トランプ政権「ロシアゲート」の行方

「ロシアゲート」。トランプ政権が直面するロシアとの関係を巡る一連の疑惑を、アメリカのメディアはアメリカ政治史上、最大のスキャンダルとされる「ウォーターゲート事件」になぞらえて、こう呼んでいます。FBI長官の突然の解任、加熱する疑惑報道、特別検察官の任命、急展開する一連の疑惑は政権の足元を揺さぶり始めています。(ワシントン支局 石山健吉記者)

突然の解任劇

「トランプ大統領はきょうFBIのコミー長官に解任を通告した」

5月9日、ホワイトハウスのスパイサー報道官が出した数行の声明にアメリカで激震が走りました。任期途中でのFBI長官の突然の解任。当時、ロサンゼルスに出張中だったコミー氏自身、ニュース速報で初めて知ったといい、誰も予想していなかった事態でした。

解任の理由について政権側は去年のアメリカ大統領選挙で民主党の候補だったクリントン元国務長官のメール問題の捜査で、コミー氏の対応に誤りがあったと説明しました。
しかし、コミー氏がトランプ陣営とロシアとの関係を巡るFBIの捜査を指揮していたさなかの突然の解任劇に、真の狙いは捜査妨害や疑惑隠しにあるのではないかという批判が噴出しました。

「ロシアゲート」とは

ことし1月の政権発足後、トランプ政権にとってのアキレス腱となってきたロシアを巡る疑惑。発端は去年の大統領選挙でロシアがサイバー攻撃などによって選挙に干渉したとされる問題でした。政権発足前のことし1月6日、アメリカの情報機関はこの問題を分析した報告書を公表。ロシアのプーチン大統領がクリントン氏の信用をおとしめ選挙活動を妨害するとともに、トランプ大統領の誕生を後押しすることを狙ってみずから選挙への干渉を指示したと結論づけました。
このロシアのたくらみにトランプ陣営の関与はなかったのか。
トランプ政権に批判的なメディアの関心はトランプ陣営とロシアのつながりへと移り、元陣営幹部を巡る疑惑が次々に明るみになっていきます。

ニュース画像

そのひとりがトランプ大統領の側近とされていたマイケル・フリン前大統領補佐官でした。フリン氏はことし2月、政権発足前にロシアの駐米大使と対ロシア制裁について協議しながらこれを隠していたことがわかり、辞任に追い込まれました。フリン氏を巡っては軍を退役後の2015年にロシアの政府系メディアから講演料として受け取ったおよそ500万円を政府に申告していなかった疑惑も発覚。さらに一時、トランプ大統領の選挙対策本部の幹部を務めたポール・マナフォート氏がおよそ10年前、プーチン大統領に近い大富豪に対しプーチン政権に有利になるようアメリカやヨーロッパの政財界などに働きかけを行うことを提案し、多額の報酬を受け取っていたことも報じられました。
またトランプ大統領の長女、イバンカ氏の夫のクシュナー大統領上級顧問なども去年、ロシア側と接触していたことが明らかになり、トランプ大統領周辺とロシアとの緊密な関係に疑惑の目が注がれています。

FBIの捜査と司法妨害

「ロシアとトランプ陣営の間で何らかの連携があったのかどうか、ロシア政府とトランプ陣営の関係者とのつながりを含め捜査している」。

ニュース画像

ことし3月20日、当時のFBIのコミー長官は議会下院の公聴会で疑惑の捜査を進めていることを初めて公式に認めました。

それから1か月半後の一方的なコミー氏の解任は、はからずも「ロシアゲート」を巡る、より深刻な疑惑を浮き彫りにしました。トランプ大統領による司法妨害の疑惑です。

「トランプ政権がロシアを巡る捜査におびえ、事実を隠すために解任したのではないか」(野党・民主党)。

司法妨害はアメリカ連邦法に規定される犯罪で、ニクソン大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件でも大きな焦点となりました。この時、ニクソン大統領は事件を捜査していた特別検察官の解任を命じ、これに反発した司法長官や司法副長官が次々に辞任。土曜日の夜に起きたこの一連の出来事は「土曜日の夜の虐殺」と呼ばれ、その後のニクソン大統領の弾劾、辞任の流れへとつながっていきました。

野党、民主党の議員らはコミー氏の解任をこの史実に重ね合わせながら、トランプ大統領の司法妨害を追及する構えを見せています。

「コミー・メモ」

この疑惑をさらに深めたのが、5月16日付けでアメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」が報じたコミー氏とトランプ大統領の会話の記録「コミー・メモ」の内容でした。

報道によりますとコミー氏は、トランプ大統領との面談や電話で交わした会話の内容をメモに記録し、一部の幹部と共有していたといいます。そしてその記録を読んだ関係者の証言として、トランプ大統領がことし2月14日にホワイトハウスでコミー氏と面談した際、フリン前大統領補佐官を巡る捜査について「この件は終わりにしてほしい」と述べ、捜査をやめるよう求めていた疑いが明らかになったのです。

報道に対しホワイトハウスはすぐに声明を発表。「大統領がコミー氏に捜査をやめるよう求めたことは一度もない」と全面的に否定し、トランプ大統領自身もその後の記者会見で「ない」と一蹴しています。

しかし、一連の疑惑を受けて与党・共和党からも事実の解明を急ぐべきだという声が高まり、コミー氏に議会での証言を求める動きが強まっています。

特別検察官の任命

「ロシアゲート」を巡る動きは「コミー・メモ」の報道の翌日の5月17日、さらに新たな展開を見せます。捜査を監督する司法省が独立性の高い特別検察官の任命を発表したのです。

ニュース画像

任命されたのはコミー氏の前任で2013年に退任するまで12年間にわたってFBIの長官を務めたロバート・モラー氏です。あらゆる圧力に屈せず捜査の独立性を重んじ粘り強い捜査をする厳格な人物と評されています。

モラー氏の特別検察官任命を決めたのが、司法省で事件の責任者を務めるローゼンスタイン副長官でした。ホワイトハウスはかねてから特別検察官の任命に否定的でしたが、ローゼンスタイン副長官は事前にホワイトハウスに相談することなく任命を決めたとされ、その理由について声明で「特異な状況を踏まえ、人々の関心に応えるため通常の指揮系統から独立した権限のもとで捜査を進めることが求められている」と説明しています。

報道によりますと、モラー氏の任命後に初めて事実を聞かされたというトランプ大統領はその時こそ激高するようなことはなく、冷静に受け止めた様子だったということですが、後に「これは魔女狩りだ」といらだちをあらわにしました。

モラー氏には今後、トランプ陣営とロシアの関係を巡る問題だけでなく、「捜査により浮かび上がったあらゆる事柄」について捜査できる特別な権限が与えられ、実態の解明への期待が高まっています。

司法妨害にあたるのか

一連の疑惑に対しトランプ大統領は、陣営とロシアとの間に共謀は一切なかったなどと強く否定したうえで、「歴史上、メディアによってこれ以上、悪く不公平に扱われた政治家はいない」と述べて不満をつのらせています。

ニュース画像

また、仮にトランプ大統領による捜査中止の要請が事実であったとしても、大統領には強大な権限が与えられており、FBI長官を解任したり、事件について責任者に問いただしたりすることも可能なことから、それがすぐに司法妨害とみなされるかどうかについては意見がわかれています。
専門家の間では司法妨害にあたるかどうかは、トランプ大統領にどのような動機と目的があったのかという「意思」が鍵を握るとする一方、その「意思」の証明は容易ではないという見方が大勢を占めています。

果たしてトランプ陣営とロシアとの間に何らかの共謀はあったのか、政権に事実を隠蔽しようという思惑があったのか。アメリカ国内では特別検察官の捜査に加えて、議会でも独立した調査を立ち上げるべきだという意見が出るなど、実態の解明に向けた機運は高まりつつあります。

超大国アメリカの政治の不安定化は、国際情勢の行方にも影響を与えかねないだけに、一刻も早い真相の究明が求められています。

石山健吉

ワシントン支局

石山健吉 記者