小林陵侑 日本のエースが見せた“大ジャンプ”

前回2018年ピョンチャン大会のあと21歳だった小林陵侑選手は、スキージャンプ界のレジェンド、葛西紀明選手に託された。
「次の4年後にはお前がヒルサイズを超えて、金メダルを取るんだぞ」
4年後、エースとなった男は“ビッグジャンプ”を大舞台で見せ、2つ目のメダルを手にした。
(スポーツニュース部 記者 沼田悠里)

目次

    メダル2個 24年ぶりの快挙

    2月13日、北京オリンピック、ジャンプ男子ラージヒル決勝。
    小林選手は1回目で142メートルのビッグジャンプを見せてトップに立った。

    今大会、2個目の金メダルがかかった2回目。
    直前に飛んだノルウェーのマリウス・リンドビーク選手が140メートルをマーク。
    金メダルのためには同じように大ジャンプが必要だった。

    小林選手は、スタート台で笑みを見せていた。

    「楽しみだなあと思っていた」

    大きなプレッシャーがかかる場面でさえも楽しむ心の余裕があった。

    2回目は138メートル。
    ジャンプを2本そろえて、銀メダルを獲得した。

    惜しくも日本選手初の個人「二冠」はならなかったが、ジャンプ個人で24年ぶりとなる2個のメダルを手にする快挙となった。

    4年前 初めてのオリンピックで

    この4年間で小林選手は大きく飛躍し、ジャンプ界での位置も変わった。

    初出場となった前回のピョンチャン大会。
    21歳で臨んだ小林選手は、ラージヒルの予選ではこれ以上飛ぶと危険とされるヒルサイズを超える143メートル50。ジャンプ台記録を更新する大ジャンプで周囲を驚かせた。

    この時点で小林選手はワールドカップ個人総合順位で34位。
    しかしピョンチャン大会では個人のノーマルヒル、ラージヒルでともに世界のトップテンに入った。
    ともにオリンピックで戦っていた葛西選手からは日本のジャンプ界を託された。

    葛西紀明選手

    「次の4年後には、ラージヒルでお前がヒルサイズを超えて、そして金メダルを取るんだぞ」

    「俺より負けず嫌いになれ!」

    しかし、ピョンチャン大会後に再開されたワールドカップ。
    小林選手は1回目に何度も上位につけながら、2回目は緊張のため思いどおりのジャンプができずたびたび表彰台を逃していた。

    葛西選手は、「負けたくない」という気持ちが足りないからだと感じていた。この気持ちさえあれば課題だった緊張にも打ち勝つ原動力になると考えたのだ。

    「俺より負けず嫌いになれ」

    葛西選手は事あるごとに伝え続けた。
    下半身を強化する筋力トレーニングでは、尻の筋肉の大きさをわざと張り合って負けん気を刺激した。

    小林陵侑選手

    「すごくかき立ててくるので、ふつふつと絶対に負けないという気持ちがしっかりとついてくる」

    技術面では、葛西選手と取り組んできた姿勢の低い安定した助走が少しずつできるようになり結果につながってきた。さらに設計が異なるヨーロッパの国々のジャンプ台に対応できるようになったことで急成長していく。

    年末年始の伝統の「ジャンプ週間」で史上3人目の全勝優勝。
    日本の男子選手として初めての総合優勝を成し遂げた。

    世界が認める“ROY”のジャンプ

    北京オリンピック、踏み切り地点や着地地点で風の感じ方が変わり、風向きや強さが秒単位でめまぐるしく変わるジャンプ台に世界の強豪選手たちは悩まされた。

    そんな中ライバルたちが絶賛していたのは、小林選手のジャンプ台への適応力だ。

    ダビト・クバツキ選手(ポーランド ノーマルヒルで銅メダル)

    「彼はどう飛んだらいいかがわかっているし、試合での力の出し方もうまい」

    カミル・ストッフ選手(ポーランド ソチ大会で二冠)

    「彼は今、素晴らしいパフォーマンスを見せているし調子をうまくオリンピックに持ってきている。ROYが僕たちのモチベーションを高めてもくれてるんだ」

    世界の選手たちから“ROY(ろい)”の愛称で親しまれる小林選手が2個の金メダルを手にしても何も驚きはないと口をそろえていた。
    誰もが認めるジャンパーとなっていた。

    微妙なズレを体現する力

    今大会、ずば抜けていたのがわずかなズレをすぐに体現し、“修正する力”だ。

    ラージヒルの予選では小林選手らしいジャンプは見られず9位だった。

    それでもその翌日、空中姿勢を確認するシミュレーションをしている時だった。
    ジャンプ台とシミュレーションとで姿勢がわずかに違っていると指摘された小林選手は本番までのわずかな時間で修正。
    そして1回目。

    142メートルの大ジャンプにつなげた。

    日本代表 宮平秀治コーチ

    「言われて自分で考えてそれを体現する再現できるのが強みだと思う」

    自身の成長。周囲に感謝

    4年前、小林選手はひどく緊張する自分に悩んでいた。
    「脳波」の測定結果を活用するメンタルトレーニングを取り入れたり、精神的なタフさが求められる試合を数多く経験したことなどで克服した。

    決勝の2回目のジャンプ直前、スタート台で見せた笑みに、これまで積み重ねてきた努力と成長をかいま見ることができた。

    ラージヒルを終えてー

    「前回大会からすごく成長できたと思うし、本当にうれしい。この4年間、僕の周りで1人でも欠けたらこの結果には届かなかったと思う。本当にみんなから刺激をもらえて支えてもらって取れたメダルだ」

    ふだん多くは語らない小林選手が心に抱き続けてきた思いだった。
    葛西選手から日本の未来のエースに託されたヒルサイズを超えるジャンプは見せた小林選手。次のオリンピック舞台でもラージヒルの金メダルを目指して“ビッグジャンプ”を飛び続けるに違いない。

    小林陵侑選手のこれまでの歩みを特集記事で

    小林陵侑選手のプロフィールはこちら

    その他の特集

      ニュース