出し尽くした27歳に勝利の女神が微笑みました。
願い続けたオリンピック個人種目の金メダルをついに手にした高木美帆選手。快挙の裏側には支えてくれた“2人”の存在がありました。
(スポーツニュース部 記者 猿渡連太郎)

目次

    “攻めきる滑り” 課題は最初の200メートル

    高木選手は北京オリンピックに臨むにあたり「攻めきる滑り」というテーマを自分自身に課していました。

    それは、その日の自分が出せるすべての力を出して、ベストな滑りをすることを意味します。

    17日の女子1000メートルで「攻めきる滑り」をするために高木選手が必要な要素になると考えていたのが、最初の200メートルの加速でした。

    遅すぎてもスピードに乗れず、速すぎても体力を消耗して中盤以降の失速につながります。
    そのため、最初の200メートルをどのように滑るかが課題でした。

    その最初の200メートル。高木選手は全体トップの17秒60で通過します。
    今シーズン、高木選手が1000メートルでマークした最も速い通過タイムでした。

    頼れるコーチの復帰

    高木選手にとって、頼もしかったのは、長年指導を受けていたヨハン・デ・ヴィットコーチの復帰です。

    デ・ヴィットコーチは、現地に入って新型コロナウイルスのPCR検査で陽性となり、現場を2週間近く離れていました。

    レース直前や練習中に直接コミュニケーションがとれず、「1人では強くなりきれなかった」と、今大会は得意の1500メートルで金メダルを逃すなど序盤は苦しい時期が続きました。

    デ・ヴィットコーチが復帰したのは今月13日。
    すぐに高木選手に的確なアドバイスを送りました。

    デ・ヴィットコーチ(左)と高木選手(右)

    デ・ヴィットコーチ

    「7年も一緒にいるのだから彼女の気持ちや感覚は見ればすぐ分かる」

    13日の500メートル。レース前にデ・ヴィットコーチはー

    「肩に力が入っている。自由にやりなさい」

    このことばが高木選手の力を引き出しました。
    自己ベストのタイムで銀メダルを獲得したのです。

    女子500mで滑る高木選手

    高木美帆選手

    「苦しい時期が続くなか自己ベストを出せたこと、こん身のレースができたことがうれしかった。今は正直、驚いている気持ちでいっぱい」

    今大会5種目目となった17日の1000メートル。
    その前にもデ・ヴィッドコーチはアドバイスを送っていました。

    デ・ヴィットコーチ

    「スタートがうまくいって、前半いいタイムを出せば必ず勝てる。スタートが肝心だ」

    高木選手は、このことばを胸に「スタートの一歩を決めることだけを考えていた」と集中。
    最初の200メートルを17秒60で滑り、個人種目で自身初となる金メダル獲得につなげました。

    挑戦が生んだ“価値ある気付き”

    1000メートルの攻めの滑りを後押しした存在が“もう1人”いました。
    4日前、500メートルを滑りきった高木選手自身です。

    実は、高木選手は500メートルに出場するかどうか、悩んだ瞬間がありました。得意の1500メートルで金メダルを逃し、気持ちの整理がつかなかったのです。

    金メダルにより近い、団体パシュートと1000メートルに集中したほうがいいのではないかと考えたからでした。

    それでも高木選手は挑戦することをやめず、女子500メートルに出場します。結果は銀メダル。
    その結果と同じくらい価値のある大きな気づきがありました。

    それが「長距離」から「短距離」への感覚の切り替えです。
    女子500メートルの前の日には、2400メートルを滑る女子団体パシュートの準々決勝がありました。

    【高木選手の北京五輪全レース】

    2月5日 3000m 4分1秒77 6位入賞
    2月7日 1500m 1分53秒72<銀メダル>
    2月12日 団体パシュート準々決勝 2分53秒61(五輪新=当時)
    2月13日 500m 37秒12(自己ベスト)<銀メダル>
    2月15日 団体パシュート準決勝 2分58秒93
    団体パシュート決勝 3分4秒47<銀メダル>
    2月17日 1000m 1分13秒19(五輪新)<金メダル>

    長距離の団体パシュートから、短距離の500メートルへ滑りをどう切り替えていくか。そのリズムを体感していた高木選手。
    だからこそ17日の1000メートルの2日前に長距離のパシュートがありましたが、長距離から短距離の滑りにスムーズに切り替えることができたのです。

    高木美帆選手

    「500メートルに出たのが大きかった。あの500メートルがあったから、どれだけ疲労があってもいけるという自信を持てた」

    金メダルを獲得した翌日の18日の記者会見。
    高木選手が今大会を振り返りました。

    高木美帆選手

    「4つのメダルを獲得することができ、無事に最後まで走りきることができてよかった。最後の種目で金メダルを取ることができたのは、私の力だけではなかったのでチームの力を証明できた」

    全幅の信頼を寄せるコーチの存在と、最後まで挑戦を続けるという自分自身の意思。
    2つの要素が力となり高木選手の「攻める滑り」が完成しました。

    高木美帆選手のこれまでの歩みを特集記事で

    高木美帆選手のプロフィールはこちら

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