男子モーグル 堀島行真 メダル獲得の“4つの要因”

北京オリンピック、スキーフリースタイルモーグルで日本男子のエース、堀島行真選手が今大会、日本勢で初めてのメダルを獲得した。
前回のピョンチャン大会では転倒して11位と惨敗し、雪辱を誓って臨んだ北京の舞台。メダル獲得には4つの要因があった。
(スポーツニュース部 記者 小林達記)

目次

    攻めのスピードでターンのミスをカバー

    メダル獲得の最大の要因は、決勝のレースで見せたスピードにあった。
    堀島選手の今大会のフィニッシュタイムを見てみる。

    予選1回目 25秒38
    予選2回目 25秒75
    準々決勝 25秒20
    準決勝 25秒47
    決勝 23秒86

    準決勝までの平均は25秒45だったが、決勝ではそこから1秒59も速い23秒台のタイムをマークした。
    今大会のすべての選手の予選から決勝までのレースの中で4位に入る速さ。
    堀島選手がいかに決勝でギアを上げたか明らかだ。

    100点満点のうち20点を占めるタイム点は、タイムが速ければ高得点が出る仕組み。
    しかし、当然、スピードを出せば出すほど、急斜面を滑り降りる中でターンやエアの乱れにつながるリスクが高まってしまう。
    決勝について堀島選手はこう振り返った。

    堀島行真選手

    「スピードをしっかり出していこうと思っていた。途中からスピードを抑えることができなかったので最後まで攻め続けた」

    スピードが出て転倒しそうな危ない場面も見られ、ターン点の減点はあった。
    ただ、それを上回るスピードで得点を稼ぎメダルを手繰り寄せた。
    攻めのターンが功を奏したのだ。

    “勝負しないエア”で勝負?!

    モーグルに設けられている2つのエア。このエアでのミスは致命的だ。
    減点もあり、その後の滑りのターンにも大きく響く。

    準々決勝の堀島選手のエア(連続合成写真)

    決勝でのエアの選択もメダル獲得につながった。
    堀島選手が決勝で出したエアは1つ目が「フルツイスト」(伸身後方宙返り1回ひねり)、2つ目のエアが「コークスクリュー1080」(軸を斜めに3回転)だ。

    決勝の第2エア

    堀島選手は世界で1、2を争うエアの技術の持ち主。決勝で見せたエアよりも、実はもうワンランク上の「ダブルフルツイスト」(伸身後方宙返り2回ひねり)「コークスクリュー1440」(軸を斜めに4回転)をできる実力もある。

    しかし、大技は得点が伸びる可能性がある一方、着地の乱れなどミスのリスクも高まる。エアの考え方について、堀島選手は以前から「リスクを下げて勝つこともある」と話し、今シーズンのワールドカップでは堀島選手にとって確実に決められる「フルツイスト」「コークスクリュー1080」の組み合わせを多用した。
    大技に挑戦するのではなく、あくまで技の完成度での勝負にこだわってきたのだ。

    決勝の舞台でもいつもどおりのエアで臨んだ堀島選手。
    エアの点数は「17.54」でトップとはわずか0.14差。ターンの乱れをエアの得点でカバーしてメダル獲得につなげたのだ。

    他競技から学んでレベルアップ!!

    屈辱のピョンチャン大会以降、モーグルのターンとエアの総合力を高めたのがほかの競技だった。

    「パルクール」に取り組む堀島選手

    さまざまな障害を乗り越える「パルクール」「体操」「トランポリン」「フィギュアスケート」「飛び込み」「スノーボード」。ざっと挙げただけで6つの競技にのぼる。ほかのスポーツに取り組み、モーグルに生かそうとしてきたのだ。

    今シーズンから新たに始めたのはフィギュアスケート。
    わずか数ミリの刃で左右のエッジに体重を乗せながら滑って繊細な足裏の感覚を磨いてきた。さらにパルクールや飛び込み、トランポリンや体操は、得意とするエアの空中感覚をより研ぎ澄ましたものにした。
    たゆまぬ努力に加えて他競技に取り組んだことが、精神的にも好影響を与えていた。

    ピョンチャン大会以降、自信を失っていた堀島選手は、こうした挑戦をすることで、時折、折れそうになる心を保っていた。

    堀島行真選手

    「例えばフィギュアスケートであれば滑れるようになっただけでうれしいし、片足でバランスを取れるようになったとか、そうした1つ1つの段階をこなしていくことで、自分の気持ちもプラスに変わっていった。小さな目標を達成していくことで、『自分はできる』という感覚を取り戻すことができた」

    ピョンチャン大会で失った自信は他競技への挑戦を通して北京オリンピックへの手応えに変わっていたのだ。

    ライバル キングズベリー(カナダ)の存在

    堀島選手の躍進を語るうえで欠かせないのが、カナダのライバル、ミカエル・キングズベリー選手の存在だ。

    キングズベリー選手はピョンチャン大会の金メダリストで、今大会は銀メダルを手にした。今シーズンのワールドカップではデュアルモーグルを除いて、7戦中、堀島選手が3勝、キングズベリー選手が4勝とほぼ互角の戦いをしていて、お互いにライバルと認め合っている。

    堀島選手はキングズベリー選手についてこう話していた。

    堀島行真選手

    「スポーツ界の中でもこれほど勝っている選手はなかなかいないと思う。ミカエル選手が僕をいちばんのライバルとして見ている現状を光栄に思っていて、その中でトップ争いができるのがものすごく楽しい」

    勝ち続けるキングズベリー選手がいたからこそ、堀島選手は追いつこうと努力を重ねることができた。
    オリンピックの決勝のレース後も2人は健闘をたたえ合っていた。

    試合後、キングズベリーは言った。

    キングズベリー選手

    「(堀島)行真がいい滑りをしていたのですごいプレッシャーを感じていた。自分のパフォーマンスに満足しているが、金メダルを取りたかった」

    堀島選手の存在がライバルを奮いたたせていた。
    堀島選手も届かなかった金メダルへの思いを口にしていた。

    堀島行真選手

    「本当の夢は金メダル。これからまた頑張りたい」

    試合後のセレモニーで堀島選手は滑ったばかりの250メートルにも及ぶコースのこぶを見つめていた。

    堀島行真選手

    「ちょうど僕が立ったところが滑ったラインだったので。次に滑るならもうちょっとこうしたい…」

    気持ちは早くも次のオリンピックへ向かっている。

    堀島行真選手のプロフィールはこちら

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