アスリート×ことば

中途半端だと言われようが“僕は僕”

中途半端だと言われようが“僕は僕”

根尾昂 野球

2022年6月19日。バンテリンドームナゴヤの中日ファンは「竜の宝」を前に、ことし1番とも思える盛り上がりを見せた。
その視線の先にいたのは根尾昂。立っているのはマウンドだ。
大阪桐蔭高校時代、甲子園で野手として、そして投手として活躍したスターが初めて本拠地のマウンドに立ったのだ。

野手から投手へ、そしてシーズン途中という“異例中の異例”と言われる転向。プロ4年目の22歳、新たな挑戦だ。

根尾は今シーズン、バッティングを生かすため、本格的に外野手として始動した。しかし、春のキャンプから試行錯誤を重ねるも、バッティングの状態は上がらない。そのまま入った今シーズンでは代走や代打での起用が続いた。
そして開幕から2か月で、今度はショートに再転向。じっくりと実戦を積むのかと思いきや、6月には「投手への登録」が発表された。

「昨シーズンの終わりから(投手転向の)話しをさせていただいていたので、このタイミングになったかという感じです」

投手転向後、初めて取材に応えた根尾の表情は明るく、何か充実感に満ちあふれていた。そして同時に謙虚さも忘れない。

「プロ野球ではまだピッチャー1年目なんで、そこはゼロからの気持ちで、吸収できるところは吸収してやっていきたい」

根尾は1軍で6月28日までで5試合に登板、打者18人に投げて1失点。そして最速は152キロ。本格的に投手の練習をしていないなかでのこの数字にはポテンシャルの高さを改めて感じた。

「もちろんもっと打ちたいという気持ちはあります」

投手に転向しても、打者としてのともし火をまだ消していない。
聞こえてくるのは転向に対する周りの賛否の声。でも根尾はきっと自分自身の可能性をいちばんよく知っているから、動じない。

「中途半端だと言われようが、ピッチャーで投げる機会があれば打席に立つ機会もあるので、過去に内野手や野手から投手になった例がないというのは聞いてはいるんですけど、“僕は僕”なんで。どこでプレーをしようと、自分の目標に向かってしっかり取り組んでいきたい」

「二刀流」という大仕事を果たす日が来るのか、期待は膨らむが、現実はそう簡単ではない。
それでも厳しい道のりほどやりがいがあるもの。根尾の言動には、何かやってくれそうな雰囲気があふれている。