就任1年 経済好調も政権運営さらに困難か

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20日で就任から1年。トランプ大統領は、株価の上昇や低い失業率など好調な経済状況をみずからの実績だと強調していますが、議会の与野党対立で予算をまとめられず、政府機関の一部閉鎖に追い込まれたほか、いわゆるロシア疑惑の捜査で政権の足元を揺さぶられており、政権運営は一段と難しいものとなりそうです。

目次

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公約の多く実現できず ロシア疑惑や内幕本も

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就任1年を前に、19日にホワイトハウスで演説を行ったトランプ大統領。この1年を振り返り、「経済はかつてないほど好調だ。株価は一貫して高く、失業率は17年間で最も低い」と述べ、好調な経済状況はみずからの実績だと強調しました。
就任後初の、政権に対する国民の審判ともなる、ことし11月の中間選挙に向けて官民合わせて100兆円を超えるインフラへの大規模投資など、公約の実現を進めていくことで支持率の底上げにつなげたい考えです。

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しかし今年度の予算は、議会の与野党対立でアメリカの会計年度が始まる去年10月から4か月近くたった今も成立せず。短期間の暫定予算でしのいでいるのが現状で、20日には新たな予算をまとめられずに政府機関の一部閉鎖に追い込まれました。
また、メキシコとの国境沿いの壁の建設の公約も予算確保のめどがたたず、公約の多くが実現できていない状態です。

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いわゆるロシア疑惑をめぐっては、捜査に当たるモラー特別検察官の追及が政権中枢まで及ぶという見方も依然として根強く、政権の足元を揺さぶり続けています。
さらに、今月出版された政権の内幕を描いたとされる本で「大統領は幼稚で歴史や国際情勢に疎い」と指摘されたほか、今月行われた会合でアフリカの国々やカリブ海の島国のハイチを侮辱するような発言をしたと報じられました。

トランプ大統領は、本の内容はうそだらけだとして抗議するとともに、会合での発言についても否定。しかし、大統領としての適性を疑問視する見方も広がっており、今後の政権運営は一段と難しいものとなりそうです。

ホワイトハウス 政権の成果発表

ホワイトハウスは去年12月、1年間のトランプ政権の成果を発表しました。内容は以下のとおり。

経済

▼トランプ大統領の指導力で歴史的な減税を盛り込んだ税制改革を実現。

▼ダウ平均株価は60回以上最高値を更新した。

▼170万人の雇用を新たに生み出した。

▼失業率は4.1%と過去およそ17年間で最も低い。

▼雇用を脅かすさまざまな規制を撤廃。地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの脱退表明など。

▼トランプ大統領の働きかけで、外国企業が相次いでアメリカに投資。トヨタ自動車とマツダがアメリカでの新工場建設に16億ドルを投資し、およそ4000人の雇用につながる見通しに。

貿易

▼アメリカ第一主義を追求してTPP=環太平洋パートナーシップ協定から離脱。アメリカの雇用を守った。
▼アメリカの貿易赤字を削減するためNAFTA=北米自由貿易協定の見直しを進めている。

外交

▼エルサレムをイスラエルの首都と認め、選挙公約を守った。

▼12日間にわたる初のアジア歴訪で、日本や韓国では大統領が先進的な軍事装備品の売却の約束を強調。

▼トランプ大統領が、外国で拘束されているアメリカ人の解放に尽力。中国で逮捕されたカリフォルニア大学の学生3人の釈放やタリバンに拘束されたアメリカ人家族の救出など。

安全保障

▼「力による平和」の実現に向け国防費の増額を指示。

▼過激派組織IS=イスラミックステートが、イラクとシリアでほとんどの拠点を失った。

▼核とミサイルの開発を続ける北朝鮮に対し圧力を強め、トランプ政権が北朝鮮の政権を支援している中国の金融機関に制裁を科した。

選挙公約はどこまで実現? 検証団体が評価

政治家の発言などを検証している団体「ポリティファクト」は、トランプ大統領が選挙期間中に掲げた公約がどのくらい実現したのか、評価を行いました。詳しくは次のとおり。

実現したのは9%

▼法人税の減税などを盛り込んだ税制改革

▼地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの脱退

▼TPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱 など

破ったのは7%

▼中国を為替操作国に認定する

▼監査が終了すれば、収入や納税額を記した確定申告書を公表する

取り組み中が47%

▼メキシコ国境沿いでの壁の建設

▼医療保険制度=オバマケアの撤廃

▼NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉 など

保留状態が32%

▼クリントン元国務長官を捜査するための特別検察官の指名

▼アメリカで暮らすシリア難民の国外退去 など

アンジー・ホラン編集長の見方:

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▼トランプ大統領は議会の協力が必要な公約を多く掲げた。議会の支援がなければ公約実現は難しい。

▼ことし11月の中間選挙で与党・共和党が勝利しなければ、公約の実現がいっそう遠のく。

トランプ大統領 支持率推移

アメリカの政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、各種世論調査のトランプ大統領の支持率の平均値の推移は次のとおり。

▼就任当初の去年1月には歴代大統領に比べて低いおよそ44%。

▼その後少し下がったあとは、上がったり下がったりを繰り返しながら、30%台後半から40%台前半で推移。

▼30%台半ばを割り込むことはほとんどなく、底堅さも見せている。

各種の世論調査によると、共和党の支持層ではおよそ80%がトランプ大統領を支持すると回答。共和党の支持層では根強い支持を維持。

就任1年の支持率 歴代大統領を比較

1938年からアメリカの大統領の支持率を調査している世論調査会社ギャラップがまとめた、就任から1年がたった1月時点の歴代大統領の支持率は次のとおり。

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トランプ大統領は、第2次世界大戦後の歴代大統領の中でもっとも低い38%という結果に。

最も高かったのは2001年に就任したブッシュ大統領の84%。2001年9月11日に起きた同時多発テロ事件のあと、愛国心が高まっていたアメリカの世論が反映されたものと見られる。

2番目に高かったのは、1989年に就任した父親のブッシュ大統領の80%。ソビエト連邦と冷戦の終結を宣言した直後だった。

そのほか年代を追って見ると、アイゼンハワー大統領は71%、ケネディ大統領は79%、ニクソン大統領は63%、カーター大統領は54%、レーガン大統領は48%、クリントン大統領は55%、オバマ大統領は49%。

選挙を経ず、副大統領から昇格したトルーマン大統領とジョンソン大統領それにフォード大統領は、比較の対象になっていないものの、就任から1年の時点の支持率はいずれも40%超。

トランプ大統領の成績 5段階評価

アメリカの政治専門サイト「ポリティコ」などは今月行った世論調査で、アメリカの学校で評価する際に一般的に採用されているA・B・C・D・Fの5段階評価で、トランプ大統領の1年間の成績を有権者に尋ねました。

結果

▼最も高いA…18%

▼2番目のB…17%

▼3番目のC…14%

▼4番目のD…11%

▼最も低く「落第」のF…35%

アメリカ第一主義に批判や懸念

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トランプ大統領はこれまでアメリカ第一主義を掲げ、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱や、イランとの核合意を認めない方針を打ち出すなど、国際的合意をほごにすることもいとわない姿勢を取り、国際社会からは批判や懸念の声も出ています。外交面の主な取り組みと、もたらされた結果や反応は次のとおり。

▼トランプ大統領はこの1年の外交の成果として前のオバマ政権が推進してきたTPP=環太平洋パートナーシップ協定や「パリ協定」からの離脱表明などを挙げ、アメリカの経済と雇用が損なわれるのを防いだと自賛。

▼オバマ政権が欧米諸国などとともに結んだイランとの核合意については「認めない」と表明。合意からの離脱も辞さない構えを示すなど、国際的合意をほごにすることもいとわない姿勢を取り、国際社会からは批判や懸念の声も。

▼中東政策をめぐっては、エルサレムをイスラエルの首都と認めると宣言。選挙公約を守ったとしているが、アラブ諸国などからは強い反発が。また、イランと敵対するイスラエルやサウジアラビアとの関係強化に乗り出し、イランとの対立が深刻化。

▼オバマ前政権がクーデターでの政権奪取や人権侵害について批判してきたエジプトのシシ大統領やタイのプラユット暫定首相とも会談したほか、中国やフィリピンなどの人権状況にも言及する姿勢が見られないなどとして、「民主主義」や「人権」といったアメリカが最も大事にしてきた理念を軽視していると批判の声が上がる。

▼アジアでは、核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮を最優先の課題と位置づけ、北朝鮮に最大限の圧力をかけるよう国際社会に呼びかけるとともに、結びつきが強い中国に協力を迫る。

▼中国に対しては貿易不均衡や知的財産の侵害をめぐる問題で厳しい措置を講じる可能性も示していて、米中関係の行方に注目が集まる。

▼トランプ大統領が意欲を示してきたロシアとの関係改善については、糸口が見つからないまま。むしろシリアなどで主導権を奪われ、中東地域でロシアの影響力が増す中、米ロ関係は冷え込んだ状態のまま。

▼トランプ政権は去年12月に発表した政権初の「国家安全保障戦略」で中国とロシアを「競合勢力」と位置づけ、両国の影響力の拡大に対する警戒感をあらわに。トランプ大統領は、アメリカの指導力を今後どう確保していくのか問われることになりそう。

外交の“最大の成果”と“最大の失敗”

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トランプ政権発足から去年10月まで国務省の上級顧問として政権の外交政策に携わってきたクリスチャン・ウィトン氏は、次のような見方をしています。

最大の成果は

アメリカがシリアやイラクに大規模な地上部隊を派遣せずにISが勢力を失ったこと。「トランプ政権は中東から経済的にも安全保障的にもより重要なアジアへ関心を移すことができる」と評価。

最大の失敗は

シリアの行方をめぐるロシアとの対話が不足していたこと。アメリカとしてはロシアと対話を重ね、シリアからイランの影響力を排除することが重要。

“エルサレムを首都”評価 重点はイラン問題に

トランプ政権が過去の政権の方針を覆し、エルサレムをイスラエルの首都と認めたことについては「現実に即したものだ」と評価。「過去の政権が首都と認めてこなかったのは、イスラエルとパレスチナの問題をまず解決すれば、中東地域のほかの問題も解決に向かうと考えたからだ。しかし、好戦的でテロを輸出するイランの方が最優先に解決すべき問題だ」と、政権の中東政策の重点がパレスチナよりもイランの問題に移りつつあると指摘。

成果なければ中国に対抗措置も

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「北朝鮮の核・ミサイル問題などに対処するため、去年は中国との対話を重視してきたものの、ことしは中国に行動と成果を求めることになる。とりわけ貿易などで成果がない場合は対抗措置が取られるだろう」と、中国に厳しい対応を取る可能性があるとの見方。

外交面での新戦略は困難 理由は“予測不能”

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ワシントンのシンクタンク、CSIS=戦略国際問題研究所のジョン・ハムレ所長は「今の政権にとって、外交面で新たな戦略を打ち出すことは困難になっている。理由は、大統領の考えを正確に知ることができないからだ」と述べ、予測不能と言われる大統領の個性が外交政策全体に悪影響を与えているという見方を示しました。ポイントは次のとおり。

中東和平交渉への関わり困難に

戦略が欠如したケースは、去年12月に聖地エルサレムをイスラエルの首都だと宣言したこと。「多くの人が、アメリカ外交にとって有益なことだとは思っていない。中東外交のためにはアラブ諸国との良好な関係が求められているのに、アメリカ大使館移転の決定はアラブ諸国がアメリカと公につき合うことを難しくしてしまった」と、アメリカの中東和平交渉への関わりは困難になると指摘。

「単独の道か同盟・友好国との緊密連携か」

国際社会でのアメリカの指導力は低下してきたと指摘。「真に問われているのは、トランプ大統領が『アメリカ第一』を掲げて外交で単独の道を歩んでいくのか。それとも同盟国や友好国と緊密に連携して、国益を守っていくのかだ」。指導力を取り戻し、国際社会と協調しながら外交を進めていくべきだとの考えを示す。

対北朝鮮 「ミサイル防衛の構築を」

核・ミサイル開発を加速させる北朝鮮への対応については「ミサイル防衛の構築に力を入れるべきだ」と指摘。キム・ジョンウン(金正恩)体制への圧力を緩めることなく、日本や韓国という同盟国とともに抑止力を強化していく方法が最善だと強調。

辞任・解任で政権安定せず 識者はどう分析?

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政権発足からこの1年の間、ホワイトハウスでは大統領を支える側近の3分の1が相次いで辞任もしくは解任されていて、ワシントンのシンクタンクブルッキングス研究所のキャスリン・ダンテンパス上級研究員は「離職率が極めて高く、政権がまだ安定していない」と分析しています。

主な辞任・解任

▼去年1月の政権発足後、1か月も経たないうちに安全保障担当のフリン大統領補佐官が辞任。

▼去年夏にはスパイサー報道官、プリーバス大統領首席補佐官、バノン首席戦略官が相次いで辞任もしくは解任。

▼プライス厚生長官が、チャーター機を多用して多額の税金を使ったと批判されて辞任。

側近の高い離職率 原因は?

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ダンテンパス上級研究員によると、ホワイトハウスでトランプ大統領を支える側近64人のうちこれまでに22人が辞め、離職率はおよそ34%。

歴代政権の1年目の側近の離職率は、オバマ政権が9%、その前のブッシュ政権が6%、クリントン政権が11%で、過去最も高いレーガン政権の17%と比べてもトランプ政権の側近の離職率はその2倍と高い。

ダンテンパス上級研究員は「前例がない離職率の高さに驚いており異常だ。安定しておらず、混乱も見られる」と述べたうえで、行政経験のない人たちを側近として民間から大勢採用したことが原因との見方を示す。

そして「多くの課題を抱える大統領には、最良で最も聡明な人たちが側近として必要。中身のある経験豊富な側近こそが大統領の政権運営を支える」とし、「側近の辞任によって多くのものごとが中断することになるので、これ以上離職率が高くならないよう望む。国のためによくない」と述べ、政権が2年目で安定に向かうかどうかが今後の焦点だと指摘。

今後の注目点は

アメリカの一部メディアは、政権1年の節目を受けてトランプ大統領が人事の刷新を検討していると報道。ティラーソン国務長官や国家経済会議のコーン委員長、ロシア疑惑で調査の対象になっている娘婿のクシュナー上級顧問も政権を去る可能性があると報じる。

ティラーソン国務長官は報道を否定しているが、外交政策をめぐるトランプ大統領との意見の食い違いが指摘されてきただけに、もしティラーソン氏が政権を去れば、アメリカの対北朝鮮政策などにも影響を及ぼす可能性があると見られている。

政権の安定は見込めるのか 特派員はこう見る

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ワシントン支局の油井記者が指摘するポイントは以下のとおり。

▼現在の政権はケリー大統領補佐官を始めとする軍人出身者が中心になって支えていて、安定感が出始めている。しかし、この軍人が支える状況が長続きする保証はない。

▼最大の原因はトランプ大統領自身。最近では、ケリー氏の規律の厳しさに嫌気が差し、大統領執務室で過ごす時間が急激に減り、寝室などでテレビを見たり友人に電話をしたりする時間が増えていると伝えられている。

▼また、トランプ大統領が1日平均7回から8回つぶやくツイートは物議を醸す内容が多く、ケリー氏ら側近を悩ませている。 

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▼トランプ大統領の側近が固まり、安定した政権運営ができるのか。現時点でその見通しは立っておらず、むしろ政権2年目も混乱が続きそう。

米経済は拡大見通し 内向きな政策がリスクに

アメリカの経済は、税制改革の実現などに後押しされて拡大する見通しに。ただ、強硬な姿勢で臨むNAFTA=北米自由貿易協定の再交渉など、内向きな経済政策が貿易の障壁を生み出し、世界経済のリスクになりかねないという指摘が上がっています。ポイント次のとおり。

ポジティブな面

▼アメリカの失業率は、トランプ大統領が就任した去年1月以降、17年ぶりの低い水準に改善。個人消費も上向くなど、アメリカ経済は好調を維持。

▼先月には法人税の大幅な引き下げなどを盛り込んだ税制改革が成立し、企業の投資が活発になることが見込まれ、経済成長の勢いは加速する見通し。

先行きにリスクも

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▼ダウ平均株価がこの1年で30%以上上昇するなど、過熱感が高まっているという指摘が。

▼内向きな経済政策によって各国との摩擦が激しくなれば、貿易減少のおそれが。世界経済にとってリスクだという指摘も。
トランプ政権は国内に雇用を取り戻すとして通商政策で各国に強硬な姿勢。中でもメキシコなどと行っているNAFTAの再交渉では自国の主張がとおらなければ離脱する構えを示す。また、貿易不均衡を是正するため、中国に対し何らかの制裁措置の発動を検討していることも明らかに。

判事の90%以上が白人で懸念

トランプ大統領が就任以降、指名した連邦裁判所の判事の90%以上が白人であることを受けて、野党・民主党や黒人の市民団体は、トランプ大統領が人種の多様性を軽視していて判事の保守化が進んでいると強い懸念を表明しています。

人権団体や民主党の議員によると、トランプ大統領が就任以降、指名した連邦裁判所の判事72人のうち66人が白人。黒人は1人でアジア系が4人、ヒスパニック系が1人。

指名した判事全体の91%が白人でこのうち77%は男性。白人男性の割合が高い。

また歴代の大統領が指名した判事に占める白人の割合は、前のオバマ大統領が66%、その前のブッシュ大統領が82%、クリントン大統領が76%。トランプ大統領の91%は最近では高く、80年代から90年代のレーガン大統領やブッシュ大統領の時代に匹敵する高さに。

アメリカ議会では今月9日、民主党の上下両院の黒人議員たちが公聴会を開いてこの問題を取り上げ、トランプ大統領が人種の多様性を軽視していて判事の保守化が進んでいると強い懸念を表明。

公聴会で証言した黒人の市民団体「全米黒人地位向上協会」の法務担当者は、「トランプ大統領の目的は、彼の差別的で敵対的そして問題のある政策を承認する法廷だ。われわれは非常に懸念している」と述べ、判事に占める白人の割合が増えていることに強い懸念示す。