大統領が“フェイクニュース大賞” ~深まるメディアとの対立~

今月20日で就任から1年となるトランプ大統領は17日、“フェイクニュース大賞”と称して、自身がうそだったとみなした報道をツイッターを通じて発表。選ばれたのは11のニュース。トップには、おととしの大統領選挙でトランプ氏が勝利した際、「これで経済は決して回復しない」とする経済学者の見解を報じた、ニューヨーク・タイムズの報道を挙げました。批判的なメディアに圧力をかける狙いがあるとみられ、メディアとの対立がさらに深まっています。

トランプ大統領が“フェイクニュース大賞”に選んだ11の報道と、あわせて記したみずからの主張や反論は以下のとおり。

1.ニューヨーク・タイムズ

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【内容】
おととしの大統領選挙でトランプ大統領が勝利した際、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者のポール・クルーグマン教授が「これで経済は決して回復しない」とした見解を掲載した報道。
【主張・反論】
大統領就任以来、アメリカ経済は200万人近い雇用を創出し、8兆ドル以上の富を獲得している。また、黒人やヒスパニック系の市民は、歴史上で過去最低の失業率を享受している。

2.ABCテレビ

【内容】
去年12月、いわゆる「ロシア疑惑」をめぐり、トランプ大統領がフリン前大統領補佐官にロシア側と接触するように指示したと報じた内容について、接触を指示した時期について誤りがあったとして、担当した記者が停職処分になったことと、これによって株価が急落したことについて。

3.CNNテレビ

【内容】
大統領選挙の期間中、内部告発サイト「ウィキリークス」からハッキングされた資料を、当時候補者だったトランプ氏と長男のジュニア氏が入手したという報道。

4.タイム

【内容】
トランプ大統領が、大統領執務室からキング牧師の胸像を撤去したという報道。

5.ワシントン・ポスト

【内容】
フロリダ州で開かれたトランプ大統領の集会に、ほとんど人が集まっていなかったとするツイッターの写真を載せたこと。
【主張・反論】
大勢の人が会場の外でこれから入ろうとするところで、中に入れない人もいるほどだった。不誠実な記者が、人でいっぱいになる前の写真を掲載した。

6.CNNテレビ

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【内容】
トランプ大統領が去年日本を訪れた際、こいが飼育されている迎賓館の池に木箱の餌をすべて投げ入れた映像の編集。
【主張・反論】
過剰な餌のやり方に見せているが、先に餌をすべて投げ入れた安倍総理大臣にならっただけだ。

7.CNNテレビ

【内容】
トランプ政権の元広報責任者のスカラムッチ氏がロシア側と接触していたという報道で、編集のプロセスが守られていなかったとして、担当した3人の記者が辞職したことについて。

8.ニューズウィーク

【内容】
ポーランドの大統領夫人がトランプ大統領と握手をしなかったという報道。
【主張・反論】
握手をしている写真を公開。

9.CNNテレビ

【内容】
トランプ大統領が「ロシア疑惑」をめぐる捜査の対象になっていないとする主張に対し、FBIのコミー前長官が議会の公聴会で異議を唱える見通しだとする報道。

10.ニューヨーク・タイムズ

【内容】
トランプ大統領が気候変動に関する報告書を隠蔽していたとする報道。

11.ロシアとの共謀をめぐる報道

【主張・反論】
ロシアと共謀したとする報道は、アメリカ国民に対する最大のでっち上げ。ロシアとの共謀はない!

ワシントン・ポストが反論

有力紙ワシントン・ポストは、トランプ大統領が“フェイクニュース大賞”として選んだ11の報道に対し、1つ1つに反論しました。

大統領選挙でトランプ氏が勝利した際、「経済は決して回復しない」とする経済学者の見解を掲載したニューヨーク・タイムズの報道については、「これはニュースではなくコラムニストの見解にすぎない。さらに、彼はこの見解をわずか3日後には取り下げている」としました。

また、みずからの報道としてやり玉にあげられた「トランプ大統領の集会にはほとんど人が集まっていなかったとする写真を掲載した」という内容について、「記者がツイッターに投稿したもので数分後には訂正している。このため記事にはしていないし、記者はすでに謝罪している」と反論しました。

そして「トランプ大統領が選んだ11の報道のうち、少なくとも8つについては、誤りを認めてすでに訂正しており、2つに関しては記者の停職処分や辞職といった措置を取っている」としたうえで、「誤りは誰もが犯すものだ。重要なのは誤りに気づき、訂正することだ。トランプ大統領は2000以上のうそや誤った発言をしていながら、ほとんど間違いを認めていない」と批判しました。

CNN記者「なんと呼ぼうが、それが仕事」

首都ワシントンでは17日、トランプ政権を取材する記者らが参加したシンポジウムが開かれました。

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ホワイトハウス担当で、トランプ大統領に質問を拒否されたことがあるCNNテレビのアコスタ記者は、「トランプ大統領はわれわれをフェイクニュースと呼び、報道に対する信頼をおとしめている。大統領としてふさわしくない対応をしており、容認すべきでない」と非難。「われわれの行動指針は真実を伝えることだ。大統領が誰であれ、われわれをなんと呼ぼうがそれがわれわれの仕事だ」と強調しました。

「恥ずべきこと」と与党内からも批判

与党・共和党のフレイク上院議員は17日、本会議場で演説し、トランプ大統領がメディアを「人々の敵だ」と主張していると指摘。旧ソビエトの指導者のスターリンを引き合いに出して「恥ずべきことだ。事実に忠実でなければ民主主義は続かない」と述べ、厳しく批判しました。

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与党内からも批判が上がっていることについて、ホワイトハウスのサンダース報道官は記者会見で「われわれは日々メディアを歓迎し、質問を受けている。トランプ大統領もそうだ」と反論しました。

主要メディアを攻撃 FOXは特別扱い

ツイートでアメリカの主要メディアの報道を「フェイクニュース」だと、繰り返し攻撃してきたトランプ大統領。トランプ大統領のツイートをモニターしているウェブサイトによると、大統領に就任して以降、今月17日までに投稿した2600回のツイートのうち、「フェイクニュース」と書き込んだのは186回に及んだということです。
そして、各主要メディアがツイートで名指しされた回数はニューヨークタイムズが38回、CNNが34回、NBCが31回でその多くが批判でした。

一方、トランプ大統領が特別扱いをしているのが、保守系のテレビ局FOXです。トランプ大統領はこれまでに174回、FOXやその番組についてツイートを投稿していますが、批判したことはありません。
去年11月のツイートでは「FOXニュースはCNNよりもはるかに重要だ」とか「FOXを除くテレビ局の間で、最も不誠実で不正確な放送をしている局がどこか、コンテストを開催すべきだ」と投稿するなど、FOXをひいきにする姿勢を明確にしています。

「発言のうち約70%に間違い」の指摘も

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トランプ大統領の発言こそ間違いが多い。そう指摘するのは、政治家の発言の真偽を確認する団体「ポリティファクト」のアンジー・ホラン編集長です。
ホラン編集長は「トランプ大統領は頻繁に不正確で誇張した話をする。私たちが調べた彼の発言のうちおよそ70%に間違いがあり、選挙期間中とほぼ同じ割合だった。大統領になれば冷静になってもっと正確に話すのではないかと見られていたが、変わっていないようだ」と話しました。

さらに、「特にツイートに、不正確だったりうそだったりする情報が頻繁に含まれている。準備されたスピーチは側近が内容をチェックできるが、ツイートは自分で思いついたことを書き込んでいるようだ」と分析しました。
またホラン編集長は「大統領は時折、発言内容を変えるほか、同じスピーチの中で矛盾する発言もするので、発言の趣旨を確認するのが非常に難しい」と述べました。

ポリティファクトは去年12月、「ライ・オブ・ザ・イヤー(その年の最大のうそ)」に、トランプ大統領がおととしの大統領選挙にロシアが干渉したことを認めず、作り話だなどと発言したことを選んでいます。

「メディアを信頼」は41% 米世論調査

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アメリカの調査会社ギャラップが全米の1000人余りを対象に去年9月に行った世論調査の結果によると、メディアを信頼すると答えた人は41%でした。大統領選挙中のおととしの調査では32%で過去最低を記録しましたが、トランプ政権発足後、9ポイント上がったことになります。
特に民主党支持層では、51%から72%に上がりました。これに対し、共和党支持層では14%のままで、大半の人がメディアを信頼していないことが浮き彫りになりました。

ギャラップは「民主党支持層は、いわゆるロシア疑惑などを報じるメディアを共和党のトランプ政権の監視役とみなし、信頼度が上がったのではないか」と分析しています。
一方で「メディアを攻撃し続けるトランプ大統領によって、メディアは偏っていてニュースをでっち上げるという主張が広がっている」と見ていて、トランプ政権発足後、メディアへの信頼度をめぐっても与党と野党の支持層の間で差が広がり、分断が深まっていることがうかがえます。

“トランプ大統領 vs.メディア”の1年

トランプ大統領は就任してからのこの1年、主要メディアの報道を「フェイクニュース」と呼び、対立を深めてきました。主な出来事をまとめました。

▼発端は去年1月の大統領就任式の参加人数をめぐる争い。トランプ大統領は、主要メディアが意図的に参加人数を少なく見せて報じたと主張。ホワイトハウスの当時のスパイサー報道官も「不誠実な報道だ」と激しく反発。

▼去年2月、ホワイトハウスは報道官への取材の場にCNNテレビなどが参加するのを認めず、CNNテレビが「気に入らない報道に対する報復措置だ」として強く反発。

▼去年4月、トランプ大統領は大統領が出席するのが恒例となっている年1回のホワイトハウスの記者会主催の夕食会を欠席。

▼去年6月、報道番組でみずからを非難したとして、番組の女性キャスターをツイートで激しく攻撃したうえ、その容姿を侮辱。与野党双方から厳しい批判の声が上がる。

▼去年7月、トランプ大統領は顔にCNNのロゴマークが合成された人を、自身が倒す動画をツイッターに投稿。CNNテレビは記者への暴力を助長していると非難。

▼去年10月、トランプ大統領はティラーソン国務長官がトランプ大統領を「ばかだ」と批判していたと報じたNBCテレビを「フェイクニュースだ」と非難。放送免許を剥奪する必要性にまで言及。

▼トランプ大統領は、ことし1月に発売されたトランプ政権の内幕を描いたとされる本で、大統領としての適性が政権内で疑問視されていると指摘されたことに対し、「フェイクブックだ」と反論。名誉毀損に関わる法律を見直して厳しくすべきだと主張し、物議を醸す。

▼去年6月、CNNテレビは、トランプ大統領の関係者とロシアのつながりを議会が調査していると伝えた記事を事実確認などの社内手続きを経ていなかったとして撤回し、取材した記者ら3人が辞職したことを明らかにし、トランプ大統領が批判を強める。

▼去年12月、アメリカのABCテレビはいわゆる「ロシア疑惑」をめぐりトランプ大統領とロシアとの関わりを伝えた報道の内容に誤りがあったとして、担当した記者を停職処分に。トランプ大統領がツイッターに「処分、おめでとう」と書き込む。